ある時、ピカソが路上で出会ったファンにせがまれて30秒で描いた絵に1万ドルを請求し、『30秒の絵に1万ドルを取るなんて!』と驚いた相手に『いいや、40年と30秒だ』と答えた
— カスガ (@kasuga391) July 25, 2019
――という話がタイムラインに流れてきたけど、実はこの有名な逸話の信憑性は甚だ薄い。
上の逸話の確認できる限りで最も古い出典は、マーク・H・マコーマックの『ハーバードでは教えてくれない経営177則』(1984年)であるが、この本が出版されたのはピカソの死の11年後で、直接の典拠としては非常に弱い。
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そして、この逸話の真偽を疑うに足るもうひとつの根拠は、おそらくこの話の原型となったであろう、19世紀の画家ジェームズ・マクニール・ホイッスラーの、これとほぼ同じ内容のエピソードの存在である。
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1877年、ホイッスラーは代表作である『黒と金のノクターン』を含む数点の絵画を、ロンドンのグロスヴナー・ギャラリーに展示した。 pic.twitter.com/eeoI4yYbwD
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美術評論家ジョン・ラスキンはこの作品を酷評し、ホイッスラーを「200ギニーを貰って大衆の顔に絵の具をぶちまける詐欺師」と罵倒した。
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当時最高の有名評論家だったラスキンの攻撃でホイッスラーの作品には買い手が付かなくなり、ホイッスラーはラスキンを侮辱罪で告訴した。
法廷で、ホイッスラーは『黒と金のノクターン』に200ギニー(現在の日本円で約500万円)の値を付けたことと、その制作には2日しか要しなかったことを認めた。
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ラスキンの弁護士はホイッスラーに質問した。
「あなたは2日間の労働の代価として、200ギニーを要求したのですか?」
それに対し、ホイッスラーはこう答えた。
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「いいや、一生の仕事から得た知識への代価だよ」
それに対し、ホイッスラーはこう答えた。
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「いいや、一生の仕事から得た知識への代価だよ」
改作されて、有名人が語ったことになったエピソードは、もとの話??からだいぶ洗練され、わかりやすくなっているし、それが人口に膾炙するのもまあ、仕方ないなと少し思わないでもないが、それでも原点をたどれる方がいいに決まっているのも事実だ。
またも、「カスガ事件簿」に難事件の解決記録が追加された。
過去の事件はこちらを参照。
togetter.com