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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

塩野七生、伝説の「1992年度防衛大卒業式祝辞」が最新エッセイ集に収録(想いの軌跡)

これでたぶん最後となるが、一冊の本から計3つのエントリが書けるのだから費用対効果高かったな。

想いの軌跡―1975‐2012

想いの軌跡―1975‐2012

さて今回の話は、表題の通りなんです。
学校は違うが、自衛隊関連教育施設の卒業式辞といえば、この前小泉進次郎氏が話題になったでしょう。

■政治家と言葉〜小泉進次郎、卒業式スピーチをめぐって
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20121221/p3

しかし、昔はこういう話題といえば、防衛大学で、ここでは福田恆存なんかもスピーチしていたそうだが・・・なんといっても今までで、おそらく一番有名だったのは塩野七生のこの1992年度卒業生に送ったスピーチだったと思う(平成5年3月21日)。というのはこの祝辞、まるまる「文藝春秋」の名物企画「巻頭言」に収録され、評判を読んだからだ。
ちょうど塩野氏は「ローマ人の物語」を書き始め、読者層を急激に広げていた最中だったからかもしれない。
そして式辞はまさに、そのローマ史を題材にとって若い防人に呼びかけるものだった。

自分はその文藝春秋のコピーをとっていたので「おや、なつかしや」「うーむコピーの希少価値がなくなるのは惜しいが、広く読まれるのはいいことだろう」と思ったが・・・ふと気づいた。
「まてよ、当時あれだけ評判になった以上・・・」

んで、冒頭の文章でグーグル大明神のご託宣を仰いだら・・・
http://homepage2.nifty.com/12kan/siono.htm
いや、11年間単行本未収録だったのだから、写した人も「広く世に広めたい、記録を残したい」という意識で、単行本とかぶるとは予想外だったろう。でもともあれごにょごにょ、活用させてもらう。

卒業生の皆さん、そして卒業生のご家族の方々、ほんとうに今日はおめでとうございます。

 もともとが出無精な私なので、このような晴れがましい席に出席し、しかもお祝いの言葉まで述べるなどということは、今日まで一度もしたことがなかったのです。それが、またなぜ、というわけですが、今の私は『ローマ人の物語』と題した古代ローマ史の連作一本に集中する毎日を送っています。その第二巻が、ローマとカルタゴとの間に闘われたポエニ戦役なのです。それでこの一年間というもの、私の頭は、戦略や戦術や武将たちで占められてきたのでした。しかも、ポエニ戦役の主人公であるハンニバルスキピオも、そして私が古代の戦略戦術を勉強するためにとりあげざるをえなかったアレクサンダー大王も、いずれも二十代から三十代にかけての若さで、戦史に残る業績をあげた人物です。

 こういうことばかりを考えていた私に、防衛大学校の卒業式で話せ、というお話がきたのでした・・・・・
(略)

古代にしろ戦争を書いていながら、さまざまなことを考えさせられたものでした。 まずはじめは、一級の武将は、イコール一級のシビリアンである、ということです・・・
(略)
なぜ彼らにだけ、優れた戦術を考え出すことができたのか。 私の思うには、それは彼らが、一般人よりは柔軟な思考法をする人物だったからだと思います・・・
(略)
軍事とは、まったく政治と同等に、いや、すべての分野と同等に、総合的な才能が発揮されてこそ一級になるのだと思います・・・
(略)
最後に、一つだけお話しておきましょう。それは、私益の追及は、それがよい形で成されれば、必ずや公益の達成につながる、ということです・・・

(略)
一級の武人になることはなかなか大変なことです。でも、シビリアンの世界でも、一級になることは、同じく大変なことなのです。
 私には、ハンニバルスキピオも、軍事力を使うことしか知らないだけの男には書けませんでした。私が書こうとしなかったからではなく、彼らの実態がそうではなかったからです。・・・・