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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」の余韻/創作の舞台裏(g2)、そしてプロレス界の猛反撃!(Gスピリッツ)

いまだに余韻覚めやらない「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」。
講談社のノンフィクション専門ムック「g2」で、作者の増田俊也氏が、この本を世に問うまでの舞台裏を書いている。

G2 vol.10

G2 vol.10

「『木村政彦 vs. 力道山』真剣勝負の勝者」増田俊也


この連載が始まったとき・・・自分は面白いなー、と思ったが、いささか誌面の中では浮いていて、ネット上では掲載に不満の声も聞こえた。それはゴン格が連載当時は既に政教分離ならぬ「プロレス・格闘技分離」をほぼ終えており(カール・ゴッチの重視などは例外といえる)、木村政彦論がそのかくかくたる柔道の実績や、ブラジルでのグレイシー撃破にとどまるならいざしらず、表題の通りの「力道山vs木村政彦」まで描くならそれはやはりプロレスの話になるだろう、と思ったからだ。

木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか

木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか

で、g2上の「始まった経緯」を見ると、そもそもまず第一項的なものを増田氏は十数年かけて書き上げたものの、いろんな経緯でどこに発表するという確たるプランがないままだった。
そこでゴン格に、いきなりその原稿を送った・・・のだという。
そして、非常な偶然なのだが・・・編集長はその原稿が送られる直前、増田氏の「シャトゥーン」を読み終えていたのだ!
シャトゥーン ヒグマの森 (宝島SUGOI文庫) (宝島社文庫)

シャトゥーン ヒグマの森 (宝島SUGOI文庫) (宝島社文庫)

シャトゥーン 〜ヒグマの森〜 1 (ヤングジャンプコミックス)

シャトゥーン 〜ヒグマの森〜 1 (ヤングジャンプコミックス)

編集長は、いった。(大意)

自分は実は、北上次郎(註:「本の雑誌」編集人にして書評家、とくに冒険小説評論家。椎名誠の盟友)の弟子である。
その北上さんからこれはすごいと言われて「シャトゥーン」を読み終え、興奮していたところです。そこに作者の増田さんから原稿が来た。
すでにページの割付は決まっていたが、いま自分の権限で6ページ空けた!!
次号から連載を開始します!!

ちょっと、東京ドームを押さえた長州力入ってます(笑)
その後も要所要所で大増ページをしたり、関連特集をやったりして・・・単行本になってそれがベストセラーになっていくと作品はどうしてもその単行本で記憶・記録され、初出の雑誌は物好きが図書館に行って調べる程度になってしまうけど、この作品はそういう形でのサポートも行った「ゴン格」の功績も相当大きい。
実のところこの本、単行本化の時に大幅に加筆・補足してお得になるようなノンフィクションのおあにいさんとは、おあにいさんのできがちいっとばかり違っていて、何しろ完成した単行本は700ページの超分厚い本になってしまったが・・・ここに納めるためには「割愛」せざるを得なかったらしく、だからこの本に熱狂した本当の愛好家がいるなら、実は完全版「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」を読むために、連載4年間のバックナンバーをそろえるのが吉なのである(笑)。
連載当初は雑誌名が、大人の事情で「GONKAKU」なので注意。

GONKAKU (ゴンカク) 2008年 01月号 [雑誌]

GONKAKU (ゴンカク) 2008年 01月号 [雑誌]

から
GONG(ゴング)格闘技2011年7月号

GONG(ゴング)格闘技2011年7月号

そして「卑怯な闇討ちで木村先生は一敗地にまみれたが、最初から真剣勝負の舞台であったら先生が力道山などというプロレスラーに負けるわけもない・・・」という、最初に想定していた物語の落としどころが、自分の綿密で執拗な「事実への執念」と調査そのものによって否定されてしまうという、ノンフィクション作家についての悲劇、そして醍醐味があったという話は、何度も紹介した。

■長き旅の果てに。作者の意図を離れ、禁断の扉を開いた木村政彦伝の真実は(増田俊也・ゴン格)
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20101226/p1

その後、この創作の舞台裏が吉田豪氏との対談などで触れられ、自分は「このバックステージも面白そうだから、編集者は記録を残しておけ!!」とゆうてたのですが、

増田俊也吉田豪に「木村政彦伝」の苦労を語る。長期連載が生む「狂気の行進」。
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20110712/p1

今回、作者の方から見た「長期連載バックステージもの」の文章が世に出され、半分ほどは満足。
しかし、松山郷ゴン格編集長のほうから見た記録が不必要になったかというとそーではないので、ひきつづき要望したい。ゴン格自身でそれを載せるのは気恥ずかしいというなら、サダハルンバ、クマクマンボがそうであったように、紙プロ遺伝子…つまりKAMINOGE、Dropkickあたりのインタビュー記事どうでしょうかね?
マツヤマンボ、ゴーマツヤマ・・・どんな異名をつけるかはお任せします。

あ、スポナビでの独自インタビューってできないでしょうかね??

