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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています 

「寅さんは、プロレスラーだ!」今は亡き名レスラー3人が「男はつらいよ」を見た話(流智美)―追悼ニック・ボックウィンクル

先月の話。

ニック・ボックウィンクル氏死去 日米で人気
[2015年11月17日9時30分 紙面から]
http://www.nikkansports.com/battle/news/1567241.html

 WWEは15日(日本時間16日)、元AWA世界ヘビー級王者ニック・ボックウィンクルさんが、14日夜に米ラスベガスで亡くなったと発表した。80歳だった。死因は健康上の問題という。ボックウィンクルさんは、父で有名レスラーだったウォーレンさんの指導を受け、15歳でデビュー。全米各地で多くの王座を獲得し、不動の地位を確立した。70年からAWAに定着すると、75年11月にバーン・ガニアを破り、AWAヘビー級王座を獲得。同王座を通算4度戴冠し、悪党王者として団体を盛り上げた。


プロレススーパースター列伝」では、とにかく卑怯な悪役王者としてハルク・ホーガン編で登場、ボビー・ヒーナンと1対2マッチをやって、それでも負けるという役どころでした。こういうふうに「実力もないのに卑怯な反則だけで王座を守りやがって!もう1回やれば、われらのヒーローが絶対に勝つのに…」と思えば思うほど、次のタイトルマッチの際にファンが懐からチケット代を取り出す……というマネー・メイキングの構造は当時わからんかった(笑)
 


実際にはプロレス界きっての知性派、ジェントルマンでした。WWEのプロレスをくさしつづけたルーやビルとちがい「私に今のプロレスをくさす言葉を言わせたいんだろうが、頑張っているし、時代とともにプロレスは変わるんだよ」と柔軟だったりもする。

昨年2014年に亡くなったビル・ロビンソンとは、実質的な引退試合といえるUWFインターエキシビションマッチで、ニックが相手を務めた。ルー・テーズが立会人だった。
ロビンソン氏の訃報は、twitterでも話題になったが、

追悼「人間風車ビル・ロビンソン氏 - Togetterまとめ http://togetter.com/li/637885

このとき、自分がこうツイートした。

これがおどろくほどリツイートされ、そんなに興味があるのなら紹介しようと思ったが、例によってどこに蔵書があるかすぐは見つからなかった。
現在は見つかったので、3人すべてが鬼籍に入った今、あらためて紹介しようと思うんだ。

プロレスラー秘読本 (別冊宝島 204)

プロレスラー秘読本 (別冊宝島 204)


ただし、長文でねえ……自分も読み取り機をこんご活用しようかな。まあ、適宜抜粋というか、大幅に略します。
この3人が「寅さん」を見に行ったのは、前述のUWFインターでのロビンソンvsニックのエキシビションがあったとき…1992年5月8日の、翌日のことであった。
流智美氏は回想する。

試合後、テーズ、ニック、ロビンソンの3人と夕食をともにしたとき、ロビンソンが唐突に言った。
「ルーもニックも、帰国はあさってだろ?だったら、明日は私と映画にいかないか。どうしても見たい映画があるんだ…(略)もう初めてニッポンに着てから24年になるのに、いちども『フーテンノトラサン』を見たことがないんだ。いまじゃあ、アメリカでもたくさんのファンがいるくらいのポピュラーな映画なのに、何十回もニッポンに来た私が見ていないのは少しはずかしい…(略)」

流氏は、レストランの店主に「ぴあ」を持ってきてもらい(昭和だねえ。今ならスマホだ)、名画座での上映館を見つける。
もちろん字幕はないが、偶然ながら上映作品が「男はつらいよ 寅次郎知床慕情」で、助演が世界的スターのミフネ・トシローだったのは外国人には良かったのかもしれない。
とにかく、日本語オンリーのスクリーンを眺めつつ、
3人とも意外なほど興味深そうだったのだ、という。
笑うべき場面では笑っていた、ともいう。

映画が終わった後…焼き肉屋でビールの大ジョッキを傾けながら、3人は口をそろえて「実に面白かった」と相好を崩した。

ここから、感想が結構長いので、3人の感想を箇条書きにする。

ルー・テーズ】(要約)
・トラサンは、実家に帰っても落ち着かず、1日でホカイドウ(北海道)に行っちゃうだろ?あれはまさにプロレスラーの習性なんだよ。自分の師匠のエド”ストラングラー”ルイスは故郷で試合があっても、自宅で奥さんのコーヒーを飲み終えるとすぐにニセの用事をでっち上げて出て行く。「落ち着かないんだよ。女房なんてクリスマスの時に一緒にいればいいんだ」。というか私も、地元で試合があっても自宅によらなかったもんな。
・だから俺たちもトラサンと同じ”ジプシー”なんだ(※ジプシーという呼び方は、発言者本人の意思を尊重しています)。私も本名で闘ったが、リングネームをつけるなら「ジプシー・ルー」だ。ジプシー・ジョーっていたけど、ありゃ最高の名前だな!!

