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「なつぞら」咲太郎兄ちゃんに「寅さんキャラ復活」の幻影を見る。それは可能か。【創作系譜論】

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成長して、東京で再開してからの咲太郎にいちゃんとなつの掛け合いを見て…あまりにも凡庸平凡な感想というか、制作側もそれを狙ってるに決まってるんだけど、「車寅次郎と妹・さくらの、令和版(まあ舞台は戦後の昭和だけどさ)だなあ」と思いました。


寅さんキャラ……絶えて、とは言わないが、減少して久しい。

そもそも、一代の国民的ヒーロー「寅さん」キャラとは何か。

テキヤ商売、立て板に水のあの口上、あの服装、タコ社長とのとっくみあい……。そういうところは、枝葉だと思うのですよ小生は。

じゃあ、どこを本質、コアとするか。

私見では、「基本的に善意で、人の世話や苦労を引き受けようとする。だけど、初っ端のところで勘違いや誤解があるので、動けば動くほど騒ぎを大きくするトラブルメーカー」として、物語を動かしているキャラ…となる。
古き良き昭和では、こういうのを評して「憎めない」というイイ言葉があったのだが、令和の御代はグローバリゼーションが進んで、クズの大合唱となる(笑)。

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なつぞら咲太郎に「クズ」の大合唱

いや、昭和当時だって寅さんをそう思う人は多かったのだろうけど、それが可視化されなかっただけか…。


こういうキャラクターは、落語には多い。
今回の兄ちゃんが言う「よし俺に任せろ!」、いうんだよ、落語では、「叔父さん」がさ。
「あ、このひとが『万事任せろ』というと、決まってロクなことが無いんだから」と周囲も分かってて、止めようとするが、だいたい「任せろ」といった瞬間に脱兎のごとくどこかに走り去っていったりする。

家に来客を迎える側でも、こんなありさまだ。

宮戸川(みやとがわ) 落語: 落語あらすじ事典 千字寄席
…おじさん、
おいの声を聞きつけ
「また碁将棋でしくじりやがったな。
女の一人も連れ込んでくりゃあ、世話のしがいもあるんだが」
とぶつぶつ言いながら戸を開けてやると、
珍しくも女連れだから、
こいつもやっと年相応に色気づいた
と、大喜び。

違う
と言っても耳を貸さず、
早のみ込みして、
万事おじさんが引き受けて夫婦にしてやるから、今夜は早く寝ちまえ
と、強引に二人を二階に上げてしまう。

古今亭志ん朝(三代目)師匠の落語「宮戸川」


あるいは、意外やこんなところのキャラに系譜がある。

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それでも町は廻っている4巻

主人公が「やれやれ」といってため息をつくだけでは、寅さんキャラは動かないのだ。いわばトラは、「キョン」の天敵というか…(笑)。いや、だがこの二者がコンビを組み、キョンがトラの暴走の記録者やツッコミ役になると、逆に映えるんだよな。



良くも悪くも…というかトータル的には良いことだと思いますが、今の日本は個人のプライバシーや選択権がより尊重されるようになり、善意を駆動力に他人の領分にずかずか入り込んで、「これがお前んためだから!」と力業で何かしてあげる、というような行動様式にあまりリアリティを感じないだろうし、理解もされない。
だから「咲太郎はクズ」ってことになるやもだけど‥しかし、ドラマを動かす原動力には確かになるし「忠臣」や「世話焼き」は、実際にいてウザいか否かはともかく、少し漫画や落語など、そういう創作世界で見る限りは、やっぱり好きだという人は大勢いる、と思う。


当方、以前から「若者の寅さん離れ」という話を観察し、ウームと考えていたところなんだけど
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その記事から続いた考察では、……まず、迂遠であっても、直接寅さんを啓蒙するとかいうより、この時代の「新たな寅さん的キャラクター」が生まれることが肝要なのではないか、と思うのです。そこから「実はそういう人の原型が、この映画にあるんだよ」と寅さんにつなげる。


今回の「なつぞら」の「咲太郎にいちゃん」が、そんな先駆けになり得るのか。興味を持って見守っていきたい。


男はつらいよ 主題歌 (歌詞付き)

俺がいたんじゃお嫁にゃ行けぬ わかっちゃいるんだ妹よ いつかお前の喜ぶような 偉い兄貴になりたくて…