なんと!「闇の勢力」がこの作品にクレームをつけてきた!!!

実はこの作品の連載中、ブーイングにとどまらず、いろんなところから「脅し」が入ってきたというのだ!!
それもプロレスファンから抗議がくるのはまあわかるにしても、シャレに相当ならないようなところから、入ってきたそうだ。
ほんの一部、その痕跡は単行本にも残っている。
力道山vs木村政彦の試合映像が、カットされたものした残っていないことに関して・・・

(560P)
・・・力道山にとって都合の悪い部分はすべてカットされているようだ。完全映像を探したが、途中で裏の人間にぶち当たった。
「完全版フィルムはどこにあるのか」と言う私に、最後は脅すような言葉を吐かれ、諦めざるを得なかった

連載時に読んだときも「え?こんなことにあの業界がいまだにこだわってるの?」と驚いたもんだったが。

なんでだろうねえ。
あの世界はけっこう、「マーク」な人たちが多いという文章も読んだことがあるから、そのへんなのでしょうか。年代的に、今では相談役だ顧問だ、温泉地あたりに隠居した「熱海の御前」とか言われるような大物が
「リキさんが闇討ちをした卑怯ものだとか言って、こそこそ調べまわる野郎がいるとな!!!ゆ、ゆ、ゆるせん! おまえのところのイキのいいやつら、4、5人ほど見繕ってすぐこい!」みたいな…
そのへんの圧力を跳ね返したり、うまく受け流すのが編集部の大仕事ですが・・・ん?なんで第十四回は2009年2月号、第十五回は2009年4月号と1号空いているのかな?そのへんの顛末も「g2」誌上にて。

しかしそこに「プロレス」が反撃だ!!武器はそのまま「プロレス」!!・・・「木村、有罪!!罪状は…『しょっぱい』!」

一昨日のコメント欄より

ナタ 2012/06/27 16:49
やっと木村本に対するプロレス側界からの応答が来ましたよ。
まずヤオガチは置いといて、木村が「しょっぱい」っていうのを誰しも言ってるのがちょっと面白いかも。
https://bemss.jp/g-spirits/cont111_003_006.php?kmws=uqrlam6vqscb14ie7cdvp21114

Gスピリッツ Vol.24 (タツミムック)

Gスピリッツ Vol.24 (タツミムック)

Gスピリッツ

【総力特集】力道山vs木村政彦

プロレスラーが史上最大のセメントマッチを解説する

[プロローグ]
プロレスラーが力道山vs木村政彦を語ることはタブーなのか?

[試合解説]
俺たちが観た力道山vs木村政彦
―プロレスラーが史上最大のセメントマッチを解説する―
ザ・グレート・カブキ
木村さんはプロレスラーとして、しょっぱかったんだよ。最後は“これじゃ試合にならねぇ”“3本目までやる必要ない”って判断したから、力道山はガチンコに出たんだと思う

キム・ドク
「木村先生が“力道山の試合はジェスチャーの多いショー”と言ったらしいけど、逆にそれができない“プロレスラー”木村政彦に対して、力道山先生が怒ったんじゃないのか? 」

藤波辰爾
「プロレスを始めて何年も経ってないんでしょ? この時点では、若手なんですよね。若手はお客さんの前に出ると、不思議と動けなくなっちゃう。プロレスって、そういうものなんですよ」

ケンドー・ナガサキ
「柔道は強いのかもしれないけど、木村っていう人はプロレスラーとして何もできないね。引き立て役をやらされたのも、しょうがないよ。上に持ってきても、あれじゃ売れない」

グラン浜田
「試合としてはまったく面白くないけど、ああいう結果で良かったんじゃないの。仕掛けて来た奴を逆に潰すのはアリだし、受けずに攻めても来ない奴を潰すのもプロレスだろ」

大仁田厚
「裏に何があったかを論じる以前に、木村さんは“金をもらう戦い”の中では、まだまだアマチュアだった。金儲けのためには手段を選ばないプロの世界に負けたんじゃないのかなと思う」

渕正信
「どちらかと言えば、木村政彦の方がカタいよね。それに自分で試合を作れないし、力道山にも付いていけないって感じ。馬場さんが言ってたよ。“下手クソな奴には気を付けろよ”って」

初代タイガーマスク
「これはお互いが熟していないから起こった事故であって、その範囲で最高の試合をやったんだと思います。2人とも、後のプロレスを構築するための『神』だったんですよ」

天龍源一郎
「お互いに“簡単に投げられないわけにはいかない”“恥をかいちゃいけない”という気持ちから、安易に相手の攻撃を受けないことで緊張感が生まれているのは確かですよ

前田日明
木村政彦戦と関係ないと言われていますけど、きっと力道山はこの試合が終わった後に“俺は殺されるだろうな。将来、何かあるだろうな”って予感していたんじゃないかな」

