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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

ブッシュ大統領を襲った、ジャーナリストによるテロ事件に怒りと抗議を表明…しなきゃ整合性がとれんので、しておく。

「犬め」米大統領イラク人記者が靴投げつける


 【カイロ=福島利之】ブッシュ米大統領が14日、事前の予告なしにイラクの首都バグダッドを訪問し、米軍駐留を来年から3年間認める地位協定にマリキ首相とともに署名した。署名後の記者会見で、「戦争はまだ終わっていない」と語るブッシュ氏をめがけて、イラク人記者が靴を投げつけるハプニングがあった。

言論を旨とする「記者」の立場にある人間が、こういうテロ行為に及ぶのは、まず最低の行為である。
いうまでもないことであろう。

喝采や、愉快だと言っていいのか。
ダメに決まっている。

「靴なら殺傷能力が無く、大事に至るものではない」からか?
もちろん違う。まず、硬い踵のある靴を、映像にあるような勢いで至近距離から投げつけたら、眼球にでも当たれば十分な重傷を負わせる可能性もある。
それに致命傷は負わせなけりゃいいのかということなら、70年代に三木武夫首相をポカリとやって軽傷程度にテロをとどめた右翼はオッケーなのか、と言う話になる。

深刻なケガを負わせない程度に相手を攻撃する手法のテロもたくさんあるね。弾丸を封筒に入れて送るとか、ガソリンをビンに詰めてただ置くだけとか、赤インクを「クジラの血だ」といってぶちまけるとか。
こういうたぐいなら別にやってもいいんだ、というコンセンサスが出来たら、厄介ではないか?


ブッシュがやったイラク戦争その他の悪行があるから仕方ないのか。
それなら中国の指導者にはいいのか、
ロシアの指導者にはいいのか、
靖国参拝反対の政治家にはいいのか
靖国参拝賛成の政治家にはいいのか。
こういうふうな政策の良し悪しは、よくも悪くもその受け手によって評価が違う。そこで物理的な方法に打って出るならばこれまた収拾がつかない。だからこそその意思表示は非暴力によって行うべきだ、ということ。
これまた正論だろう。

「ブッシュはXXX(イラク戦争とかアフガン戦争とか)をしたから靴を投げつけられたのも当然だ」ってのはほら、例えば「あの女の子は有名な非行少女。ああいう(犯罪)被害を受けたのは本人の責任もある」というのと構造的にはあんまり変わらない論法である。非行少女だろうがその恨みでリンチを受けようが、その件に関して被害者は被害者、じゃないかね。


そしてさらに、ジャーナリストがそれをやったという点では国を超えて、その個人の経歴を超えて、ジャーナリズムの倫理と論理において最低だ、というしかない。
ジャーナリストは、普通の人よりは、要人の至近距離に近づくことをしやすい。その機会がある。
それはそのメディア、ジャーナリストがその要人に好意的であろうが批判的であろうが、それは言論・報道を通じてあらわされるもので、直接的な暴力を振るったり振るわれることはない、そういうやり取りはしない−−−という了解によって得られたものである。
それをジャーナリズムのほうから踏みにじり、あまつさえ「それは良かった、当然だ」という話になったら、まず今回の記者以上にブッシュに批判的で、憎たらしく思っていても、それを言論を通じ、国民の意識に訴えようとぐっと堪えて、言論で追及しようとしたメディアやジャーナリストより、靴投げテロをした直接行動者のほうが英雄になる。他の記者は、同じく靴をはいていたのに(笑)投げつける度胸のない腰抜けになる。
是非を超えた予想としては、この靴投げ記者はアラブでは英雄として名を残すだろうが(もうなっている)、もちろん非だ、こんなの。


今度、別の「ゆるせない政治家」が出たとき、だれかがこの記者にならって出てくるかもしれない。そういう機運を醸成してしまった。そしてその「ゆるせない政治家」という基準は、貴方の基準と一致するとは限らないのだよ。

そしてさらに、権力者たちにメディアを遠ざける絶好の口実を与えてしまった。
「記者会見を開く予定は無い。ブッシュ大統領の前例のような危険がある」……反論不可能。
こまったもんだ。


記者を名乗る人が、その肩書で要人に近づけることを利用し、テロ行為に及んだ事件はかつてもあった。
アフガンでタリバンと対峙していた軍事指導者、”パンジシール渓谷のライオン”ことマスードは、テレビ取材を装ったテロリストの自爆攻撃によって散った。
その直後、アルカイーダは、911同時多発テロを発動する・・・


と、タテマエを貫くとこうならざるを得ないし

ホンネは公にするべきものでないし、上のタテマエに論理的に勝てるものではないので公にしないでおこう。


しかし、ひとことだけ言ってしまうと、あの靴が惜し…いや危うくブッシュを掠めたわけだけど、ううむあの距離であのスピードで、不意を打たれて「俺が」かわせるかといったら自信が無いなあ。
竹下登が(マジ段位として)柔道五段で、胸囲が70代になっても1メートルあった…という話を聞いた時もそう感じたが、ああいう政治家が肉体的にも頑健だったり、平均以上に優れているのをみるとくやしいな(まあ政治活動って体力勝負なので、そこで生き残った人は同年代では頑健なものだ)。

青春時代のブッシュはスポーツでも秀でたところはなかったというが、今回不意の危機に際してすぐれた反射神経を見せたことは認めざるを得ない。また、「靴のサイズは10だ!」というのは受けたか寒かったか、また表情がこわばっていたかは別にしても、やっぱり客観的にいったら「相応の胆力、タフガイぶりを見せた」ということになるだろう。これもまた、同じような経験をして我らは、貴方はおもろいつまらんはともかくジョークを口から出せるか。

こういうふうに相手の名をあげてしまう結果になるかもしれないからこそ、テロはいかんのだよ。

しかし、あの距離なら、せめて片方ぐらいは当たら……なくてよかったですねえ。無事でなにより。
アラブには野球の伝統はないものなあ。


懐かしいジョークの変形

http://d.hatena.ne.jp/analyst/20081216#1229357580

まあ、イラク戦争うんねんは置いといて、
その後、この記者がどうなったのかは知らないけど、
とりあえず、ブッシュさんは笑ってスルーして、こう言うべきだよね。

「あなたはフセイン大統領に靴を投げられましたか?」と。

なつかしいな。「フルシチョフケネディ」(かな?)の」小ネタのバリエーションだ。

アメリカは民主主義の国。ホワイトハウスの前で、『大統領辞めろ!』と自由にいえます」
「なに、ソ連でもクレムリンの前で『(アメリカの)大統領やめろ』と自由にいえますよ」