相変わらず安定したクオリティを見せる「ハコヅメ」だが、最近の傑作回を紹介しよう。この作品だけ特に贔屓しているように見えるかもしれないが(いや贔屓かもしれないが)この作品が「1話完結」なので、「この回はおもしろかった」と評価できるんだな。で、今こうふと気づくと、一話完結(それもコメディ、ギャグ寄り)という作品自体がそもそも少なくなってるんだなあ、と気づいたなりよ。たぶん皆さんも脳内で好きな漫画を挙げるとしたら、一話完結ものがごく少ないことに気づくだろう、と思う。
それはいいので、余談。
まず17号。警官が殉職したら、遺族はやはりこう思う。
実はこの画面の前で、ある偏屈で頑固な老女と、それに困っているマジメな駐在の日常が淡々と描かれる。「頑固老人とマジメな駐在」、おそらくはツンデレ以前に多くのエンタメに登場していたツンデレで(笑)、後半になって老女がデレるのかなー、と思いきや…そして東日本大震災でも、そして最近のコロナウイルスでもそうだろうけど、一番危険なところの現場に行く人と、その「家族」の関係は、やはりこうなる。ましてや、「相手が素直に指示に従っていたらそんな事故はなかった」なんてことになっていたら。
・・・・・という、なかなか重い話が、過去の回想として語られる。
その話をした人が、実は新署長なのである。
そして次の回。これが特に傑作なんだ。
そして18号。人事異動が済んだ町山署、あの人たちが再登場。
藤部長の同期、如月部長と、この2人の子供のころから剣道を教えていた宮原部長が再登場する。
如月部長はなんでも、忙しい県警本部の刑事課から比較的のんびりした町山署に異動したことを機に、宮原部長とともに剣道をやりたいようなのだが…
以前のエピソードでも紹介された話だが、警察内部にいると「事件解決、課題解決のために不眠不休、休日返上、持ち場を越えて働く正義」と「自らと家族、そして仲間の健康・生活を守るために、内部で頻繁に掛け合っている忖度や『空気』や無言の圧力を、敢えて跳ね返す正義」がしばしば対立する。いや必然的に対立する。
その描き方として、作劇上、その正義…逆からみれば悪を、するっと平等に割り振っているんだ。
ちょっとわかりにくい表現かな。はじめ、上のように「明日重大な捜査がある、交通課にも応援してほしい」と要請にきた刑事たちに、定時で帰ろうとしている交通課の職員がにべもなく「やだよ」となれば、善の刑事課と悪の交通課の対決となる……とまず最初に読者にもミスリードさせといて、怒涛の反転をする。こういう意外性ということね。「読者の予想は裏切り、期待は裏切らない」とはこういうものだろう。そしてそれは、さわやかイケメンで「王子様」とまで(約1人から)呼ばれていた刑事が、さらっと下ネタ大好きで「AV八段」と認定されている(どんな段数だよ)という設定を盛り込むところでも発揮されている(笑)
ただ、そんなやりとりの中で、その王子らが、尊敬する宮原さんに「剣道の指導者」に就任してほしいがゆえに「実は自分たちは子供の頃に指導を受けて、それで警官に…」「今度の剣道大会(宮原さんが指導すれば)うちの署が優勝ですね」みたいな、内部の(読者がよく分からない)価値観に沿った駆け引きが展開される。
その中で最初に「そんな駆け引きの材料、仕掛けられる側」のような形で登場した署長さんが、その話に一見、だまされて乗せられているように見えて、こんな一言を放つ。
こんな一言ってどんな一言なのか、は敢えて消した(笑)。そこは読んでいただくということで…。これも上の話と共通だよね。最初は悪として登場したように見せかけた交通署員が、実は(もう一方の)正論を語る硬骨の士だった!のような意外性のように、最初は「メインキャラクターの思惑にそって操られるカモ」に見えた署長氏が、実は鋭い視点を持つ切れ者。乗せられたんではなく、結果的に同じ方向を向いていたから、若い衆の計略に敢えて乗ったんじゃないか…みたいな話。
このへん、作劇術として大いに学ぶ必要があるところかもしれない。
そして、そんな役どころ、個性を発揮した新署長さんは、実は同じ警察漫画(と言えるだろ、無理やり)の、平成のアイコンであった「後藤隊長」の系譜を引き継げるのではないか…と、「警察生まれの昼行燈そだち、暴れる部下はだいたい手のひら」なノリのね。
以上、最近の「ハコヅメ」からのご報告。