- 作者: 水道橋博士
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2013/01/25
- メディア: Kindle版
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アップルストアから無事発売された『藝人春秋』は好調な売り上げを記録。
有料ブックチャートではベスト100にコンスタントに入り、
文春から出している電子書籍の中では、
ナンバーワンのダウンロード数を記録する
(水道橋博士のメルマ旬報2号)
となり、ついでにアップルからは
「コンテンツの中に過激な性的表現あるので、いま誰でも見られることになっているセクシャルのレートを、年齢の高い人用に設定しなおす必要があります」
(同)
といわれたという書である。(ちなみに「性的表現」をスタッフが見直したら「傍から見れば、ボクたちは、ホモ談義に明け暮れる同じアナルのムジナ、サブカル談議に菊花を咲かせる、性癖同一性障害の二人に見えたことだろう」(吉田豪)みたいなギャグネタばかりで笑ってしまったとか)
そんな話題の書が大幅加筆され、紙としても満を持して登場となった。
ゴシップをいかに普遍性と個性につなげるか
まずはじめに、この前亡くなった丸谷才一氏が、司馬遼太郎の歴史小説の魅力のひとつを「ゴシップの魅力だ」と論じたことを・・・有名な話だけど紹介させてほしい。
言われればその通りで、日露戦争で日本が勝っただの、関が原で東軍が勝ったということは皆知っている話だ。しかし司馬は、ごくマイナーな古文書や地域の伝承なども駆使し、主要な・・・家康だ東郷だといった、だれでも知っている人たちの日常的な言動を、細部にちりばめていく(まあ全部が全部史料に沿っているかは知らない)。或いは、無名人たちがその、大事件、有名人に関わった様子をさらりと盛り込む(例えば宮古島から「バルチック艦隊を見た」と伝えにきた久松五勇者の挿話など)。
こう、評した丸谷氏自身も
「僕の小説論の根本には『小説は大掛かりな、手の込んだゴシップだ』という思いがある。…小説の読者には、自分より裕福な生活を送る人間の内情に対する関心が強いんです。僕はゴシップをいかに文学に高めるかを考えてきたわけです」と公言しているのです。
http://blog.goo.ne.jp/takasin718/e/d80194b3cf31b33dfddf1192251605bf
としてきたし、こんな本まで出している。
- 作者: 丸谷才一
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2007/10/10
- メディア: 文庫
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ようはこの「藝人春秋」もそのようなかたちの「人物ゴシップ・論」のひとつの傑作だと考えていいのではないかと思うのです。「人物スケッチ」という言い方をしてもいいかな。
ここでamazonの紹介文を挿入するノダ
人気漫才コンビ・浅草キッドの一員であり、芸能界ルポライターをも自任する水道橋博士。現実という「この世」から飛び込んだ芸能界という「あの世」で二十数年を過ごす中で目撃した、巨星・名人・怪人たちの生き様を活写するのが『藝人春秋』です。
たけし軍団の先輩、そのまんま東が垣間見せた青臭すぎるロマンチシズムを描きだす。古舘伊知郎の失われた過激実況に、過激文体でオマージュを捧げる。苫米地英人と湯浅卓の胡散臭すぎる天才伝説に惑乱させられる。稲川淳二が怪談芸を追い求める、あまりに悲劇的な真の理由に涙する。
爆笑問題、草野仁、石倉三郎、テリー伊藤、ポール牧、三又又三、ホリエモン……選りすぐりの濃厚な十五組。
中学時代の同級生・甲本ヒロトのロック愛に博士自らも原点を見出すエピソードは、感動的ですらあります。
そしてその原点・ビートたけしと松本人志という、並び立たぬ二人の天才が互いへの思いを吐露した一瞬に見える、芸人の世界の業の深さよ。博士が「騙る」暑苦しく、バカバカしく、そして少し切ない彼らの姿からは、「父性」を乗り越えようとする男の哀しい物語が浮かび上がり、その刹那「藝人」は「文藝」をも超えてゆきます。
