「うしおととら」がアニメ化されてから、藤田和日郎氏がただでさえハイテンションなのに、もう一段変身を残していたらしく(笑)そこからさらにテンションを挙げております昨今。
(後段にリンク集を作っておきます)
まあ、藤田先生がハイテンションなのは、珍しくないので特にニュースにはならないのだが(笑)、同時にしばしば、これらの熱い(or暑苦しい)ツイートの中で、「藤田流創作論」を披露していたことも有名だ。(これも後段でリンク集を)
だもので、自分もしばしば言及したり、引用したりしている。
さて、このハイテンションのまま、藤田氏は新鋭漫画家との対談に最近臨んだ。
月スピで「みどりの星」の真造圭伍が新連載、藤田和日郎×唐々煙対談も - コミックナタリー http://natalie.mu/comic/news/152012
この対談が、また例によって名言と、藤田流創作の秘密を惜しげもなく公開しているので、ちょっとメモしておきたい、という。
「『うしおととら』当時のサンデーはぬるかった。俺はそれに喧嘩を売った」
このときは必死だったからね。デビュー時なんて必死じゃないですか。当時のサンデーは言っちゃあなんだが、ぬるい漫画が多かったんですよ…右肩を前に出して唇をとんがらかして、サンデーに喧嘩を売るように漫画を描いていた(笑)。喧嘩を売らないと新人は生き残っていけないと思っていました。
(略)
…梅図かずお「漂流教室」が別格の存在で、リアルに怖い漫画だったから、あれがある以上、サンデーのほかの怖い漫画はちょろちょろ遊んでいるようなものだったと思いますよ。
藤田和日郎が「キャラクターを殺す」ことについて語る。「花道を用意してやらずに、何が漫画家だ!」
ここが白眉のひとつですね、メモの用意を。
対談相手がぐいっと踏み込んだんで、いい答えが返ってきた。
唐々 藤田さんにどうしても直接会ってお聞きしたかったのが、描いたキャラクターがいかにして死んでいくのだろうか…乱暴な言い方をすると、死を描くと手っ取り早く、感動的なエピソードが作れるのではないかと思うのですが、それでいいのでしょうか。
藤田 …すっごい良い質問でね、こんな質問をしてくれた人がいないんだけど、あのね、気がついています。その答えに。
唐々 (乗り出す)
ここから、ちょっと長いので箇条書きする。
・自分が(劇中で)殺す人間って、みんなちょっと笑って死んでいく。
・一番大好きなもののために死んでいく。何が好きかが現われるのが死に様。
・うしとらのヒョウを殺す時に、女房が「ヒョウに新しい奥さんをあげて幸せにできなかったの」? ぼくは高橋留美子先生に「漫画を分かってない女房がこんなことを言いましてね。シロウトですねー」と笑ったら、高橋先生まで「それもアリじゃない?」と言われて返せない(笑)
・それはともかく、「何が好きか」「死ぬほど好きか」を表現するから死に様なんだ。
・僕たち漫画家は作中のキャラクターが好きすぎるから「ここまでやってこそこいつのすべてが伝わる」「全身全霊で尽くしたい」から死を描くんだ―と。
質問した唐々氏も「愛しているから見届ける」「人生の端から端を描ききる」というふうに返している。
そして、こう宣言する。
「おい、藤田和日郎、登場人物の死がないと盛り上げられないじゃないか?」と言われたらこうだよ……「あったりまえだろ!ぼくの大好きなキャラクターが死ぬのに、花道も用意してやれなくて何が漫画家か!」
そういえば、同じくキャラクターを殺すことには定評があり「公平に みんな殺せば 大団円」という名句を残した、とも俗説で言われる”皆殺しの田中”こと田中芳樹氏を藤田氏はたいへんにリスペクトし、ある小説の挿絵もかいていたっけ。平仄の合う話ではある。(※最初のノベルズ版です)
そういえば、これも次の話につづく。
「自分を信じる」よりは「自分の好きなものを信じろ」!
