自分はビジネス書というのはあんまり…というか殆ど読まないのだが、アマゾンがどのように発展したのか?といえばそれは確かに興味を惹かれる話題だ。ヘビーユーザーではないが、逆に「アマゾンは借金が凄い、黒字にも一向にならない。今はバブルだが、このままでは早晩つぶれる」という話は何度もどこかで聞いた。アマゾンとソフトバンクは、この系の話の「定番」だったんじゃないか?
しかしアマゾンはネット通販のみならず電子書籍「キンドル」をリリースし
さまざまなライバル企業を叩き潰したり買収で飲み込んだりして、今のような存在感を見せるにいたる。
その軌跡、いや奇蹟は知りたくある。で、読んでみた。
時に部下を叱りつけ、ありえない目標を掲げ、けたたましく笑う。
- 作者: ブラッド・ストーン,滑川海彦,井口耕二
- 出版社/メーカー: 日経BP社
- 発売日: 2014/01/08
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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そうして小売りの巨人ウォルマート、大手書店のバーンズ&ノーブルなどとの真っ向勝負に立ち向かってきた。ベゾスのビジョンは、「世界一の書店サイト」にはとどまらない。「どんなものでも買えるお店(エブリシング・ストア)を作る」という壮大な野望に向けて、冷徹ともいえる方法で突き進んでいく。■急成長したアマゾンの手法がわかる!
ジェフ・ベゾスとアマゾンの経営手法は独特だ。10年以上先を見据えて、
必要とあれば赤字もまったくいとわない。買収したい会社があれば、相手の体力が尽きるまで価格競争を仕掛けて追い込む。投資家から批判されても、巨大な物流システムやクラウド「AWS」、電子書籍「キンドル」などの新規事業には、巨額の投資を続ける。電子書籍の普及に向けて、出版社には言わずに卸値を下回る1冊9ドル99セントで電子書籍を売りまくる。数字と情熱を重要視する合理的で冷徹な手法を解説している。
エピソードを断片的に紹介する。アマゾンファンにはすでに常識かもしれないが、そこは気にしない。
さまざまな挿話、名言、歴史
・ベゾスはオンラインショップでの企業に際し、20種類以上の商品を検討し、結果「本だ」となった。
■差別化と縁が無く、どこの店でも同じ本が買える。質の心配は要らない。
■取次ぎは2社のみ。ひとつずつ出版社にあたる必要は無い。
■300万点も商品があり、どんな大規模店でもすべての在庫はもてない。そこにオンラインがつけ込む余地がある。
・創業直後は発注があるとベルが鳴っていた。そのたびに社員は拍手喝采だったが、2週間程度で鳴りすぎてうるさく、ベルは終わった。・最初はベゾスらも加わり、みんなで床に座って梱包作業を手伝うような企業だった。あまりに注文が増えて作業も増えたとき、ある社員が「床に座るより、梱包用のテーブルを置いたら?」と提案。ベゾスはいまでも「人生最高のアイデアだ」とこれを評する(笑)
・取次ぎは最初、10冊以上の商品注文しか受け付けなかった。だがアマゾンは抜け道を見つける。在庫が無いと分かっている、苔癬(皮膚病)に関する本を9冊&目当ての本を一冊。そうすると断ったり怒られたりするどころか「苔癬の本は在庫が無く申し訳ない」という謝罪と共にお目当ての本が届く(笑)
・アマゾン創業時は親戚や知人から当然出資を募った。投資した人、しなかった人の悲喜こもごも。とある同社顧問弁護士は父親と500万円ほどの投資をしようと思ったが、子どもが予定外の早産でそのお金が投資できなかった。2年後。父親「そういえばお前が投資しようとした会社、あれはあのあとどうなったんだ?」その弁護士「聞かないほうがいいよ…」
・アマゾンレビューは、否定的なレビューが並ぶこともアリ、著者や出版社から当初は怒りの声をもらった。ある出版社役員が「君らの仕事は本を売ることで、けちをつけることじゃない」と手紙を出したが、どれで同社は逆に確信したという。
「我々はモノを売って儲けてるんじゃない。買い物についてのお客の判断を助けて儲けるんだ」
・アマソンはスターバックスと提携する、という話もあった。アマゾンの株式と交換で、スターバックスのレジ脇にアマゾンの本を置くという提案があった。結果的に成立しなかったが、その時にスターバックスCEOは「あなた方は物理的店舗が無い。その問題で伸び悩む日が着ますよ」とさとした。ベゾスは反論する。