電子書籍で話題沸騰した作品を完全全面改稿・加筆し、博士生誕五十年を(自分で)記念する、渾身の一冊です。
まだつづく
沢木耕太郎のエッセイを思い出したこと。
司馬遼、丸谷のゴシップ論のついでに、本書自体の紹介の前にもう一本補助線を引いておきたい。
自分が読みながら思いうかべたのは上のゴシップ論もそうだけど、何より、沢木耕太郎の長文エッセイ集や人物論集だった。
- 作者: 沢木耕太郎
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1989/05/29
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- 作者: 沢木耕太郎
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1996/03/28
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- 作者: 沢木耕太郎
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2012/04/13
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- 作者: 沢木耕太郎
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1996/03/28
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- 作者: 沢木耕太郎
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 1989/07
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下の2作品はもともと人物論がテーマの本だけど、ほかはエッセイのテーマに関係して時々、おやっと思うような有名な人物が登場する。出版社のパーティ会場だったり、自宅に招かれたりで会うのは当然という章もあるが、時々公衆トイレだとか、喫茶店で近くの席に・・・とかへんな偶然もあるので驚きだ。前出の丸谷氏はまさに「喫茶店で、異様にでかい声で古今の人物のゴシップやら何やらを語っているへんな男がいた。しかも話が面白いのでシャクだ。帰りがけに顔を見ると丸谷才一だった」というふうに、沢木エッセイに登場する。
ゴシップというのはそれ自体の面白さもあるけど、「有名人のXXXがこういった」とセットで語られるのがやはり本来。その点で、実はこの「藝人春秋」、意外なほど正統派の本なんじゃないか・・・と思うのです。
印象に残ったところなど
補助線を引きすぎて逆にややこしくなった感じもあるが、さて本題。
しかしブログは字数制限が無いからな・・・自分は面白いところの引用を重ねて書評をするタイプだが、この本から印象に残るフレーズやエピソードを引用しているとどこまでいっても終わらない。
あらためて最初の「そのまんま東(東国原英夫)」の項を見るだけで
「ここ数年は主に謹慎を中心にした芸能活動を行ってまぁすぅ!」
「これからは、お前らと3人組でやっていくから・・・よろしくお願いしまぁすぅ!」自分勝手に宣言し、ボクたちとトリオではじめた雑誌の連載も、対談候補の女性タレントたちからキッパリと「そのまんま東と一緒はNG」を告げられ瞬く間に終了した。
知事選の前に「東京都青少年の健全な育成に関する条例改正」について事態が紛糾した・・・(略)…石原都知事への批判が巻き起こった。この問題にボクが東さんに条例の争点をレクチャーしたことがあった。話を熱心に聞きながら東さんがひとこと。
「小野ぉ(ボクの本名)俺がそのことを批判したら『お前が言えるか!』って突っ込まれるだけじゃねぇかぁ?」
なんてネタが山ほど出てくるのだ(笑)。東国原氏といえば2000年代のポピュリズム運動などを考えるときの重要なプレイヤーとしてはずせないが、後世の政治学徒がそれを研究するとき、こういうエピソードは外せないのでは・・・いや、むりにでも外さないと学術論文としてまずいか(笑)
ただ、こういう笑える話・・・それこそ東国原氏の「半径50センチ」に密着したからこそ書ける言動の中から「そのまんま東兄さんは、酒席ではひどい絡み酒になる。でもほとんどが後輩ではなく、たけし師匠を含んだ目上、大物、先輩に絡んでいく・・・」ということを観察する。