武藤敬司
「木村先生はストイックで、“競技としてのプロレス”しか頭になかったんだと思うよ。“プロレスのサイコロジー”という面では、力道山の方が長けているんだよね」

船木誠勝
「木村さんにとっては嫌な展開だったはずで、“抵抗しなければ”という感情が見えますね。お互いに、弱くは見られたくない。これはそういう真剣勝負だったと思います」

馳浩
力道山先生の最後の部分は、“何でこんなしょっぱい奴と試合をしなきゃいけないんだ!”“プロレスもできねえくせに、変なことしやがって”というのが非常にわかりやすく出ていますね」

ウルティモ・ドラゴン
「もしこの試合が引き分けに終わっていたとしたら、日本のプロレスって発展しなかったような気もしますよ。僕らが今こういう仕事ができているのも、ああいう結末があったからなんです」

鈴木みのる
「最初はキレイな試合なんですけど、段々とグジャグジャになってくるんですよ。返すことも嫌になっていったんじゃないですか? そういう時って、イライラが募ってくるんですよ」

ザ・グレート・サスケ
「試合が進むにつれて力道山の“プロレスラーとしての凄味”というのが膨れ上がってきて、木村さんの心境としてはもがいている。もう完全にアリ地獄にハマっているんですよ」

高山善廣
「最後の木村さんの急所蹴りのシーンばかりクローズアップされて、力道山が一方的に仕掛けたみたいな印象がある試合だけど、よくよく映像を見てみると怒る伏線はあったよ」

望月成晃
「相手の攻撃を受け止めるのも“技術”なんですよ。でも、技を受けないでスカされたり防御されたりが続くと、警戒心が強くなってきて試合が膠着状態になるんです」

■TAJIRI
「この試合というのは、いろいろな幻想や想像が膨らむ、とことん“プロレス”なんですよね。そして、本気の心が渦巻いている。結局、そういうものしか残らないと思うんです」

■CIMA
「この試合によって力道山というスーパースターが誕生したというなら、OKどころか最高じゃないですか。プロモーター視点で見るなら、“大ヒット作”ですよね」

柴田勝頼
「プロレスを単なるショーだと思ってやっていたら、仕掛けられて終わりです。力道山は、この木村戦で“プロの仕事”をしたんですよ。そう自分は解釈しています」

■曙
「キレた時には、身に付いたものが勝手に出てくるんですよ。でも、力道山関の最後のシーンは相撲取りの攻め方ではないですよね。あれは“かわいがり”ですよ」

■定アキラ
「こういう展開になっても試合を続ける覚悟ですか? 当然、持ってますよ。何の問題もありません。僕が練習しているものは、すべてが本当に必要な、嘘偽りのない技術なんで」

[エピローグ]
ユセフ・トルコの「こんなプロレス知ってるかい」
草創期編――力道山、日本マット界制圧への道

この、ずらずらとならんだ「証人尋問」のリストと、その証言だけでおなかいっぱいであります。うん、これが一番の宣伝コピーだ。
 
前歴が柔道家、大相撲力士のレスラーあり、
前歴がアマレス五輪選手のレスラーあり、
MMAを実際に経験したレスラーあり、
デスマッチが売りのレスラーあり、
プロレスやMMAの組織を創り上げ団体の長を経験したレスラーあり、
ルチャ・リブレエストレージャあり・・・・・・

一読し、やはり考えたのが「決まったルールの中で勝敗を競うコンペティティションと、決まっていないルールの中で、それでも競いあうコンペティティション」の違い、そして共通性ということであります。
以前、柳澤健氏の全女インタビューを紹介したときの文章を再紹介します。

http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20110402/p1

1993年の女子プロレス

1993年の女子プロレス

……勝負事は勝負事自体で、それ単独でおもしろい。テニスだろうと野球だろうとゴルフだろうと、表に出たルールでオモテの中で競えば十分だ。
しかし、一見して勝負が行われていないところで、実は隠れた形での「ルール」があり、そこで二人が丁々発止のコンペティションを行っている・・・こういう裏ルールがテーマというのも面白い。

かわぐちかいじ本宮ひろ志
「漢二人、どっちのほうが器がデッカイんだ?」
という勝負も、
へうげもの
「これこそまことの粋!!いや、わびじゃ、さびじゃ!」
という勝負も
ガラスの仮面
「マヤ・・・・・おそろしい子!!!」
もみんなそうだ。

1985年のクラッシュ・ギャルズ

1985年のクラッシュ・ギャルズ


とにもかくにも、今回の「Gスピリッツ」は必読、であります。
ただ、瑕疵を敢えて言うなら、柳澤氏の発掘した「プロレスの中で真剣勝負を行う」ことをシステムの一環としていた全女系のレスラーも、「証人」として召喚し、尋問するべきだったのではと思う。