本日、コミックマーケットの初日であられるはずです。
寒くは…ないかな?皆さま、お風邪など召されませんように。
さて、ちょっと前なのですが、このコミックマーケットをも支える、「日本の漫画の『層の厚さ』」について感心して書いたこの記事。
ことし、当ブログでは有数に読まれて、ブクマがついた記事です。
日本中に散らばる「漫画が描ける中間層」が、自分の得意分野の啓蒙を漫画でしまくって知が集積し過ぎる。こういうののアンソロジーをつくれ。 - http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20160704/p1
黒松と呼ばれた男の話 #樹木擬人化 pic.twitter.com/sBZzviGgNF
— ぴりひば (@pirihiba) 2016年7月2日…日本の漫画を夜郎自大に語る必要もないし、販売数やハリウッド映画を通じた知名度、経済力を考えたら「最強漫画国家はアメリカだよ」という結論を言われても別に納得するんだけど、なんつうかやはり、例の同人誌文化、即売会文化…が花開いた日本の漫画の「裾野力」はとんでもないと思うわけです……
そしてさらに…こういう方々が職業漫画家としてではなく、個々人がさまざまな生業についたり、どこぞの学校で学問を専門的に学んでいたり、よき家庭人として子育てや日常生活をしていくなかで、その知識や見たこと聞いたことを、上のクロマツ話の様に漫画として世界中に還元してくれているのだ。
(略)
…日本の漫画の強みは、層の厚さ、予備軍の多さだと思ってきた。ムエタイ最強は、なにより層の厚さゆえなのと同じだ(分からん比喩使うな)。
そしておそるべきは、この予備軍が…あらゆる分野に社会人・学生として潜入し、バックステージを「エッセイ漫画」として発表してしまうことだ。シーボルトの日本研究は、医学を学ぶために入門してきた各地の弟子たちに、どんどんオランダ語で論文を書かせたことで圧倒的なものとなった。それとほんまにおんなじ。
こんなことをかいたわけですけど、
それを、ことし11月、ふたたび再認識させられた一件がありました。
ルームシェアしていた英国人男性に「君が女性だったら間違いなくプロポーズしていた」と言われた男性のお話 - Togetterまとめ https://togetter.com/li/1049261
くまねこ @kuma_neko_ 2016-11-16 11:09:54
一時期、開発作業が大詰めで職場近くのマンションでルームシェアしてた英国人に「キミが女性だったら、間違いなくプロポーズしてた」と真顔で言われた話する?
くまねこ @kuma_neko_ 2016-11-16 11:13:25
ワタシの場合、ストレス発散に家事するタイプの人間なので、朝食とかも作ってましたよ。
スクランブルエッグに生クリームとバターと砂糖少量入れて英国人好みのアレンジ決めてみたりとか。英国人男性を落としたい女性の皆様、甘めのスクランブルエッグで落とせますよ #しんこくなちのうていか
くまねこ @kuma_neko_ 2016-11-16 11:24:22
ルームシェア開始した日の翌日、フライパンでバターを溶かし、そこに砂糖を振ってスライスしたバナナを焼き、さらに食パンで残ったバターを吸わせるように焼いたものを朝食に出したんですけど、そのときの英国人男性の表情は名状しがたいものがありましたね……
くまねこ @kuma_neko_ 2016-11-16 11:26:21
英国人「おいおい、彼女が朝食を作りに来てくれたのか?」
ワタシ(黙って自分を指さす)
英国人「……you?」
ワタシ「me」
英国人(顔を覆ってうなだれる)そんなにか。そんなにショックか。
これは単に、食と文化に関する一口笑話としてよくできていて、わははと笑って読んでいたのだが…たった1日後!!
無自覚で外国人男性の胃袋を掴んでしまった日本人男性のエピソードが漫画化された - Togetterまとめ https://togetter.com/li/1049551
魔性のわんこ(無自覚)に惑わされる系リーマンBLかな…?https://t.co/LncRz08T57 pic.twitter.com/RssunzwEJO
— さかき (@sakakir) 2016年11月17日
(※わんこそばのように次々とたくさん料理が出てくることを「わんこ」と形容してるのかな?そこ、一寸不明。)
この方のプロフィールを読むと「@sakakir お絵かきお手伝い屋さん」となっており
【突然の告知】こちらのショタっ子盛り沢山本に榊ルミヲ名義でイラスト描かせて戴きました!どうぞよろしくお願いします〜!>少年(ショタ)の描き方 スタジオ・ハードデラックスhttps://t.co/YwIHSB5IXb pic.twitter.com/PvtJZns9VM
— さかき (@sakakir) 2016年7月5日
と、イラストをプロとして描く人
なので、
「そうだよな、これほどのレベルの人が純粋なアマチュアだったら、さすがに日本アレすぎる」(笑)…と、何かほっと一安心したあと、「…そういうプロで描ける人が、ネットで読んだ面白い一口笑話を誰にも頼まれず(?)漫画化しちゃう日本は、別の意味でアレだよ!!」とノリツッコミになってしまったのだった。
ま、、以下の考察はこの件については「プロだから」で済むのだが、しかしだ、こうやって比べてみると、やはり『原作』と『漫画』は違ってきてるじゃろ?