そして博士は、そのまんま東のそういう場面を見ると、内心「出ました、”田舎のジェームス・ディーン”!!』とつぶやいていたというのだ。「エデンの東」に絡めた、この一行の批評性!そして「先輩のあれは『父親探し』なんじゃないか?」と考えたところで、「謎解き」ともいえる、本人の自伝小説が出版される・・・
当たり前だが、どんな面白い材料・・・鮮烈な体験や、興味深い人物の重要発言を拾える立場にいるとしても、それをどういう構成で表現できるかによって完成度はまるで違ってくる。それはこの書評がすでにだらだら長くなっているところで、ひとつの悪い例になっているだろう(自爆)。
たとえばこの「そのまんま東」の回は、善悪どちらにせよ話題を振りまいたお笑い芸人兼政治家のエピソード集に見せかけながら、一種の「謎」を提示し、最後にそれを見せている。こういう構成の妙が、やはり読者の評価に現れていくのだろうと思う。
この種の構成の妙は、最後の「オチ」部分にも特に集約される。
草野厚氏がテレビ収録の歳、表情を曇らせていったある要望。
テリー伊藤氏が、「たけしさんの最大の魅力」について語るやりとり。
そしてそのたけしが、六本木のクラブで、「初めてダウンタウンの名が具体的に取り沙汰され」たときの一言。
引用ははばかるので、実際に読んでもらおう。
どう「聞き出す」か。「芸能人のふりをしたルポライター」の諜報術
ここは個人的に、特に面白かったところを「古館伊知郎」の回から。
”ルポライター芸人”というアドバンテージがあるとはいえ、だからといってぼーっと芸能界にいるだけで、有名芸人の言行録が書けるはずも無い。次々とありえないぐらい、あっちから事件がやってくるのは昭和時代の東京スポーツのプロレス担当記者か、名探偵コナン君ぐらいだ(笑)。
古館氏と博士は、高田文夫氏に誘われた打ち上げの場で出会う。ちなみにちょうど博士は、「変装免許事件」で謹慎中だ(笑)。
このやり取りを、”自分の意識の中でこの場面が古館風に実況されている”という書き方で回想していて、その部分もおかしいのだが・・・
「(略)従来のスタイルを変えて、いつから古館節が始まったのか、古館さん本人は覚えてますか?」
突然、十数年前の昔話を持ち出されて怪訝そうな古館さん。実はこれには、以前からボクなりの持論があった。
と、本人も覚えていないあるフレーズを持ち出して一種”虚をつく”。そしてそのあとは逆にプロレスの話題からサッと離れて、こう畳み掛けるのだ。
ボクはプロレスの話とはまるで違う、トーク番組『おしゃれカンケイ』のクライマックス「16小節のラブソング」で手紙を読むときに、なぜゲストの前で情にほだされることなく冷静に読めるのか?と・・・
すると古館さんは細い目を一度自覚的に大きく開くと、顔を作り直して答えた。
「・・・博士ぇ、オレはね(※ここからが面白いのだが、残念ながら後略)」
稲川淳二の記事、について
稲川淳二氏の記事の話も興味深い。実はこの原稿は2002年に「笑芸人」に発表されて大きな反響を得て、「すぐにこれを中心に本にしたい」というオファーがあったのだという。しかし
人の病気や哀しさを活字にしていて、それが「泣ける」なんていわれると、どういう顔していいんだろうって。それで純粋に稲川家のプライベートな話じゃないですか。そこを引用して、こんな話、実名で書いて、発表していいのかしらなんてね。ガラにもなく思うんですよ・・・(略)漫才じゃ不謹慎の極みでヒドイことも言ってますよね。普段は、そんなワタシがね。こんな原稿だけ、シリアスになってね・・・(※読んでわかるでしょうが、稲川怪談話のパロになってるわけです)
しかし2012年5月24日の朝日新聞に・・・・と、なる。
これも反響は大きかったと聞くので、ご存知の方も多いだろう。
同級生・甲本ヒロトとのはなし
なんといって注目を集め、評判が流れていたのが中学時代の同級生だった甲本ヒロト氏の話だった。
「有能なスズキ秘書」という登場人物も得て、やはりほかの章とは一味違うというか、ちょと青春的な雰囲気が感じられる。
そのスズキ秘書の体験ーーー。
スズキが14才の時---。
