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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

のらくろ漫画から怪獣の歴史を「氷菓」の古典部メンバーが考える(或るtogetterを受けて)。

※もし「氷菓」(古典部シリーズ)のことやキャラクターの役割がよく分からない、という人がいたら、こちらをご覧ください。

ウィキペディアの「氷菓」
番組公式サイト
http://www.kotenbu.com/

氷菓 (角川文庫)

氷菓 (角川文庫)


「このブログでは、ぼくたち2回目の登場です。以前の記事はこちら」
  ↓

とある野球記録を「日常の謎」(氷菓)風に紹介〜「なぜオールスターの成績が、長嶋は王より上なのか?」(宇佐美徹也) - http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20130616/p3

 

「特にあの形式で書いたからって、反響があったわけじゃないけどな。手間も分量も増えるのに、なんでこんなことを作者はするのかね?」
 

「対話形式の記事も、結構好きなんだよ彼は。時々書きたくなるらしい。それに前回とは大きく変わったところがある。5月にWOWOWで一挙放送があったので、『氷菓』のアニメを実際に見たんだ⇒http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20150326/p5 それまではコミカライズの漫画だけだった」
 

「ちょっと待って、前回は動く映像を見てもいないのに、あたしたちのキャラを利用したの?いい加減ねえ…」
 

「前回は野球でしたが、今回は何がテーマなんでしょうか?」
 

「今回のテーマは…『怪獣』さ!!まずこれを読んでみてよ」

“怪獣”の初出をたどったら春秋戦国時代までタイムスリップしてしまった - Togetterまとめ http://togetter.com/li/811074

 

「気になります!」
 

「ま、省エネの俺も多少は気になるな」
 

「よし、じゃあ『怪獣』の語源の謎解きを…」
 

「いや、あれ以上は無理だわ。だって、すでに春秋戦国時代にまで遡っているんだぞ?それに、既に青空文庫による初出の検索もやっているし、ここの作者も、既に『近代デジタルライブラリー』の情報を提供しているからな。これ以上、語源探しで、付け加えることはない。」
 

古典部再登場した意味ねーーーーー!!」
 
 


「まあ待て、ただ……あのまとめは素晴らしいとしてだ、怪獣だけでなく一般的な漢語の問題なんだけど、要は近代になって、かな?意味が再構成された単語はたくさんあるよな。『経済』も『共和』も古典をたどれば古い典籍は出てくるだろう、もともとそこから取ったんだから。ただし、清でアヘン戦争、日本で幕末・明治を体験し、近代に直面したアジア文化圏が、新しい概念を必死で自分たちのものにするべく翻訳にかかった。
こういう場合、典拠にしたものは典拠にしたもので有益な情報であるが、その「新概念」とそれを当てた時代、命名者などの情報はまた別に探っていくべきだろうな。詳しい辞書、辞典はそうやってるんじゃなかったか?」
 

「データベースの僕が、一例として『共和』を引いてみるよ」

「共和制」
漢語の「共和」は、大槻磐渓の示唆により箕作省吾がその著『坤輿図識』(1845年)で「republic」の訳語として初めて用いた[10]。 これは西周の「共和」と呼ばれる期間に由来する。これは暴政を行った窅王が国人(諸侯と都市住民)に追放された後の14年間で、『史記・周本紀』によれば、この期間は宰相の召公と周公が共同して(共に和して)統治に当たっていたとされた。この体制では世襲の王がおらず、有力者の合議による政治が行われていたと考えられていた。

 

ハリーハウゼン東宝、円谷とつながる、あの偉大なる『怪獣』と、神話や伝説の怪獣の間には、やはり線を引くべきだと俺は考える」
 

いや、そう言っていいのだろうか?超自然的な存在であり、人智を超えた能力がある神話の怪獣はやはり怪獣の直系の先祖で…
 

「あのー、むかしいた恐竜さんって、怪獣さんと違うんですか?」
 

「違うに決まってんだろうがアアァァ この田舎娘!」
 

「あー、なんかわかんないけど、オトコにとって許せない言葉の一つを…」
 

「…すまない、省エネが座右の銘の俺としたことが、冷静さを失った。…では千反田のために、怪獣と恐竜の違いを説明しよう。銃で撃たれても死なないのが怪獣、死ぬのが恐竜だ」
 

