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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

「看護助手のナナちゃん」「とろける鉄工所」…漫画家夫婦が「生と死」を描く。

一夜明けると「このマンガがすごい!2011」が発売され、それなりに話題になるかと思う。例えば人気ブログ
http://blog.livedoor.jp/dqnplus/
は、毎年このランキングを「ニュース」としていましたので。


でまあ、そのランキングや紹介記事で左右されると思われるとしゃくなので、今年の大収穫をふたたび論じようと。もう、一応紹介はしている。


■本格的に連載が始まった「看護助手のナナちゃん」という作品は、今年か来年の漫画賞を総なめにするかもしれない(ビッグコミックオリジナル
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20100908#p4
 
冷静に判断すると、秋前に始まったばかりだからやっぱり評価が定着するのは2011年だろうかな。でも先行して書いておこう。
 

看護助手のナナちゃん」とは…説明の必要ないな、病院で看護助手として働くナナちゃんの話だ(笑)。
一種のオムニバスというか。沢山の患者さんを担当しているので、そのひとりひとりの日々に焦点を当てていく。若くして悩みの末に、自らの命を絶とうとした子もいれば、慢性的な病気を抱えつつ、それでも働きながら通院する壮年の女性もいる。だが多くは、「人生の黄昏への旅」に出かけた、多くは認知症をわずらう高齢者だ(※「人生の黄昏への旅」とは、認知症アルツハイマー病)を告白したロナルド・レーガン元大統領の最後のメッセージによる)

  

家族がその人のために尽きぬ涙を流し続ける患者もいれば、「家族がいない」ことを「人のために働く」という意識に変えて気丈に生きる人もいる。この漫画はそのどれが幸せで、どれがふしあわせとは論評しない。「それぞれに、それぞれの人生がある」ということをシンプルな描画で(※ほんとにシンプルでしょ(笑)?)、しかし丁寧に描いていくのだ。

「はるさん」という人格。それが失われても。

この作品、まだまだ長期連載の多すぎる(笑)ビッグコミックオリジナルでは新人中の新人だが、それでも敢えて「連載初期」とするなら、初期を彩るとても印象的な登場人物が「はるさん」だ。
 
ここには載せてないけど、熱烈な広島カープファン(この漫画の舞台自体が、おそらく広島)で、カープが勝つと機嫌がいい。しかし、家族が「カープが勝ったよ」と報告すると「山本浩二が打ったんじゃろ?ミスター赤ヘルじゃけんねえ!」と、昔のこととごっちゃになる。認知症が入院中も着実に進んでいるのだ。
いや、某球団ファンにも「バックスクリーン3連発が・・・」とかずっと言ってる輩はいるけどさ(笑)。

でも、そんなはるさんだからこそ水を飲んでは「あーおいしかった。おばあちゃんね、お水がすきなん」と感謝し、「きのう孫がうまれたんよ。うちは『おばあちゃん』なんよ。それがいちばんうれしいね」と、素直に喜びを口にする。

実際のお孫さんはもう成長した若者なのだが、それを認識しているのかしないのか、熱心にお見舞いに来るお孫さんの手を取り、指相撲を挑むはるさん。「おばあちゃんは実は負けず嫌いなんよ」というとおり、真剣に指相撲を「一番大切」なお孫さんとやっている。


この一連の「はるさん」シリーズを読んで、「人格」とはなんだろうか、と考えざるを得なかった。まだ年齢的に自分自身が認知症を発症するには間があり、縁遠い身。いざやってきた時はどうか知らんが、今の正直な感覚としては、こうやって物を考え、感じる自分こそが「自分」であって、それが失われたときに自分は自分であるか、というとそうじゃないという気がする。
 
だが、認知症が進む「はるさん」が(もちろん作者の実際の体験では、ももっと暗い事例も多かったかもしれないが)、娘や孫に囲まれながら、徐々に衰えていく過程は、記憶や性格、周りの認識が次々と失われていっても、なお「その人」は最後まで残っていくのではないか・・・という当たり前のことを再確認させられた。
むろん、家族とのつながりがそれを最後まで担保している面も描かれる。ならば家族なしの「無縁」の中で世を去るのはやはり悲劇なのか。いや、上に引用した「家族もおらんし、うちがうちでいるために仕事をするのよ」という人の生き方がはるさんより悲惨であるとは言えないのでは・・・と思いはあちこちに飛ぶ。だからこそ、この漫画が優れた作品であるといえるのだ。


とまれ、その中でついにはるさんは亡くなる。どんなに見舞いに来ていようと家族には悔いも哀しみも残る。それでも看護助手と、彼女が働く病院は、新しい患者をその部屋に迎え、新たな「黄昏の旅」に同行していく。