毎週木曜日は『ビートたけしのオールナイトニッポン』に耳を傾けていた。圧倒的なフリートークの合間に曲紹介もあるが、いつも素っ気なく曲名を読むだけなのに、この日は違った。
「俺よぉ、今、ブルーハーツに凝ってるから!」
(略)
少年の神さまが、新たに神さまを紹介した。
ここからまた博士自身の話になり、博士自身も名前が売れて、同級生対談(正確にはキッドとしての鼎談)をやったときの話とも言ったりしながら回想される。
たけし軍団入門2年目の博士が同級生と飲んでいる時に、彼の話題になって「ロックじゃ食えるわけないよぉ!」「辞めたほうがいいよお!」と熱弁中、店内に『キスしてほしい』が流れた、
とか、
1988年の「オールナイトニッポン」でブルーハーツがゲスト出演、
そのときに顔を合わせ
「あぁあ!小野くぅん?」
「・・・おぉ・・・久しぶり…ですねえ」
と敬語で接するしか出来なかった場面、などを、演出も混じっているかもだけど回想している。このへん、梶原一騎だったらもっとどろどろした情念で描写するのかもしれないが、なにしろ相手はヒロトであることもあり、なんとなくさわやかだ。
そして対談ではサボテン・ブラザーズの一場面(町山智浩氏も「藝人春秋」批評で再引用していたね)や「芸でなく気持ちのコピー」「楽しいと楽は同じ字だが違う」「ロックンロールは世の中にまかり通らないものを『かっこいい!』って捻じ曲げるマジック」などの名言が連発される。文中で博士も感心していたが、これの末尾を「・・・でげすな」と江戸の老芸人風にして、「ロック」を「落語」にしたら、白髪頭の通がうなる『芸談』になるわ。
・・・あ、10年ほどしてほとぼりが冷めたら、そういうニセ落語家の芸談をでっち上げてみようかな(笑)
ところで、この書評の前半で(長いんでもう忘れたかもだな・・・)、そのまんま東の回を「謎解きのような優れた構成をしている」と評したが、この甲本ヒロトの回でもちょっとした謎がある。
対談でいう。
「クラスは一緒だったんですか?」と玉袋。
「ヒロトとは一緒じゃないよね」
「うそぉ!なってねぇの、俺たち?」
「うん、オレはクラスが1-D、2-A、3-Cだから・・・」
「よぉそんなこと覚えとらんわぁ!じゃあ一緒に授業受けたことないんだぁ。なんで俺、小野くんのこと知っとるんじゃろう・・・・」
これ、結局なぞのまんま話が終わってるんだよ!(笑)。
まあ、分かるはずもないんだけどさ。いや、分かりきってる、とも言えるかも・・・
そしてこの本ではスペシャルに、甲本ヒロトは2回取り上げられているが・・・最初の章の末尾に、追記として博士は
【その後のはなし】ヒロトは何も変わらない。
と記した。しかしもう一つの章では、こうつながる。
その一行は、甲本ヒロトそのものを言い表した・・・と思っていた。
しかしヒロトマニアのスズキ秘書には一言あったらしい。
「ヒロトはそうとも言い切れないんですよ」
このへんのやり取りもまた、興味深い
最後に「いじめ問題」を。
ここでは「爆笑”いじめ”問題」も収録されている。稲川淳二の章でも少し触れられているが、
この章はウェブで公開されている
http://hon.bunshun.jp/articles/-/1045
いじめ問題によせて
〜「爆笑問題といじめ問題」全文公開〜
『藝人春秋』(水道橋博士 著)水道橋 博士
2012.08.03 08:00
いじめ問題が大きな社会問題になっている今、話題となっている文章があります。現在、電子書籍として好評発売中の『藝人春秋』(水道橋博士・著)に収められている章のひとつ、「爆笑問題といじめ問題」です。
以下は著者・水道橋博士からのメッセージです。朝日新聞から朝刊で連載している『いじめられている君へ』に執筆依頼があった。
大津のいじめ事件以降、各界の識者が、この稿に言葉を寄せている。
しばし考えたが結果的には、断った。
とは言え、この要請に「断る」のも些か引っかかる。
僕が『藝人春秋』に書いた『爆笑問題といじめ問題』という章は、「いじめられている君へ」まさに、そのテーマで2006年に記している。
今は単行本化の作業をしているのだが、しかし、この章は無料公開することにした。
これもいくつかのウェブニュース(例:http://biz-journal.jp/2013/01/post_1318.html)にもなるなどし、すでに話題になっているが、一応参考情報として。