ひとつ上のエントリからのつづき。
■野球記録を「日常の謎」(氷菓)風に紹介〜「なぜオールスターの成績が、長嶋は王より上か?」
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20130616/p3
そこから、話がつづく・・・
「これはあくまで俺の仮説だが・・・王貞治がオールスター戦に出場して活躍したころ、当然オールスターには、”あの選手”も出場していたろうと思ってな。そしたらやっぱり、彼も名を連ねていた」
「誰のことよ?」
「あっ…ひょっとして・・・ノムさん?」
「そうだ。その、ノムさんこと”月見草”野村克也だ」
「奥様も有名で、いろんなところにタレントとしても出場されたりしてる方ですね。・・・でも、それと何の関係があるんです?」
「つまりだな・・・野村のポジションは捕手。そしてその野球理論の緻密さは、今でも語り草というか、ひとつのスタイルを作っているぐらいの智将だ。そして肝心なことには・・・オールスターでは南海ホークスにいた彼は、パリーグとして、巨人…セリーグの王と対戦する側だったということだ。」
「ノムさんが、抑える側にいる・・・ということ?でも長嶋さんだって、ノムさんが抑える側に回ってるじゃないか。データを見てみると・・・全員、1回ほど負傷で不出場の年があるkけど、
・1957年 - 1977年 野村
・1958年 - 1974年 長嶋
・1960年 - 1980年 王
が3人のオールスターの出場記録だよ?前後の違いがあっても、かぶっている期間にそう差は無いと思うけど・・・」
「ところがだな・・・野村の側に、大きなモチベーションの変化があっておかしくない出来事があった。1973年、王貞治は通算の本塁打記録で野村克也を追い抜いたんだ」
「世界一の人だから、そりゃどこかで追いついて追い抜くわよね」
「野村も口ではそう言ってたんだが・・・なにしろ執念深い男だからな。この年を境に、オールスターで野村がマスクをかぶって。王をバッターボックスに迎えた時・・・王の打率は、激減する。というか、73年の1戦目にヒットを打ってから王は30打席無安打なんだ。そして対決は終わる」
「あっ本当だ!!1973年オールスター第1戦、第2打席以降・・・ヒットが無い!それ以前は・・・王vs野村(捕手として)の対決で、王さんは2割5分も打ってたのに!!」
「キャッチャーの意識で、そんなに成績が変わるものなんですか?」
「さて・・・どうかな。そこはキャッチャーの役割は小さい、という人もいるが・・・逆に『キャッチャーも”脱2000三振”などを記録として祝うべきだ』という人もいる。読みあい、コースをついて押さえる作業、やはりキャッチャーの気合の入り方で変わってくるだろう。もし野村のような稀代の名捕手がだ、『こいつだけは、何がどうあろうと絶対に抑える!!』という意識でバッターに対峙すれば…」
「ピッチャーの『渾身の一球』のように、『渾身のリード』で…、王さんのような不世出の打者でも、あるいは抑え込めるかもね」
「まあ、ほかの要因もいろいろあると思うが・・もし、一人の男の執念が、それを成し遂げさせたのなら・・・オールスター2割1分、という王にとっては不名誉な記録も、決してそれだけではないドラマがあるのかもしれないな。それはそれで、野球というスポーツを愛する人たちにとっては、ひとつの宝じゃないか?・・・ちょっと疲れたな。お茶をもう一杯もらえないか」(完)
※元ネタは前の記事にあるように
- 作者: 宇佐美徹也
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
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ですが、この本では著者の宇佐美記者が野村を直撃しています。
私は、この分析結果を、野村に見せたことがある。
「すごいんだな。打たせないつもりでやってはいたが、こんなにはっきり記録に出るものなのか」。
野村は、この結果にずっと見入っていた。 (15P)
追記 コメント欄より
とし 2013/06/16 21:48
打者王貞治の最大の武器は、長打力でなく選球眼であるという意見があります。
王は現役通算11866打席・2390四球と、ほぼ5打席に1回四球を選んでいますが、
これがオールスターだと224打席・33四球、6.8打席に1回となります(それでも通算33四球というのはオールスター最多記録ですが)。
「オールスターというお祭りの場で、自分が四球で歩いては盛り上がらない」と王が考え、公式戦では見逃すようなボール球にも手を出していた。
あるいは野村も王のそういう考えを見透かして、ストライクゾーンをギリギリ外れる球で勝負していた、というのが王のオールスターでの不振の原因ではないかと考えています。王の公式戦・オールスターそれぞれの「3ボールからの打率」というデータでもあればいいのですが、
それがわからない以上想像でしかなく、
「『四球を出しては盛り上がらない』という考えはむしろ投手の方にあるんじゃないか。それにオールスターという舞台で対戦相手に王貞治、ボール球じゃなく真っ向勝負を挑みたいと考える投手も多かったんじゃないか」
「オールスターに出るような一流投手なら、そもそも四球をそうは出さないだろう」
などと反論されると返すことができない意見ではありますが。