「うむ。この世で一番短い呪とは、名だ」
「名?」
「うん」
晴明がうなずいた。
「おまえの晴明とか、おれの博雅とかの名か」
「そうだ。山とか、海とか、樹とか、草とか、虫とか、そういう名も呪のひとつだな」
「わからぬ」
「呪とはな、ようするに、ものを縛ることよ」
「たとえば、博雅というおぬしの名だ。おぬしもおれも同じ人だが、おぬしは博雅という呪を、おれは晴明という呪をかけられている人ということになる-」
しかし、まだ博雅は納得のいかぬ顔をしている。
「おれに名がなければ、おれという人はこの世にいないということになるのか-」
「いや、おまえはいるさ。博雅がいなくなるのだ」
「博雅はおれだ。博雅がいなくなれば、おれもいなくなるのではないのか」
肯定するでも否定するでもなく、晴明は小さく首を振った。
「眼に見えぬものがある。その眼に見えぬものさえ、名という呪で縛ることができる」
「ほう」
「男が女を愛しいと思う。女が男を愛しいと想う。その気持ちに名をつけて呪れば恋-」
- 作者: 夢枕獏
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以上は
名前や肩書が人の考え方や行動を縛ることに陰陽師を読んで気付いた
http://shirousagi.hatenablog.jp/entry/onmyoji/
から孫引き。自分はこれまでも何度かこの話を紹介していたが、より正確な引用をしてあるが最近評判になったので、孫引きした。
ちょっとした総括として。