「いいかげんな説明するんじゃないわよ!!だいたい恐竜が銃で撃たれた実例なんてないでしょーが!」
 

「いや…案外いい線…というかそれで正しいんじゃないかな。火を吐くかどうかで分ける分類もあるし、例外的には『戦車に乗っているのが恐竜』という定義もあるけど」
 

「よくわかりました!」
 

「わかっちゃだめよ……」
 

「でも、そういう『怪獣』さんはいつごろ出てきたんですか?」
 

上のtogetterでは、コメント欄でこんな情報が出てくるね。

早海徒雪 @hayami_toyuki 16日前
これは素晴らしい。私も以前、同様にルーツをたどってみたのですが、江見水蔭「暴れ大怪獣」(1925 少年倶楽部掲載)まではたどり着くことができたのですが、まだまだそれより先があったとは(現在は三一書房「少年小説大系 12 明治大正冒険小説集」収録)。「暴れ大怪獣」に登場する「大怪獣」は後年の「怪獣」のイメージに近いので、この時代の少年活劇ものが、影響を与えているとは思うのですが。

 

「さて、自分の知ってる範囲では、その元祖探しに貢献できる材料はない。だが、少なくとも戦前に、今のような意味での『怪獣』のイメージが固まっていた、ということだけは証明できる。それも、多くの人が名前を知っている超メジャー作品『のらくろ』でな…」
 


「!!!!!」
(第一部完)

【第二部】

「ま、なんちゅーか今回の記事はだ、元はそのtogetterに、この『のらくろに登場した怪獣』の画像を紹介したかったのだが、当時手元になかったんだよ。そして、ここが重要だが、ネット検索でもこれが出てこなかった。だから、あとから探して、画像を入手したんで、これはネット上のデータとしても残さなければいけないと思ったんだ。ある意味、それをすれば今回のミッションは完了だ。ではデータベースの里志、画像を出してくれ」
 

「えっ?ああ……これかな?  ジャジャーン。ゴジラの音楽に合わせてみてもらおう!」
 


吹奏楽のためのゴジラ-マーチ 伊福部 昭作曲 和田 薫編曲 陸上自衛隊第1音楽隊






「太古の眠りから目覚めたる大怪獣!!」
 



「小気味いいジョークを飛ばす歴戦の勇士たち…だが、その勇者も腰を抜かす、闇夜での遭遇!」
「しかもこの時はまだシルエットのみ、すべての姿を見せないという演出!!!」
 





「そしてこれが怪獣の怪獣たるゆえん!!近代兵器が全く歯が立たないほどの圧倒的な力!!!」
 

「なんか、飛行機から落ちる爆弾を見る絵がかわいいわね」
 



「ちなみにこのように、怪獣の猛威に業を煮やした軍上層部は極秘裏に火攻めや毒ガス攻撃など、いささか非人道的ともいえる攻撃手段をとることを命じる。しかし、それすらも怪獣は凌駕するのだ」
 



「そして攻撃手段も尽きたのらくろは、心を許せる友人たちと決死の肉弾攻撃を開始する!!最後は騎士道よろしくの接近戦!!どうだこのドラマツルギー!!」
 

「ええ、火力の貧弱さを”肉弾”なんて美名で取りつくろい、上からのプレッシャーによって部下が勇敢さと自殺願望を履き誓えて無謀な戦術を取る旧日本軍の様子を象徴していて素敵です!」
  


「……。ま、まあ、でもこうやって怪獣退治をのらくろはみごとに成し遂げ、昇進するのだった。はい、パチパチ」



「パチパチ…。でもまあ、ホントにそれなりに、基本のところを抑えてるわよね。田河水泡先生がこういう創造をしたのかしら?いつごろの作品なの?」
  

「この作品は、二二六事件の起きた1936年(昭和11年)の2月にまさに発売されたそうだ。まあ、元ネタがどうこうってことはわからんけどな。ただ常識として、この前には映画『キングコング』の世界的な大ヒットがあった」