  

ビル・ロビンソン】(要約) 
・トラサンが居候したアニマルドクター(三船敏郎)で、最初は無愛想だったドクターが後からトラサンを引き止めて、娘のことや自分の再婚を相談してたろ!!あれはまさに私だよ!!私は行く場所行く場所…イギリスのマーチン、日本のヨシハラ(国際プロレスの吉原代表)、インドのダラ・シン、AWAバーン・ガニア…どこでも引き止められた、そこで大活躍してトップを助けてあげたんだ。そして恩を着せることもなく次の旅へ…… うん、私はトラサンだな。

 
そして、ニックだけはちょっと違っている。
字幕がないから、逆に表情や場面で、会話を想像したというのだ。とくに面白かったのは、ホカイドウでのフェスティバル(縁日)での、寅さんと観客のやり取り場面で、やはり自分の人生になぞらえてこんな想像をしたという…

ニック・ボックウィンクル】(これは原文引用)
私はもちろん日本語が分かるわけじゃないんで、トラサンとお客がどういうやりとりをしていたかは知る由もないんだが、たぶん、こういうやりとりをしていたんじゃないか?
「お客さん、お客さん!ここにある品物は世界中のどこを探したって簡単に見つかるもんじゃないよ!買わないと一生損するよ!」
「ところであんた、威勢のいいタンカ切ってるけど、そんなに言葉が切れるなら、なにもそんなヤクザな商売してなくても、いくらでも他にまっとうな職業があるんじゃないの?なんでそんな服着て、炎天下でシンドイ思いをしているの?」
「お客さん、ご心配ありがとう!でもね、俺はあんた方みたいに毎日毎日背広着てネクタイ締めて、一日中椅子に座って電話のお相手しているような仕事は考えられねぇんだよ。俺たちの商売がどう見えるか知らねぇが、やってる者しかわからないような面白さがいっぱいあるのさ!」
どうだい?ざっとこんな感じの会話だったんじゃないのか?

こんな想像になったのは、自分の経験も絡んでいたようで、流氏から見てもニックは飛びぬけて知性的で、物腰も穏やか。そんな彼にほれ込んで、真剣に「プロレスラーを引退して、私の会社にこないか?」とヘッドハンティングをする社長さんもいたんだという。その時に、やはり同様の趣旨を語って丁重にお断りしてきたのだという。
実際にこの映画鑑賞の後、ニックは某保険会社の重役待遇で迎えられたが、やっぱり1年後にはプロレス界に戻ってきたのだという。




そんなわけで、トラサン=プロレスラーだと勝手に共感した3レジェンド。

旅から旅の浮き草稼業、人気商売…であることの楽しさ、栄光と、悲哀をともに味わいつくしたであろう3人は、共感した日本の代表的俳優とともに、すべて今はこの世の人でない。

3人ともレスラーとしては長命の部類であり、満足な人生だったとは思うが、ちょっと残念なのは、この3人にサザンオールスターズの「旅姿六人衆」を英訳して聞いてもらいたかったな、ということでした
(歌動画はコピーバンドで)


毎日違う顔に出逢う 街から街へと かみしめてる間もないほどに
Oh!No! Oh!No!  

喜びや夢ばかりじゃない つらい思いさえ mm
ひとりきりじゃ出来ぬことさ ここにいるのも …

BSジャパン「土曜は寅さん」2015年版、 12/12に最終作品放送

http://www.bs-j.co.jp/cinema/d151212.html
2015.12.12 [土] 夜6時30分
男はつらいよ 寅次郎紅の花」
奄美大島で寅次郎とリリーが同棲!満男と泉の恋の行方は? 26年間、48作続いた『男はつらいよ』シリーズ最終作!
 
STORY あらすじ
ある日、満男が想いを寄せていた泉が、見合いをした相手と結婚しようか迷っていることを相談しに訪ねてきた。しかし満男はショックのあまり素っ気ない態度をとってしまう。だが、泉の結婚式を辞めさせようと思い立ち結婚式に乗り込み式をメチャクチャにしてしまう。後悔した満男は奄美大島へと向かい、一人の美しい女性と出会う。そして彼女の家に行くのだが、そこには寅次郎が。そしてその女性はなんとリリーだったのだ。


寅さんも旅に終わり、プロレスラーも、旅に終わる。
夢枕獏は、以前、UWFの記録の末尾を、このように終えた。自分もそれに習いたい。
「旅の物語は、すべて、”未完”と記されるべきである」――。



そして、次の記事に続く。
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20151207/p2