実は最新号では新しい患者さんが、登場している。大変なお金持ちだが、認知症の始まりによって「お金を盗まれた!」と大騒ぎし、ナナちゃんが疑われるという悲しいエピソードだ(すぐ解決したけど)。これもはるさんと同じ認知症という病(現象)である以上、何をどう責めようもないのだが、周囲の人はそれに対処しないというわけにはいかないので、さまざまな状況が予想される。
これもほろ苦い話になりそうだが興味深いし、知っておくべき話でもあるだろう。
 
■関連リンク
http://blogs.yahoo.co.jp/cyoosan1218/52751858.html
http://www.dreamtribe.jp/topics/?id=93

ビッグコミックオリジナル吉野編集長にお話を伺ってきました。

――この作品のどういったところを評価されましたか。
「読んで単純にイイ感じがしました。特別凝った絵ではなく視覚的な演出があるわけではないのに、読むと心地いい。これがこの作品のオリジナリティといっていいんじゃないかな。こういう作品は他にあまりないです。」

――話の内容も特色がありますね。
「実際に体験した人にしか描けない漫画でとても説得力があると思います。(略)とても重いテーマを扱っているんですが、作者の優しさがにじみ出ていて困難を乗り越えようとする視点をもっている。大変なんだけど読んでて読者を前向きにさせてくれます。」

とろける鉄工所」では赤ちゃんが生まれる。

同じ時期なんで、いっそうコントラストになった。

鉄工所という、知っているようでみな知らない業界の豆知識を面白いショートコメディにしているこの作品ではあるが、奥さんの妊娠に関しては実際のところ鉄工とはあまり関係ない(笑)。
どこにでもある、どの家族・夫婦も体験したであろう−おそらく作者夫婦も含めて−、小さな命の誕生に向けたとまどい、照れ、不安、そして覚悟・・・を、さらりと嫌味なく描いている。だからこそこのエピソードは印象に残るのだ。
奥さんが社員旅行に参加できなくなったのは残念ですけどね(周囲が)。

とろける鉄工所(1) (イブニングKC)

とろける鉄工所(1) (イブニングKC)

今後の「ナナちゃん」作品スケジュール

既にできている。

2011年 「ナナちゃん」単行本になり大反響よぶ
2012年 小学館漫画賞。「とろける」も講談社漫画賞のアベック受賞
2013年 文化庁メディア漫画部門大賞、本屋大賞
2014年 ドラマ化。手塚治虫文化賞
2015年 西原理恵子と「人生画力対決」実現

それが終着点かよ。

「職能漫画」「業界漫画」を専門にした賞があっていい気がする。

それだけではつまらない「○○入門」になってしまうが、実際に「大衆に知られること少ない世界の特徴、魅力を紹介し、もってその重要性を余に知らしめ、産業の隆盛に貢献し…」みたいなお堅い言葉が通用しそうな、本当にその「業界」に貢献しそうなお仕事漫画、学問漫画、業界漫画・・・。それらは既に現実として一ジャンルをつくっている。

SF漫画にだって「星雲賞」があるのだから、業界を紹介する業界漫画、お仕事漫画を一ジャンルとして、それを表彰する賞があってもいいと思った。第一回の受賞作が「とろける鉄工所」であっても「シブすぎ技術に男泣き!」であってもまぁいいのだが(笑)。

シブすぎ技術に男泣き!

シブすぎ技術に男泣き!

かいてみた


われながらうまい。

そんなこんなで、本日が「このマンガがすごい!2011」公式発売日

です。

このマンガがすごい! 2011

このマンガがすごい! 2011

上の作品もそうだが、個人的にはお馴染み「講談社格闘技漫画ゼロハチ組」

からん(1) (アフタヌーンKC)

からん(1) (アフタヌーンKC)

オールラウンダー廻(5) (イブニングKC)

オールラウンダー廻(5) (イブニングKC)

鉄風 1 (アフタヌーンKC)

鉄風 1 (アフタヌーンKC)

に加えて、もうひとつ「さよならフットボール」が入るかに注目しています。
この作品は・・・こちらのレビューをご参照。
http://mandanatsusin.cocolog-nifty.com/blog/2010/10/post-84f4.html
さよならフットボール(1) (KCデラックス 月刊少年マガジン)

さよならフットボール(1) (KCデラックス 月刊少年マガジン)

さよならフットボール(2)<完> (KCデラックス 月刊少年マガジン)

さよならフットボール(2)<完> (KCデラックス 月刊少年マガジン)


オールラウンダー廻、今月最新刊出るんだね。

あ、最後に。最近漫画家夫婦、漫画家親子のエッセイ漫画が多い

が有名だけど、漫画アクション大島やすいち(「こちら大阪社会部」など)と女性漫画家の間にできた子供がこれも漫画家になり、エッセイ漫画を描いていましたな。
あと1つか2つあったな・・・なんだっけ。