INVISIBLE D. ーQUIET & COLORFUL PLACE-

John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

「ムハンマドの偶像禁止」は、豚食や飲酒と同様に「ムスリム内」で適用すべき禁忌じゃないの?非信者も従うべきなの?

仏紙、今週号でも預言者風刺画 過激派刺激も、厳戒続く - 47NEWS(よんななニュース) http://www.47news.jp/CN/201501/CN2015011301001296.html

シャルリー・エブド」の風刺画、ハフポスト各国版で掲載判断が分かれた理由 http://huff.to/1y0IkX1

「私はシャルリー」の意思を共有して発信するべく、世界各国のハフィントンポストが同時刻に、一斉にムハンマドの風刺画をスプラッシュ(※トップに置かれる大きな写真)として掲載しよう、という提案が……
これについて、ハフィントンポスト日本版編集部では…議論となりました。ニュースとしてシャルリー・エブドの掲載してきた風刺画を掲載することと、我々の決意表明とともに、スプラッシュでムハンマドの風刺画を掲載するということは違うと感じたのです。

イスラム教では偶像崇拝が禁止され、ムハンマドの肖像を描くことがタブーとされています……過激派と無関係の、多くのイスラム教徒でさえも嫌悪を抱き侮辱と感じるムハンマドの風刺画を、自分たちの声明文とともに掲載することはふさわしくないのではないか、というのがハフィントンポスト日本版の出した結論でした。

アメリカ編集部は私たちの意見を理解し、掲載は各国の編集に任されました。結果、掲載を希望した9ヵ国・地域が、「私はシャルリー」と言って涙を流すムハンマドの風刺画をスプラッシュにしました。スプラッシュにしなかったのは日本版、イギリス版、インド版、マグレブ版です。

さて、この問題で…
あ、偶像(絵)の話ととりあえず別個の話である「侮辱的かどうか」の問題、
それから
「歴史的にはムハンマドの肖像も存在する」
コーランを厳密に解釈検討すれば、禁止されてるとは書いていない」
http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/8220708/www1.doshisha.ac.jp/~knakata/ronbun62.html
その逆に
「写真や映画だって本来は許されない。ムハンマドの墓だって偶像崇拝だからぶっこわせ!」
といった異説もあることは承知しているけど、それも置いた上で、現に問題になっている預言者ムハンマド(彼の魂に平安あれ!)の似姿(偶像)を描く、という問題に限定して申します。

ワッハーブ派…から見れば、古めかしいスーフィズムの聖者崇拝や、単なる木や石を霊廟だとしてあがめる偶像崇拝は許されないことであった。ワッハーブ派は1805年、メディナにあった教祖ムハンマドの墓廟さえも破壊した。たとえ預言者の墓であっても、墓を崇拝するのは許されない。厳格な宗教純化の表れである。<山内昌之『近代イスラームの挑戦』1996 中央公論社 世界の歴史20>

世界の歴史〈20〉近代イスラームの挑戦 (中公文庫)

世界の歴史〈20〉近代イスラームの挑戦 (中公文庫)

また、そもそもこの偶像崇拝排除は、一神教の考え方をロジカルに突き詰めていけば、ある種の合理性をもって論じられるものであることもわきまえたうえで。

…考え方の基本は「物質はあくまで物質であって、その物質の背後に何かが臨在すると信じてこれから影響を受けたリ、それに応対したり、拝礼したりすることは被造物に支配されてこれに従属することであるから、創造主を冒涜する涜神罪だ」という考え方…故ファイサル王暗殺の原因がテレビという「影像」の導入であったといわれている…「それが科学を生み出した基本的な精神構造だ」と…(後略)


本題に戻って。問いはごくシンプルだ。
最初のニュースにつけたブクマを転載する。140字に押し込めてしまったのでやや補足。

http://b.hatena.ne.jp/entry/www.47news.jp/CN/201501/CN2015011301001296.html
教義の質問。酒、豚肉を「ムスリムは」避けるよな。それは彼らの教義だ、OK。で、非ムスリム(或いは「無知な異教徒」) はそれ食べていい。これも当然だ。…同様に預言者の似姿、偶像を「ムスリムは」作らぬ。OK。…で、それはなぜ異教徒も従うの?


と、いうことです。

私は無明の闇にいる異教徒、非ムスリムなので、ムハンマドを正直
「唯一の創造神アッラーが遣わしたモーゼ、キリストなどにつづき、不完全な彼らの教えを補って完璧にした神の言葉コーランをわれら人類に与えたもうた、最大にして最後の預言者」だとは思えない。


紀元6世紀後半から7世紀前半にかけて新宗教を提唱し、巨大なアラビア半島を軍事的、政治的に征服し統治機構を確立した教祖にして政治指導者、軍事指導者。アレキサンダーやナポレオン、シーザー…同時代なら李世民に比すべき英雄王

だと考えている。
彼のその存在感は歴史の中で特筆すべきものである。だからこそ、非信者からも、その英雄物語を、或いはその政治家、軍人としての…「功罪を」論じられる立場でもあるだろう。

それを論じる際に、非ムスリムも、「ムスリムが」偶像崇拝に関して考え、守っている規範に従う理由……これは何か。なんだろうね。


このへん、自分はしつこく3、4回ぐらい書いたな(笑)。

ムハンマド風刺漫画問題。あるフィクション-http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20060209/p2
 
帝王ムハンマド、将軍ムハンマド…彼は「戦国BASARA」ぐらいには扱っていいんだよ(たぶん)-http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20100918/p2
 
徳川家康を風刺、揶揄、批判するような表現は一切すべきでない(宗教的存在だから) - http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20150112/p2

実際、自分が子どもの頃にははっきりムハンマドの絵が描かれた「まんが伝記事典」的なものが学研で出版されていたものだった。


そうする「べきである」わけではないが「配慮」しているのかもしれない

という論法もあるだろう。
あくまで正当性、正統性の議論ではそうできる権利を捨てているわけではないが、「配慮」によってやらない、ということも。

NHKは実は既に2007年、そうやっている。

ムハンマド風刺画問題」は終わらない−−NHK番組と漫棚通信より - http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20080117/p4
 

●シリーズ日本語タイトル:「NHK33カ国共同制作 民主主義」
●作品日本語タイトル:「欧州 デンマーク “風刺画事件を追って”」
●ディレクター:カルステン・キエール Karsten Kjær(デンマーク
●日本での放映:2007年11月28日(BShi)、2007年12月23日(BS1)、2008年1月3日(NHK総合

※最後のテロップ:
NHKはこの「事件」で傷ついた多くの人々への配慮から一部映像を加工しました