上原善広「路地の子」というノンフィクション本を最近読みました。
自身も被差別部落出身という生い立ちを、その経験や知識からいくつかの習作ノンフィクションを書いている作家が、自分の父親を主要な登場人物としてノンフィクションを書いたのがこの本だ。
食肉処理の現場で働きその後、自分の会社を持ち様々な浮き沈みを経験した…それでも世の中によく知られた人物というわけではなく、一市井人 である父親。その生涯をたどるからこそわかる、戦後史差別部落の経済史、運動史、犯罪史…として興味深いものがあった。
その中で主人公(作者の父親)の知人である、「人斬りタケ」が登場する。
このひとは
・元々被差別部落出身。 身長180 センチ、 体重90キロという、当時としてはかなり巨体の乱暴者で、元々暴くと見習いだった。
・召集されて兵隊になると通信兵となる。当時の通信機器は47kg もあり、それを背負って歩けるとの体力基準で選ばれていた。
・軍隊でも自分の出自を蔑まれると、上官にも刃物を持って脅しつけるような度胸満点の男だった。戦後の混乱期は 腹にダイナマイトを巻いて、「朝連」に殴り込みをかけるなども行い、その名を知られた
・酒癖も悪く、それもあってチンピラ3人を刺す大立ち回りを行い、網走刑務所に入り、ようやく出所した…
ここまでが前提条件です。
以下引用
……武史は自分の狂気を抑えようと出所後は路地に戻らずまずは福井県にある有名な永平寺に入門して修行しようと決めた。これは刑務所の中で常々考えていたことだった。
しかし陰湿な坊主らのイジメに遭うと坊主数人を向こうに回して大喧嘩になった。
今回ばかりはドスがなかったのと、 日頃鍛錬している坊主が相手だったため、逆に袋叩きにされて寺を追い出されてしまった。
「永平寺の坊主は拳法をやっとるから強い。さすがに俺も、これには勝てんかったわ」
思い出したのがこち亀の44巻に収録「両津和尚!」の話。
いや、ギャグだと思ってたんだけどね。
本当にあるとは。
しかし、世間で極道に片足を突っ込んだような乱暴者を屈服させる、寺での陰湿ないじめと、それに逆らった相手をぶったおせる、永平寺の「拳法」ってなんなんでしょう。
実在するのかレベルで気になる。武山少林寺ではないのだ。
- 発売日: 2017/07/05
- メディア: Blu-ray
コメント欄より。角岡伸彦氏が、この本を批判している
やじま
その本、かなり梶原一騎先生的なノンフィクションというかフィクションというか。
https://kadookanobuhiko.tumblr.com/post/167512723599/%E4%B8%8A%E5%8E%9F%E5%96%84%E5%BA%83%E8%B7%AF%E5%9C%B0%E3%81%AE%E5%AD%90%E3%82%92%E8%AA%AD%E3%82%80-%E2%91%A0
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かなりに長く(何本も記事がある)辛辣な批判ですね。「永平寺の坊主は、本当に強いか」問題はさすがにこの膨大な批判でも触れられない論点ですが、もとより出てくる人物の「発言」ともしているし、よくわからんですね。ただ角岡氏が上原氏を批判した文章を書いている、という時点ですごく興味深いです。野村進氏が石井光太
氏を批判した時以来かも。石井光太「遺体」選評騒動 ..
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