※「大阪編」終了後のとある一日の話…
「廻は今日、ジムに顔出すそうだぞ」
電話を置いた「ファイターズ・ブリュー」ジムの古屋健一郎が、ジムにいる所属選手、会員に大きな声で知らせた。
「あいつ、もう練習再開するンすか?」と北村勇大が尋ねる。
「いや、今日は挨拶して、少し調整するだけらしいぞ。そんなに大きなダメージはないらしいけどな」
それを聞いた絹川まりあが、サンドバックを前に練習していた神谷真希(マキ)を振り返ると、悪魔のような笑みを湛えて語りかける。
「あら、よかったじゃな〜い。マキちゃん、昨日言うって誓ってたあの言葉…さっそく今日、メグル君に言えるわよ?」
「わ、わかってるよ!!」
マキは会話を打ち切るために、サンドバックをさらに激しく叩いた。
いつから、そう思うようになったんだろう?
マキは、自分の「思い」を、時間をたどりながら回想していた。
最初に会った時は、別になんとも思ってなかった。あいつがやっている「総合格闘技」自体も、自分には何の縁もないものだったし。
でも、自分でも総合をキックと一緒にやりはじめて、あいつのやってきたことがわかってきた。
関東選手権はあいつ、補欠出場で、準決勝で負けたんだっけ。
負けたあとも「マキちゃんに習ったミドルキック出せなかった」なんて謝ってきて、こっちが何も答えることできなかったっけ。それから、だんだん首相撲の練習でも強くなってきて…
そして今。
大阪の大会に出るため、こっちにあいつが来なかった、たった数日の間に、自分の思いが、具体的になっていた。
練習後の休憩で、つい油断して、その思いがひとり言になっていたとは…しかも聞いてたのが、まりあさんだったのがマズかった。「あらあらあら〜。やっぱりマキちゃん、メグル君のことそう思ってたんだ〜〜。でも、それ、はっきり彼に言ってあげないとね!!。」
「おうっ!」(コクコク)
「桃子! お前まで何だよ!!」うしろのほうで聞き耳を立てていた田宮兼政、浦沢伸二が「けっ」「けっ」と言いながらイヤミと自虐の言葉を並べる
「はーいはい、たぶんいつか、そういうことになるんじゃないかと思ってましたよ」
「わたくしどもには、そーゆーのはまったく縁のないお話ですがねえぇぇぇ」
「てか、聞いてんじゃねーよ!!」とマキが叫んでも、じとっとした視線は消えない。
さすがに古屋は、あえて聞こえないふりをしつつも腕組みしながら目をつぶり「うんうん」と頷く。
「その『迷える若者を見守る、いい人生の先輩』みたいな態度もやめろ!!」
マキが叫べば叫ぶほど、道場を巻き込む話題となっていった。そしてそもそもの元凶であるはずのまりあが、<女子高ノリ>ではやしたて、それを最終的にはイベント化してしまった。「メグルが、大阪から戻って最初に道場に来たら、マキが自分の思いを、メグルに伝える」
知らないうちに、それをマキに”公約”させるぐらい、まりあにとっては、寝技でマウントから腕十字を決めるよりたやすいことだった。
☆ ☆ ☆ ☆
そして今、その場面が来てしまった。ドアが開く。
すでに緊張で、のどがからからだ。「こんちゃーす!!俺、おかげさまで…大阪優勝しました!全日本です!!」
メグルが、屈託ない笑顔でみなに挨拶する。
そしてマキに視線を合わせると、さらにその笑顔が輝いた!
「あっマキちゃん!!マキちゃん直伝のミドルキック、やっと実戦で使えたよ!!しかも、それでKO勝ちしたんだ!!」
…こっちは、こんなに緊張してるのに、なんか腹立つなあ。
…こいつ、こんなに身体大きかったかな。もっとチビに見えてたけどな。
…優勝で、自信がついたのかな。堂々としてら。
いろんな思いが、一瞬のうちに去来した。
でも、まずは、あの言葉を言いたい。
大阪に行って、オマエがいないときに確信した、あの思いを。
「メグル…あのさ。」
「ん?なに?」
思い切って、その言葉を言った。「主役代われ」
「え……」
「お前が試合に出ずっぱりで、アタシが連載に出てないと、読者が納得しないんだよ」
「あの…」
「『オールラウンダー廻』も『キックボクサー真希』もタイトルの字数変わらないしさ」
「その…」
「アニメ化は、アタシのほうが狙いやすいと思うんだわ」
「・・・・・・・・」
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さて、このあと主役が代わっての『キックボクサー真希』が大活躍し、毎回イブニングの表紙を島耕作の代わりに務めたり、ドラマ化・アニメ化されたりと続くのですが、それはまた、別の話。