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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

『政治的正しさと文学の差…それは「はだしのゲン」「神曲」も同じ』(朝日新聞)

2013年9月8日の朝日新聞で論説主観・大野博人氏が書いたコラム「日曜に想う」。
実はこの記事、極めて、極めて重要なことが書いてある。なぜ重要かと云うと、実は朝日新聞で「はだしのゲン」について書いた社説などからもはずれた、ある種非主流な議論をしているからだ。

(日曜に想う)名作に常識は似合わない 論説主幹・大野博人

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130908-00000011-asahik-soci
朝日新聞デジタル 9月8日(日)11時30分配信 (有料記事)
  
 図書館は異様な空間だ。残虐で不条理で不道徳な話に満ち満ちている。
 青年が金貸しの老婆と妹をおので打ち殺すドストエフスキー罪と罰」)。アラブ人を殺した男が動機を問われ「太陽のせいだ」と答えるカミュ「異邦人」)。若者が皇族と婚約した女性を妊娠させる三島由紀夫「春の雪」)……。
 きりがない。人によっては「正しくない」と感じるような日本人観だって、名作の中にもすぐ見つかる。
 「倭寇(わこう)は我々日本人も優に列強に伍(ご)するに足る能力のあることを示したものである。我々は盗賊、殺戮(さつりく)、姦淫(かんいん)等に於(お)いても、決して『黄金の島』を探しに来た西班牙(スペイン)人、葡萄牙ポルトガル)人、和蘭(オランダ)人、英吉利(イギリス)人等に劣らなかった」(芥川龍之介「侏儒(しゅじゅ)の言葉」)
 すぐれた作品には読む側の常識や良識とぶつかるところがある。…

このあとから抜粋するね

はだしのゲン」が良識にかなっているかどうか。そう問うのはヘンだと思う。暴力や利己的な人間たちの生々しい描写、鮮烈な歴史観。それもあるから多くの人が惹かれる。平和は大切だという価値観だけで咀嚼できる作品だったらだれも読むまい。
非常識な本がすべて名作だというのではない。しかし名作は常識や良識の枠には収まらない。
(略)
イスラムに辛らつな部分を持つ作品なら昔から少なくない。
古くは、たとえばダンテの神曲に地獄で腹を割かれたムハンマドが描かれている。フランスの代表的作家の01年の話題作にも、イスラム教を憎む主人公が、パレスチナの子供や女性が銃弾に倒れたと聴くと「身震いするような快感を覚える」と独白する場面などがあった。(略)
論争的な内容の作品はあまたある…(略)挑発の意図があってもなくても、いったん規制をめぐる論争になれば文芸の世界はおいてきぼりだ。
(略)
平和を訴える本に感動すれば反戦主義者になる、戦記に夢中になれば好戦的になる、というほど人は単純ではない…図書館は豊かで異様な空間であってこそ意味がある。そこに常識と衝突する作品があることは異様ではない

すげえなあ、とちょっと感心したのは・・・大野論説主観のいうことは、朝日新聞の社説よりむしろ在野の野良評論家、呉智英氏の言ってきたことのほうによっぽど近いのね。
これな。

非実在青少年」問題で記者会見にも出た呉智英氏は、同一方向でさらに過激な主張もしている
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20100322/p3

非実在青少年」問題で記者会見にも出た、と云う肩書きより「はだしのゲン」作者の中沢啓治氏が何度も自作の解説を依頼した、という肩書きのほうが今はタイムリーか。

再引用してみる

(「ザ・ワールド・イズ・マイン」は)ある意味けしからんマンガなわけですよ。そういうものをどう考えるかっていうときにね、ふつう言論の自由とか表現の自由なんて言うけど、俺ね、そういうバカなこと言いたくないから(笑)、いつもね俺、本居宣長のこういうのを引用するのね(笑)。
本居宣長の歌論、文化論ですね、うた論。

(歌の中には)
政のたすけとなる歌もあるべし、
身のいましめとなる歌もあるべし、
また国家の害ともなるべし、
身のわざわいともなるべし

って言ってるんだよね。で、そういうものがあっても人間の真実が描かれているものは芸術であり文化であるって、本居宣長が言ってるんだよね。

 

たとえば朝鮮人虐殺のおもしろさ、を表現した漫画があって、その表現に見るべきところがあれば、その文化的な価値は評価する、というのが私の立場だ。


ここまで極端ではないが(当然だ笑)、ただ指し示す方角は完全に一致している。
とにかく、大野論説主幹は踏み込んだなあという印象。
とうぜん「ちびくろサンボ」もこの射程に収まっているだろう。