「いや、われわれは月までも行けますよ」
・月までいける、といえば、ある社員がアマゾンを評して「この会社は巨大ロケットを作ってるようなものだ。信管に着火したら、月までいけるか、あるいは地上に巨大なクレーターをつくるかのどっちかだ。どっちにせよ、この目でそれを見たい」
・書店サービスのライバルは全米最大書店「バーンズ&ノーブル」。株式公開直前アマゾンのキャッチフレーズ「地球最大の書店」は虚偽だと訴訟する。だがこれは、アマゾンの知名度上昇に役立った(笑)
・そのほか、「イーベイ」「ウォルマート」などと血で血を洗う抗争!!ウォルマートは役員の引抜きなども行い、ノウハウを吸収していった。
・2000年にアナリストのラビ・スリアがアマゾンの借金、決算から見て非常に危ない、投資すべきでないとレポートし、世界的に話題となる。アマゾンは猛反発。その後、ミリオンとラビを合わせて「100万ドル以上計算や予測を間違う」という意味の”ミリラビ”を造語して報復。
・マーケットプレイスが始まったときは、米国出版社境界と作家協会が公開状で難詰した。何年間にもわたり緊張が続き、ある幹部は「ジェフ対世界という構図でした」と回想する…「まあ、いつものことなのですが」
・アマゾンの社内チームは「ピザ二枚チーム」と呼ばれる。夜遅くまで仕事をして、食事がその量で足りる規模、だという。それがサイズの基本。会議はパワーポイント禁止。
・「アマゾンプライム」スタートはかなりの賭けだったと言われる。成功と見られるにも年単位の時間を要した。・物流センターの作業環境についても書かれている。「作業員を見れば泥棒と思うところです。まあ…実際かなりの人が盗みを働いている」。/冷房を入れるか入れないかの問題が大騒動に。/2013年にはドイツでストライキが起きるが、アマゾンは団体交渉を拒否。/統計的にはアマゾンの倉庫での安全性は、デパートで働くより上、とされているが…
・その一方、したたかでマイペースな、倉庫の中の従業員の挿話も面白い。司馬遼太郎の関が原戦記にて、無名の兵士のエピソードが出てくるようなおかしみがある。特にアマゾン倉庫に自分の『巣』をつくった人、の話は、顧客の我々にとっても迷惑な存在のはずなのに、なぜか負のヒーローのような味わいがある。
・ベゾスはいう。「まずは始めてみる必要があります。最初の小さな丘に登れば、その頂上から次の丘が見える」
・アマゾンが「検索」機能をどう充実させていったかも面白い。グーグルとの競争でもあった。そして結果的には敗れた、といっていい。
キンドルに関しては、別立てで紹介。
・第8章「キンドル誕生」が個人的には、たぶん一般的にももっとも面白い。旧来の出版社や著者に対して仕掛けた罠的な戦略は、おそらく徳川家康の大阪城攻めに匹敵する(笑)。
・先駆けである「ロケットブック」の挫折などもあるし、アマゾンは音楽事業でアップルに敗北した。もしアップルが、音楽業界での勢いそのままに書籍にも進出すれば…その危機感がキンドルを生んだ。デジタル書籍は旧来の書籍に悪影響、という人ももちろんいたが
「他人に食われるぐらいなら、自分で自分を食ったほうがずっとマシ」。
・キンドルはWi-FI禁止(難しすぎるから)。PCにつなぐのも禁止。じゃあ携帯電話へのアクセス機能ぐらいしかない…それは「携帯電話を組み込むのに等しい作業」だった。
・さらに、その料金を客が払ってはならない、というか無線接続であると客が感じないようにせよ、という無理難題…そこからきんどるの方向性が生まれた。
・のちにEインクと呼ばれる技術もちょうど生まれたところ。先行者にくらべてちょうど10年の遅れが、最高のタイミングになった。
・その後の出版社への圧力は、小見出しを見てもらおう(笑)
■弱い出版社から交渉しろ
■10万冊を必ず集めろ
■出版社に伏せられた9ドル99セントという価格
■ガゼルは傷を負い、チーターは走り回る
・9章、10章では出版社の躊躇や反撃、そしてベゾスがもっとも恐れたスティーブ・ジョブス率いるアップルの侵攻とその大戦争のことが語られている。
・幹部はこのアマゾンへの商品提供交渉をこう回想する。
「あの仕事は、手足をばたつかせていやがる出版社を21世紀に引きずっていくようなものだった」、
まあそんな本です。否定的にでも肯定的にでも、アマゾンに興味のあるひとは一読の価値あり、だと思いますです。