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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

三角絞めはどうブラジルに伝わったのか?そしてノールールでの三角絞めは?

時間が取れれば書きたかった話。ゴン格2月号「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」(増田俊也)より。

GONG(ゴング)格闘技2010年2月号

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  • 発売日: 2009/12/23
  • メディア: 雑誌

・・・大きな謎がある。それはブラジリアン柔術の技術の中になぜ前三角絞めがあるのかということだ。
(略)
前田光世がブラジルにやって来たのは1914年だが、前三角絞めはこれより10年後の1924年に六高師範の金光弥一兵衛と部員の早川勝らによって共同開発されたものである(第7回連載参照)、だから前田がこの技を知るはずもなく、つまりグレイシー一族も知るわけもなく・・・・・

今知ったのだが、「金光弥一兵衛」は、”かなみつやいちひょうえ”と読むとは。
それはともかく、柳澤健氏らの調査も含め、ブラジルへの前三角絞め伝播には「小野安一」なる人物がかかわっているとの可能性が高まってきた、金光は六高で教える傍ら、「起倒流柔術の使い手として道場を開いており、そちらで学んだあとで1929年にブラジルに渡ったという。このほかパラグアイに柔道を広めた福岡庄太郎など、たくさんまだ、知られざる柔道黎明期の英雄たちは多そうだ。

柔道のルール規制が無ければ、三角絞めも無かった?

だが。
実は一番興味を持ったのはこの伝播の部分ではない。実はどの国も腕は2本、足は2本である以上、関節技については「同時発生」の可能性は常にある。たんにブラジルでも日本でも三角絞めが一緒に生まれた、という可能性はないのか。
それは少ない、と増田氏はいう。

たまたま同じ技が太平洋を隔てて高専柔道グレイシー柔術で開発されたとするにはあまりに偶発過ぎる。
なぜならこの三角絞めは柔道の「脚を使って首だけを絞めてはならない」というルールの間隙をついて、首と一緒に腕を引っ張り込んで絞めるという特殊な考え方があったからこそ生まれたからだ

言われてみれば、である。
私は前三角絞めを、おそらくはUFCのホイスらの活躍で見たのだろう。
その時、やはりソボクな疑問として「えっ、T.J.シンの首四の字とかはわかるけど・・・腕が入っているのになんで呼吸ができなくなるの?」と最初は感じたんだよな。
そこで論より証拠と愛好家と見よう見まねで掛け合って「うむ、苦しいことは苦しい。なんでか知らんが」みたいに納得した。その後柔道のスパーを実際にやってみるとこっちがかけて、「ひし形絞め」みたいな形になったり(笑)、逆に「ほうこいつは寝技が好きか、ならば上等!」みたいな有段者の三角絞めを食らったりして、また構造的に似ている「肩固め」も知ったりして、「なるほど相手の腕を利用して頚動脈の血流をとめるとは、考えたものだワイ」・・・とさらに深く納得したのですが。


ただですね。
引用部にあるように、三角絞めはそもそも、講道館柔道が他流派の得意技を封じるために決めたルール(後の「タックル禁止」に・・・)があって、その間を縫うためのものだったとしたら。
そういうルールの間隙をうまく活用する工夫というのは、それ自体は大好きなんですけどね。
ただ、MMAがいわゆるノールール、ノーホールズバードであったならば・・・ひょっとしたら腕を巻き込まない、別の体系による脚での絞め技、がまだありえるのかもしれない。
昨年、小谷直之中村大介に極めて久々に注目を浴びた「せんたくばさみ」も含め、いろいろと可能性はあるかもしれない。

それでもMMAで使われる前三角絞め

あるいはルールの間隙をついて生まれた「腕をも引き込む」というのが相手の抵抗を封じ、腕折りに繋げるなど(例:ノゲイラvsコールマン)思わぬ有効性があったのでますます利用されているのかもしれない。

とりあえず、記憶している限りでタイガー・ジェット・シンのような形の首四の字が、MMAで決まり手になった例はないと思う。
ひょっとしたらすでに総合でもルールで禁止しているところが多いのかもしれない。


増田俊也公式ブログ
http://blog.livedoor.jp/masuda_toshinari/

追記・コメント欄とトラックバックより

■コメント欄

三角ってそうやって生まれたんですか!
時代が違えば技術も違うかもでわからないのかもですが、少なくともわたし世代は三角より横三角を使うひとのほうが多かった気がする。(わたしは体型的にも無理w)
さらには相手を絞めるためじゃなくって、横四方固めに移動するための餌まきの手段だったような。
なので多分、『三角』ってことばだけが先走って現在中学生とか小学生で抑え込む過程での三角やってる子ってもともと三角が絞め技だってのも知らない気もしてきました(爆)ちょっと妹にも聞いてみよう。

↑亀の相手に入る横三角(道着がないとできないですね。)



柔術胆嚢柔術胆嚢 2010/01/20 19:24 ヘボ柔術家です。

柔道で両手締め?(前から両襟を掴みその上から脚で挟む技)は今反則なんでしたっけ?
腕を一本入れないと反則(要は洗濯挟み)なのは頚椎への負荷が大きいとかの理由ですかね?むしろクルックヘッドシザースみたいな極まり方を懸念したように思いますが。

私も三角締めは、横三角のほうを知っていた。記憶が正しければ、たしか橋本真也高田延彦に勝ったときの技も横三角ではないかな?橋本が柔道出身であることは知られていたから、そっちのほうでリアルっぽい技として演出されたのか。


現在のルール・・・はすいません、さっぱり分かりませんわ。どうなんだろう。


トラックバックより
三国志大航海時代とDREAMクラブの専門ブログから、畑違いにも格闘技についてのTBがあった
http://d.hatena.ne.jp/caitseth/20100120/p2

単純に極まりにくいだけというお話が

以前、佐野さんにも聞いたことあるけど 無理じゃないかという返答が

孺子(こぞうと読む)、何をほざく。
この資料にあるように、世の戦闘教本にも、首四の字の恐怖については一章を割かれている。

そういやこの人、格闘技やプロレスのネタ多いよなー。

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  • メディア: コミック




2020年補足

たった一行だけ描いた、「パラグアイに柔道を広めた福岡庄太郎」が10年を経て、2020年代きっての人気講談師・神田伯山の高祖父であるとNHK番組で報じられ、騒然とするなど。

ファミリーヒストリー「神田伯山~南米に消えた先祖 見つかった父の形見~」
今、最もチケットが取れないと言われる講談師、松之丞改め神田伯山36歳。明治末期、曽祖父は徳冨蘆花に憧れ佐賀から上京し、早稲田で英文学を学ぶ。その後、立ち上げた出版社で、トルストイ全集の発行に携わった。そして、5代前の先祖は南米に渡り“柔術”を広め、パラグアイの英雄となっていたことが判明する。さらに、父の転勤で家族が暮らしたブラジル。亡き父の、ある形見が残されていた。伯山さんは驚きを隠せなかった。
www4.nhk.or.jp