昨日、Ustの柔術番組を見ていたら、「ロシアとサンボ」著者の和良コウイチ(藁谷浩一)氏が出演していました。
氏は最近
「溺れる者、摑むべからず。」
http://warakoichi.blogspot.com/
というブログを開始したが、それは「溺れる者が掴もうとする」→藁。という由来だったという。なんと!気付かず。
ま、それはよろしい。
氏の著書はこの前ひとつ紹介したが、他にも「廣瀬武夫サンボ開祖説の虚構」や「世界全体への柔術普及」などの章が面白かった。あとで紹介しようと思いつつのびのびになっていたので、再開しようと思う。
で、今回書くのは「柔道と銃剣術(白兵戦)」の関係についてです。
- 作者: 和良コウイチ
- 出版社/メーカー: 晋遊舎
- 発売日: 2010/06/09
- メディア: 単行本
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この柔道紹介、サンボ発祥の元となった文章で彼は、柔道普及の前提として「歩兵の銃剣術の訓練が必要だと主張した」そうなのである。
そしてソ連が「GTO」という、どっかの型破り教師みたいな略語の(笑)体育訓練プログラム(正式な意味は「労働および国防に備えよ」の頭文字だという)を始めたとき、柔道も銃剣もそれに入っていたという。
だが一方で、同書はこういう。
ロシアの軍隊は<柔術>とどのようにかかわりを持ったのか。20世紀が開幕し、ロシアも世界各国と同様に、遠距離攻撃が可能な最新の軍事テクノロジーに関心を抱いた。”古風”ともいえる白兵戦のやり方に関心を持つ者はほとんどいなかった。
当時のロシアでは、兵士の武装から「銃剣は取り除くべきだ」という主張もあったほど、白兵戦の存在は軽視された。つまり<柔術>が戦場で有効に使えるなどと認識する人間はほとんどいなかったのだ。その中で白兵戦の重要性を認識していたのか、国境警備隊や諜報部隊である。たとえばハルピンに派遣されていた部隊は、中国の犯罪組織との戦いが不可欠だったため…(同書83P)
なるほど。
そして、銃剣術などより遠距離攻撃に重点をおいた近代ロシア軍に、銃剣突撃の日本軍は大苦戦し、旅順で、その二〇三高地で、「屍山をなす」大被害を生んだ−−−といったストーリーが、国民的小説「坂の上の雲」でも語られている。
- 作者: 司馬遼太郎
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 1999/02/10
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だが。
最近−一部では出版当初から−「坂の上の雲はあくまでお話」とか「事実関係は違う」といった批判が出てきた。まぁ、そりゃそうなんだけどね。
福田恆存が発表時に書いた「乃木将軍と旅順攻略戦」は、”日本の近代”まるごとを問い直すような名文だったが、最近はこういう本も出ている。
- 作者: 別宮暖朗,兵頭二十八
- 出版社/メーカー: 並木書房
- 発売日: 2004/03
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対談 架空戦史から戦訓を引き出す危うさ(兵頭二十八・別宮暖朗)
第1章 永久要塞など存在しない
第2章 歩兵の突撃だけが要塞を落とせる
第3章 要塞は攻略されねばならない
第4章 失敗の原因は乃木司令部だけにあるのではない
第5章 ロシア軍は消耗戦に敗れた
第6章 旅順艦隊は自沈した
第7章 軍司令官の評価はどうあるべきか
ありゃ?続編も出ている。人気があったのかな
- 作者: 別宮暖朗
- 出版社/メーカー: 並木書房
- 発売日: 2009/10/08
- メディア: 単行本
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- 作者: 別宮暖朗
- 出版社/メーカー: 並木書房
- 発売日: 2005/04
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そんでですな、こういう種類の本の中でけっこう語られているのは「銃剣突撃を遅れた日本軍がやってて、ロシアは正しくそれを時代遅れと認識してた・・・というけどそんなことはないよ。ていうかロシア軍のほうが銃剣突撃バンバンしてたし。そもそも世界中でそうやってたし。ていうか実際有効だったし」(大意)といった話なんです。
私はこれを高島俊男「お言葉ですが…」シリーズで……と書いたところで、なんかデジャヴ感にとらわれて自分のブログを検索したら一回書いてた(笑)
■格闘技と白兵戦について…日露戦争、英国ステッキ術
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20090209#p3
一部を、まとめて再録。
ここに「白兵戦」について、計三回考察したエッセイが載っている。基本は『なんで銃剣やサーベルでエイヤとりゃあとやりあうのを「白兵戦」というのか』という、語源を考察した話で、このことも紹介したいんだが今回は泣く泣く飛ばします。
- 作者: 高島俊男
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2004/06
- メディア: 文庫
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高島氏が、司馬氏の「坂の上の雲」のある描写に対してこう書いている。
ロシア軍保塁に香月中佐の連隊が反復突撃し、ついに白兵戦をもってロシア兵をたたき出した。白兵戦の闘技は、日本兵はロシア兵よりもはるかにまさっていた。日本には古来、槍術の伝統があり、それを基礎にしてこのころすでに銃剣術の闘技が完成していた。(※ここまで「坂の上の雲」引用部)
日本人は昔から白兵戦に強い、というのが通念になっていて、司馬さんもそれに乗って書いているが、しかしどうもそうではないらしい。伝統的に白兵戦を重視し、しかも強いのはヨーロッパの軍隊であって…(略。ここで荒木肇「静かに語れ歴史教育」などからドイツ観戦武官の日露戦争見聞記録などをひいています)…そりゃたしかに、あのでっかいロシア兵と顔つきあわせてのぶったたきあいになってはとてもかなわなかったろう。
じゃあなんで司馬も語ったような「白兵戦は日本のお家芸」という話が出てきたのか…(略)…「どうも日本軍は白兵戦が苦手だから、メンタル面克服のために『白兵戦になったら強い!なぜなら伝統がある!』と思わせよう」ということのようなのだ。
柔道部物語の
「強さに自信をつけるにはどうするか?一番手っ取り早いのはてめえで勝手に思い込むことだ」
「『おれってストロングだぜぇ〜〜』」っていうアレですよアレ。
これで参考になるのは、古い柔術やレスリングにも詳しい「翻訳ブログ」。
同ブログの
http://sanjuro.cocolog-nifty.com/blog/
「軍事」カテゴリーで現在「白兵戦について」がまとめて読める。
http://sanjuro.cocolog-nifty.com/blog/cat15630063/index.html
ただ、読んでみるとフランスやドイツの例が多く、ロシアについての記述は少ない。ロシアと言えば「ほんとお前ら大砲好きだな!!」という火砲重視の伝統もあり、いち早く銃剣脱却の議論が20世紀初頭には主流だった、のかもしれない。
日本を仮に銃剣戦闘で圧勝したとしても「あまり重視せず、不要論も台頭するような片手間扱いの銃剣術でも、ちびの日本人相手には余裕っスよガハハ」というようなことかもしれない。
このへん、実際はどうなんでしょう?
挿し絵は「こち亀」のベストオブベスト、「度井仲県」からの留学警官の話より。