どこのセリフを使うのか、
登場人物のキャラクターデザイン、
場面をどう切り取るのかの決定、
状況の説明を簡潔にするために、登場人物のひとりごとを聞いて反応するオリジナルキャラクターを登場させる……
そして何より、コマ割り=カメラアングルの選定……。
などを、すべて済ませてから、そして漫画になるわけだ。
とくに「カメラアングル」(コマ割り)については、なぜか自分はこだわり続けている。
「カメラの構図(コマ割り)」という20世紀の魔法 〜町山智浩「鈴木先生」評をきっかけに - http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20130220/p3
ほったゆみの壮大な実験「はじマン」が、コマ割り=カメラアングルの謎を解く、啓蒙する。 - http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20130524/p3
「イマジナリーライン」「切り返し」とは何か?「20世紀生まれの魔法」カメラアングルの理論とは - http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20140317/p3
DEEP「ワンカメラネット中継」から「カメラアングル」とは何かを考える。実際に見たら、果たしてどうなる? - http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20140426/p2
漫画、アニメと「カメラワーク」の話のメモ。「想像上の自分をそこに立たせる」「隣の部屋に行く時、廊下を歩く場面を描く」… - http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20150808/p3
『顔マンガ』という概念から再度、カメラアングルやコマ割り自体が『若い表現形式だ』ということを考えたい - http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20151110/p1
そこで紹介したが、誰でも知ってる「坊ちゃん」の一場面を、自分が「コマ割り」「キャラクターデザイン」するとこうなる。
「物語」を「漫画」という表現に落とし込むときの大変さ、困難さを、分かっていただけるだろうか(最後の例ではわからんわ!)。
要は、夏と年末にやってるコミックマーケットの出品者は、みなこういう作業を行うツワモノ中のツワモノ。さらに、商業週刊誌や月刊誌に載ってる漫画家さんは、甲子園からプロ、そして一軍に登録、みたいな、やっぱりベストアンドブライテスト、一騎当千の武者なのだ。あらためてリスペクト。
アマ漫画家の世界を描く、山名沢湖「結んで放して」(南信長・朝日書評欄)
そこで、こんな作品の紹介に繋げる
結んで放して [作]山名沢湖 - 南信長(マンガ解説者) - コミック | BOOK.asahi.com:朝日新聞社の書評サイト http://book.asahi.com/reviews/column/2016121100017.html #bookasa @BOOK_asahi_comさんから
■描くことに魅せられた同志たち
あくまでも推計にすぎないが、現役のプロ漫画家は約1千人、同人誌やウェブで作品を発表するアマチュア作家は数十万人とも言われる。それだけ多くの「マンガを描く人」がいるなかで、「描き続けること」の難しさと尊さを痛感させるのが本作だ。
4編からなるオムニバス形式のストーリー。同人誌即売会で憧れの描き手に感想の手紙と自分の作品を〈よかったら読んでやって下さい〉と手渡した大学生女子は、その後プロの漫画家となる。一方、〈憧れの人〉は転勤、結婚、出産を経るうちに、いつしか描かなくなっていく。
そんな2人の関係を軸に…(略)プロとしてのジレンマ、残業続きの仕事、子育てや介護、母親の過干渉など、抱えるものはそれぞれ違えど、マンガ愛だけは共通。互いに触発されリスペクトし合う姿に…
(略)
マンガに限らず何らかの創作に携わったことのある人なら心が疼(うず)くこと請け合いだ。
◇
双葉社 648円同人イベントのあと、あの喫茶店のテーブルには、漫画を描く人が4人いた。時を経て、漫画を描き続けているのはプロの漫画家となった千畝ただひとりとなった。心の中でくすぶり続ける、同人時代の憧憬、情熱、そこにあった原点。そんなある日、もう描かなくなった憧れの人と街中で出逢う。同人誌の世界を舞台に、人生の岐路に立つ女性たちの気持ちが、優しく切なく静かに染み渡る、表題作「結んで放して」を含む、珠玉の短編集。
- 作者: 山名沢湖
- 出版社/メーカー: 双葉社
- 発売日: 2016/11/28
- メディア: Kindle版
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【メモ】
現役プロ漫画家、1千人
同人誌やウェブで作品を発表するアマチュア作家、数十万人…か。
プロになる人、ならぬ人、なりたくてかなわぬ人、
いろいろいるのでしょうね。
最初に紹介した過去記事での問題意識ともつながるのだが、ここで”鬼の黒崎”が語ったように、
十万人の中から頂点に立つプロのムエタイ選手が、世界最高峰に近くないわけがない。…と同時に、何かの理由でその頂点に立つ競争から退いた人の中には、その頂点に勝るとも劣らない才能がある人もいれば、リングではなく路上の喧嘩でこそ才能を発揮するストリートファイターもいただろう。
日本の漫画界も、おそらくそれと同じで、だからこそ「海岸のマツ林の成長と消滅」や、「描き手ネットでたまたま読んだ、日本人と英国人のルームシェア笑い話」が、こうやって漫画という表現形式であらわされ、そしてネットによって世界中で読まれる、この時代。
そして、その人々の営みが、またプロによって漫画の形で物語られる。
そんな時代を、ことほぎたい。
そういうわけで、混雑されるなか、皆さんお気をつけて。
知人のほか、twitterでの有名人のコミックマーケット情報をまとめとく - http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20161228/p6
「楽屋裏パロディ」の続報。「『ヘルシング』は映画で、登場人物は役者さん」のパロが本(同人誌)になったらしい - http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20161228/p4