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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

あと3、4年で、コミケでコスプレしてる人たちとかは、顔写真検索で特定できるようになるんじゃないの?…というSF。

SF小説仕立てでやってみよう。

2015年の、夏の盛りのこと。
「ちこくちこく!」
トーストを加えて、派手な角の付いた兜を被り、マントを翻した女の子…高校生のミドリさんが、ゆりかもめの駅から急いで降り立った。
口には食べかけのトーストをくわえている。
今日はコミックマーケットのコスプレ・デーのある日なのだ。
ミドリさんも気合を入れて「借金戦隊カエセンジャー」の悪役、悪の幹部ムジンクーン姫の仮装をしてきた。
しかし寝坊して、遅刻しそうになったミドリさん、ついつい前方が不注意に…
ドスン!!
「いたた・・・」
「ぎゃふん」
門でぶつかってしまったのだった。
その男性は同じぐらいの年代の男の子だった。目元涼しい美少年である。
こちらは夏なのに革ジャンを着て、手には指に穴のあるグローブをはめ、蛍光灯を持っている。「銀河刑事ガチョン」のコスプレであることは、ミドリさんにはすぐに分かった。

「いててて、ごめん君は大丈夫?」
「あたしこそごめんなさい」
「なんてこった、君は膝をすりむいているじゃないか!ちょっと待って」というが早いかこの男の子、腰に下げた手ぬぐいを口でぴっと細く裂いたかと思うと、女の子の膝をしばりますな。
「これで大丈夫」
「ありがとうございます」
ってなったところで、お互いの格好を見やりこれは奇縁、同じコスプレ参加者でしたか、てな話で盛り上がります。
それじゃあ一緒に行こうかってんで四方山話をしながら会場へ。何しろどちらも同じ東映特撮の愛好家、話の盛り上がらないわけがござんせん。

すっかり意気投合した二人は会場でもそれぞれの仲間も加わり、一緒に談笑しました。そこで二人での記念撮影もしたそうです。
さてもうすぐコミケも終了だって間際になって一天にわかにかき曇り、土砂降りとあいなりました。ミドリさんたちは慌てて会場の軒先で雨宿りをしますが、男の子はなにかを見つめています。
そこにはコミケの大人数を当て込んで心無い飼い主が捨てたとおぼしき白い子犬が、ダンボールの中に一匹。
「お前も、一人ぼっちか・・・」
といってやさしくその子犬を抱き上げる男の子。
 
ミドリさんはじっとその姿を見つめるだけでありました。

さてそれ以降、ミドリさんは寝てもさめても立っても座っても、その子のことが頭から離れない。ならばメルアドでもその時聞いておけ…となるとこの小説の都合上、……いやいやコスプレなんかしてはおりますがこのミドリさんはこれでも良家のお嬢さん、ついついはにかんでメルアドを尋ねるようなはしたない真似はできなかったようです。

2、3日ほどパソコンの大画面で、その男の子と二人で撮った記念写真をじっと見つめるミドリさんでしたが、そんな悩みをしっている、会場にも一緒にいた友人がこんな情報を教えてくれました。
「『三千里」というサイトがあるのよ。ここに自分が持っている画像の顔部分を登録すると、ネット上で同じ顔の人をSNSからブログから検索してくれるんだって!横顔でも斜めからでも大丈夫で、精度は既に99.999%だってさ」
 
おぼれるものは藁をも掴む、でミドリさんは、記念写真の男の子の顔部分を拡大して登録、検索してみましたところ…ほんの2秒で検索完了!!
なんと!
その男の子はなんとミドリさんの高校の隣のクラスの子!
それもタナカ財閥の御曹司、タナカタロウくんじゃございませんか!!!


つづく(ウソ)。

書いていて自分でも途中で気づきましたが、小説にして問題点が分かりやすくなったかといえばなってないな。それに中盤あたりから、最近聞く機会の多い、ラジオ「小沢昭一的こころ」的な語り口になってるし。というか落語調だぞおい。
ちょっと「崇徳院」も盛り込みたかったが(笑)
http://homepage3.nifty.com/rakugo/kamigata/rakug114.htm
もちろんコミケのコスプレが実際にどんなふうに運営されてるかなんて「げんしけん」の描写以上のことは何もしらないまま書いてまーす。(たぶん事実と違う点が多数と思われる)

ま、そんなことは
瑣末な批評である!!もっと作品全体に流れる文明批評を読み取りたまえ!

つまり

■顔認識ソフトと検索機能を組み合わせて・・・
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20100305/p2
■毎秒400人の顔を識別するゴーグルが既に実用化された
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20110429/p4
そしてつい最近の
■ロンドン暴動で「暴動参加の群集写真を、顔認識の技術にかけたら個人特定できね?」「それはちょっと…」てな議論が。
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20110812/p5
■誰もが顔写真で検索される日−顔認識アプリの時代は目前: ニューズウィーク08月03日号
http://www.newsweekjapan.jp/

と、技術者の不断の努力で日進月歩が続いている顔認識・検索技術がさらに普及し、一般化していく社会の一断面を予想した予言の書だと思ってくんねい。

上記のようにロマンチック・コメディの端緒となればそれはそれでお幸せに、となるのだが、もっと深刻でヤな方面に使われる可能性だってあるだろう。
今はコスプレという言葉もすっかり定着、ふつうの趣味とされているとは思う。げんしけんで言えば「神無月 曜湖」(かんなづき ようこ)さんが大野 加奈子(オオノ カナコ)さんであることが写真検索で分かっても特にトラブルは発生しなかろう。

だが一方で、一昔前のファンロードでは「こっそりコミケへ行く」というネタが毎回のように載っていたような気がする(まあ誇張もあるだろうけどね)。
ことに、いわゆる「ハマちゃん方式」で休みを取った勤め人などはこういう技術の普及後に大丈夫かいな。
「君はたしか、『福岡のおばあちゃんが危篤なので休みます』とか言ってなかったかね?」と検索サイト「三千里」の表示結果を見ながら詰めよる課長、とかね(笑)
なら顔写真を載せねばいいかというと「会社のPR戦略とコミュニケーション強化の一環で、全社員のフェイスブックを一斉に制作しまーす。これから顔写真を順番に撮影…ん?ケイコくん、何か気になることでも?」


そんなこんなで、3年後か4年後か、5年後か。
コミケで、反原発デモで、反韓流デモで。大相撲の枡席で、ロフトプラスワンの客席で、オフ会の記念撮影で…
さまざまなところの写真が、ネット上で技術が進歩し、利用者が一般化した「顔検索」との組み合わせによっていろんな珍騒動のきっかけになるのではないかなあ…と思いました。

そんな予想や懸念を、写真がよく撮影されることと、そこでの立場やキャラクターが、普段の自分とは離れた位置になりがちな「コミケ」が最近あったので、そこを舞台にした未来シミュレーション小説(SF)として書いてみたという次第です。

この小説をかいた、その5年後の追記。

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