「自分を信じろ」という薄ら寒い言葉があるじゃないですか。「わかるけど、どういうことだよ!抽象的過ぎて腹の足しにならないよ!」…(略)新人によく言うのは、『好きなものを信じろ』。僕は映画の『ターミネーター』が好きなんですけど、本当に好きだから、この信頼は裏切られません(略)…これをカッコいいと思う自分を信じている。
唐々 これは、強いですよね。少なくとも、揺るがないで生きていけますよね。
藤田 そこが、最後の宝じゃないかと思うんですよね。
にた話は以前のインタビューでも語っているんですよね。
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20130725/p2
にて「名言集」を抜粋した、http://booklive.jp/feature/index/id/ivkf_01のロングインタビュー。
藤田:オレは「私のようになりたまえ」って説教している漫画ってあまり好きではないんですよね。
それよりも、自分の中の「あんな風になりたい!」っていう憧れを読者に伝えたいって気持ちが強くて、だから「鳴海(なるみ)のような男になりたいんだよな」とか、「あんな風に生きたいんだよな」とか、それを伝えるために描いているのが漫画家としてちょうど良いスタンスじゃないかと思ってるんですよ。
だから、「お前の言う通りアレはカッコ良いよね」って読者から言ってもらったら、それが凄く嬉しいんだよね!
こういう、一連の発言を聞いて思い出したのは、山本夏彦氏の文章。
……私はついこの間まで日本人も皆そうだったことを思い出した。主人は店の者にお前なんのために芝居を見ていると叱った。「伊勢音頭」の主人公は「身不肖なれども福岡貢(みつぎ)、女をだまして金とろうか」と言うから、見物は女をだまして金とるのが最低だと知るのである。忠臣蔵は芝居の独参湯(どくじんとう)だといわれた。私たちの冗談もしゃれも笑いも、みんな芝居をふまえていた。
大正十二年の大地震のとき、すでに火は日本橋の私の母の実家に迫っていた、店の若い衆”金どん”はつづらを背負った、その姿があんまり大時代なので店の女たちがどっと笑ったら、金どん”延若”の声色で「つづら背負ったがおかしいか」と言ったという。石川五右衛門のせりふである。
ふだんの会話のなかにかれにシェイクスピアがあるように、われに忠臣蔵以下無数の狂言があったのである。大震災を境にそれは滅びた。私たちはとり返しのつかないものを失ったのである。
http://www.geocities.co.jp/HeartLand-Renge/9323/sonota/sonota12.htm
山本夏彦著 「オーイどこ行くの」の中から「時代遅れの日本男児」
勧善懲悪や教訓のために芝居があるわけではないが、その一方で、やはり物語やそのキャラクターは否応無く「ロールモデル」として扱われる。
芝居や物語は「こういうときには、こうふるまうのがカコイイんだ」という先例集でもある。
中国の史書も、またそういうふうに扱われた。過去の事例に自分をなぞらえ、そのように自分もふるまうぞ、と奮い立たせる。
斉に在りては太史の簡 晋に在りては董狐の筆
秦に在りては張良の椎 漢に在りては蘇武の節
厳将軍の頭と為り 嵆侍中の血と為る
https://ja.wikisource.org/wiki/%E6%AD%A3%E6%B0%97%E3%81%AE%E6%AD%8C
「自分」は負けそうになっても「いや、あの時の○○はこうだった。だから俺もそうしなきゃ」と…
こんな歌もあったな
逃げるのか?諦めるのか?一生を闇の中ですごすのか?
いやです
少年の頃、お前はテレビを見なかったのか?
見ました
思い出せ、彼らは絶対の危機の危機の時にどうした?
もダメだというその時、彼らはどうした?答えろ!立ち向かった
ならばお前もそうすればいい、それをやれ!
www.youtube.com
藤田氏はこれ「物語の創作で迷った時」の話で語っていて、その文脈とは違うのだけど、まあ自分の連想コミで
「自分を信じる」よりは「自分の好きなものを信じろ」!
は名言だと思いました。
こういう人が書いた最新作「黒博物館」シリーズ第2弾「ゴーストアンドレディ」は上下巻一斉発売とのこと。
クリミア戦争時代のナイチンゲールが登場し、史実も踏まえつつ描かれます。
リンク集 togetterのタグ「藤田和日郎」から、最近のだけでも…
http://togetter.com/t/%E8%97%A4%E7%94%B0%E5%92%8C%E6%97%A5%E9%83%8E
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■藤田和日郎登場「マンガのゲンバ」(2009年)をプレイバック
http://togetter.com/li/92775
”平成の寺田ヒロオ”藤田和日郎の漫画論、職場論名言集。「漫画家工場」「魁!藤田道場」の実態は? - http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20130725/p2
藤田和日郎「うしおととら」アニメ化に関して感想いくつか。そして現在の作品は… - http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20150207/p3