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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

談志的教育論、落語的教育論

てれびのスキマ」で、最近話題の立川談春が描いた「師匠・立川談志」についての本を紹介している。
もともと弟子をとって育てるという落語の伝統から、師匠と弟子についての多くの挿話と名言ー−つまり教育論がこの世界にはある。
そこで孫引きさせてもらう。
http://d.hatena.ne.jp/LittleBoy/20081007

「よく芸は盗むものだと云うがあれは嘘だ。盗む方にもキャリアが必要なんだ。最初は俺が教えた通り覚えればいい。盗めるようになりゃ一人前だ。時間がかかるんだ。教える方に理論がないからそういいいいかげんなことを云うんだ」

本日のエントリは一番上がちょうど道場論に関連しているが、司馬遼太郎が「北斗の人」で描いた、合理の北辰一刀流が古流を駆逐していくのにも通じるのだろうか。

「学校というところは思い出作りには最適な場所だ。同級生がいて遊び場がある。だが勉強は何処でもできる。俺の側にいる方が勉強になる。学校では会えないような一流の人に会える。学歴なんぞ気にしなくていい」

この談志の自信、すなわち落語が持つ強さへの自信だと思うが、私はこれを逆の読み方できると思う。
「勉強はどこでもできる。だが、同級生がいて遊び場があって思い出をつくれるのは学校だけだ」とね。これもまたひとつの学校論では。



と、こうてれびのスキマを引用した後、一度書いた読売新聞「編集手帳」からの孫引き挿話を再掲載。
落語の伝統にそって、出稽古で他の師匠に落語を学んでいた若手の噺家が、いつも稽古の後にごちそうしてもらう、その練習先の師匠の貧しさを知った。
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20080402#p5

・・・ある日、満腹になって帰る途中、忘れ物に気づいて戻ると、小三治(※小さんの当時の名)夫妻が子供と昼飯を食べていた。サツマイモだった。小金治さんはとまどい、胸をつかれ、帰りの電車で泣いたという。

 申し訳なさに、もう稽古に通うのをやめようと思い、師匠の桂小文治さんに相談した。師匠は言った。「大バカやな、お前は。小三治はお前に落語を教えているんやないで。落語ちゅうもんを、この世に残しているんやないか」と。

教わり、芸を受け継いだ人がやがて、おのが食を削ってまで次の世代にそれを引き継ぐ。落語に限るまい。伝統芸能は、伝統文化は、数知れない人々が「志」の細い糸をつないでここまできたのだろう。
小さんさんが87歳で亡くなって4年。今年は長男三語桜さん(59)が六代目を継ぎ、襲名披露の興行がつづいている。あの日、サツマイモの食卓にいた幼い子供だろう。芸の糸、志の糸の末永かれ。


談春の本は

赤めだか

赤めだか

談志のおかしな師匠ぶり、そして弟子たちの奇人ぶりのほうに焦点を当て、面白おかしく描いた漫画に

風とマンダラ 1 (モーニングワイドコミックス)

風とマンダラ 1 (モーニングワイドコミックス)

がある。