【創作系譜論】
昨日の続きで、ここだけ独立したエントリにします。
- 作者: 浅羽通明
- 出版社/メーカー: 洋泉社
- 発売日: 2012/10/25
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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第十二講:ループの時代を超えてゆくために
平成ユートピアの囚われ人――「けいおん!」『門』「上海バンスキング」ほか
http://www.yosensha.co.jp/book/b104154.html
となっています。
なぜならその前の段階で、
・時間ループの仲間としての「浦島太郎」
・未来の目標もぼんやりした学生もしくは高等遊民として、若者が都市でたゆたう夏目漱石の「三四郎」「それから」
なども仲間として位置づけているからですね。とくに後者は、明治時代なら帝大出エリートで超お金もちの息子だからこそ可能だったものが、高度成長と都市化によってけっこう誰でも可能になった、ということも指摘されています。
それについてまとめたのが、この前のエントリでもある
■「繰り返される時間」は悪夢か、ユートピアか?・・・浅羽通明「時間ループ物語論」
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20121205/p6
でした。
浅羽氏は最終章で、もう一度三四郎やそれからなどを、森鷗外などと対比させて紹介、学生時代の「黄金のまどろみ」の楽しさ、ユートピア性と「時間ループ」の類似性を語ります。
それを円環的時間といい、成長し、変わっていくものを「直線的時間」と位置づけ
学生時代には二つの側面があるのでしょう。・・・明日、世の中で戦える自分を鍛えるための修行期間と・・・今日、黄金の微睡みをむさぼるべきユートピアと。
よりよい進学、よりよい就職を目指しての勉学は前者です。将来のプロでニューを見据えて厳しいトレーニングに明け暮れる運動部なども前者です・・・旧友とたわいない会話に興じる休み時間、文化部や帰宅部の放課後、いまを燃焼し尽くす学園祭などは後者でしょう。
(略)
ここで気づいたことがあります。・・・おたく方面の用語で「日常系」というのがありました。「空気系」ともいい・・・1ジャンルの呼び方です。
具体的には・・・アニメ「けいおん!」が「日常系」の代表作とか到達点とか言われています。描かれるのは高校の軽音楽部でバンドを組んだ四人、やがて五人の女子高生たちが放課後の部室でほんわかと過ごす仲良し模様ばかり。バンドといっても、プロデビューを目指すわけでもなく、音楽的こだわりがあるわけでもない。恋愛や葛藤もまったく起こらない。バンド名「放課後ティータイム」そのままの、のほほんふわふわな日常が続く・・・(※映画でロンドンへ行っても同じ、云々)。
- 出版社/メーカー: ポニーキャニオン
- 発売日: 2009/07/29
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あるいは・・・「らき☆すた」も「日常系」の代表作といわれます。登場人物の中心はやはり女子高生仲良し四人組み。彼女らが円錐形化しパンチョココロネはどちらから食べるのが正しいかをひたすら議論するたわいなさは、しばしば「日常系」の象徴として取り上げられました。ほかにもこのジャンルの走りとされる「あずまんが大王」「苺ましまろ」などが日常系とされています。
- 出版社/メーカー: 角川エンタテインメント
- 発売日: 2007/06/22
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- 作者: あずまきよひこ
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2009/06/11
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すばり「日常」という作品もあります。これには天才幼女科学者や女子高生型アンドロイド、猫や鴉に人語をしゃべらす器械などが登場し、シュールで不条理なギャグが満載です。ならば非日常ではないかと思われるかもしれませんが、日常系なのです。なぜならそれはたわいないギャグのネタとしてしか使われず、そこからSFファンタジー的な物語などは決して立ち上がってこないからです。
- 作者: ばらスィー
- 出版社/メーカー: KADOKAWA
- 発売日: 2003/01/26
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- 作者: あらゐけいいち
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2007/07/26
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と、有名作品を紹介した上でこう続ける。
それではこれら「日常系」と対称をなすものは何でしょうか?
「非日常系」でしょうか?
私はあえて。そうではないと考えます。
昔は「日常 vs 非日常」の対立軸もあった。
しかし今は・・・
「日常(含む非日常) vs 生活」
ではないか、そう、彼はいう。
日常はいまも昔もあります。しかしかつては日常の裏側には生活は不即不離に張り付いていた。日々を行きたいのならば、逃れられない衣食住とそれを確保するための労働から成る生活が。それは辛くしんどくて当たり前でした。「生活苦」という言葉はあっても、「生活楽」とはいわない。「日常苦」もない。であるからこど、フェリーニの『甘い生活』、糸井重里の「おいしい生活」が反語的に輝いたのです。
人間は「生活」からは離れられない・・・しかし人間は生活苦を緩和するために安心できる「日常」と歓喜できる「非日常」を文化的に生み出し、「生活」を包み飾ってきました。
ここからは箇条書きで。
・(先進国では)電化によって「生活苦」が軽減、メディアと都市の発達で面白く楽しい「非日常」も安く手に入るようになった。
・「それから」の主人公的な、学生時代の延長のようなすごしかたも多くの若者のものとなった。
・その中で子供を授かり、その子が成長していくという場合、それは直線的時間を内包する。子育て漫画は多く直線的であり「生活」が描かれる。
(例示された作品)
- 作者: 福満しげゆき
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2007/12/21
- メディア: コミック
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- 作者: 宇仁田ゆみ
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- 発売日: 2006/05/19
- メディア: コミック
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では・・・・と、暫定的、仮説的な結論が提示されるのですが、そこは略す。
あらためて見ると自分は真っ先に名の挙がった「けいおん」も含め、呼んでない作品のほうが多い・・・ので妥当性の審判はいまいち出来かねるだが、まあなんか、多くの人が興味のありそうだった一節なので、紹介した次第です。