※追記 twitterより
Masanobu Hirano @mahiran
ところで怪獣退治の話ですが、手元の「のらくろ漫画全集(少年倶楽部の連載をまとめた本)」によると、連載時は昭和11年新年号の付録(のらくろ士官学校の巻)として掲載されたものだったそうです。

  

「あー、キングコングね。日本でもたしか、空前の大ヒットをしたはずだよ。北杜夫が、その強い印象をエッセイに書いていたはず…」


キングコング(1933年の映画)
当時重度の経営不振だったRKOは、本作の世界的大ヒットによって一気に持ち直した。アドルフ・ヒトラーは封切で本作を観ており、大ファンだったことで知られる。また、円谷英二が特撮監督になることを志すきっかけとなった作品でもある。淀川長治によると、公開当時、RKOにはこの映画を観た観客達から「本当にあんな生物がいるのか」との問い合わせの電話が殺到したという。

 

田河水泡は軍国漫画を描いた日本主義者的なイメージを持つ人もいるが、ぶっちゃけ、すっごいモダンなひとだからな。『小隊長』の時代に前後した時期には、女性の弟子の長谷川町子を育てたりもしていた。さらに、自分はよく分からんが、ダダイズムの前衛芸術集団にだって参加していた人だ。そういう人なら、洋画とかの影響もいろいろ受けていたんじゃなかろうか。そして、キングコングに先立って1925年には『ロストワールド』も映画化されていた。あっ、ことしはその映画の公開から90周年だ。」


ロストワールド(1925)
ストップモーションや特殊メイクを積極的に使用、当時としては非常にリアルな「異世界と、そこに生きる生物達」を描き、大ヒットを記録。本作品の成功が、同様に特撮映画の古典である『キングコング』へ、ひいては特撮映画(モンスター映画)というジャンルの定着へと繋がっている。

 

「…やっぱり恐竜さんも怪獣さんも、同じようなもんなんじゃないですか?」
 

「断じて違うわ、ボケ!!
 

「い、いや失礼。でも確かに、なんで『のらくろ』みたいに、銃でも大砲でも爆弾でも歯が立たないなんて、生き物のリアリティとしては少し説得力を欠く属性が『怪獣』に付与されたんだろうね」
 

「まあ、最初に言われちまったように、恐竜を実際に撃ったり、爆弾を落とした実例はないからな。キングコングは登場したばかりの新兵器『飛行機+機関銃』によって撃ち殺されたけど、逆に世界の映画ファンが、このオチにはがっかりしたんじゃないか?あれだけ大暴れしたコングは、もっと街を壊してくれ。軍や銃ごときに負けないでくれ、とね。その”思想運動”に、田河水泡がどこかで接したのか、それとも田河が一人の怪獣ファン、映画ファンとして、同じように考えて、自分の脳内から生み出したのか…。まあ、そのへんの研究は、詳しい人がいくらでもいるはずだ。(たぶん、速攻で記事を修整すべき新情報とかもあるだろう。)でも今回は、『田河水泡による、のらくろの怪獣退治漫画』を、ネット上で紹介できただけでよかったよ」


〜〜完〜〜

おまけ宣伝


「ぼくたちと同じように対話形式で記事をかく姉妹編として、こういうのがあります。このテーマは本来、こっちが登場すべきかもしれませんが、実はこっちはこっちで温めているネタがあるんだそうです。タイミングが合えば、彼らも再び登場すると思います。」
    ↓

「とくばな刑事 トクガワ」〜特撮番組における「第三の悪役」について【創作系譜論】 - http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20130518/p3

さらに派生して、今回こんなのもできました。

のらくろ」「蛸の八ちゃん」作者、田河水泡の愉快(ゆくわい)な画像集 - Togetterまとめ http://togetter.com/li/818526 @togetter_jpさんから

追記 その約1カ月後…そして2016年11月

天野拓美 @air_amano 7月15日
https://twitter.com/air_amano/status/488945682305138690
おとうさん、きょうりゅうとかいじゅうはどうちがうの?」と聞かれたので「怪獣には著作権があるんだよ」と返した瞬間の「また、めんどくさい話をはじめようとしているのでは?」という一抹の不安が長女の顔に一瞬だけよぎったのを父は見ました。