この前、紹介してもらって読んだ本。
- 作者: 保江邦夫
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2007/12/21
- メディア: 新書
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このブログではシュルトの拳の「痛さ」とか、そのへんのことを話題にした科学話を書いたことがあるから、普通以上に興味がある人が多いでしょう。紹介者もタイムリーに教えてくれた。
もう、雑誌「秘伝」などの読者にはおなじみらしい論者と話題だそうですけどね。
この本は実質的に二部構成。
まず最初に、物理学的に考察する通常?格闘技方面の話題。そして”第二部”で作者が実際に学ぶ合気道の話題になるという形だ。
最初は物理学的に、二足歩行の人間の体はいかに倒れやすいか、という話をする。例のロボットの歩行の話なんかを引き合いに出すほか、いわゆるフィギュア人形が二本の足では立てず、下に板が張られていることにも着目する。なぜこんな板を張らなければいけないか?
簡単な力学的考察によれば、等身大フィギュアの銃身から鉛直方向に下ろした垂線と床面との仮想的な接点である底面重心位置が、両足の踵とつま先を4頂点とする床面上の仮想的な四辺形に他ならない基底面の内部にあるとき、フィギュアは安定に二足直立できる
からだ。うわあ分かりやすっ。
まあ実際、自転車も倒れやすい、という例なんかも挙げているから腑に落ちる。そこで、じゃあ三船久蔵の「空気投げ」はどうして投げることができるのか、などについて考察をしている。
もうひとつは「打撃に体重を乗せる」とはいかなるものか、という話で。
あの「とび蹴り」あるでしょ。ライダーキックみたいな。もしくは沢村忠言うところの「いまだチャンスだ 真空とび膝蹴り」。
あれサイキョ。物理学的に。
これを証明するために「無重力状態で宇宙飛行士がケンカしたら?」という例を著者は出してくる。どうしてこう発想が飛躍するのだ、科学者さんは(笑)
つまり
衝撃力=衝突前の物体の運動量−衝突後の物体の運動量
という単純な式から之は導ける次第。
ちなみに超人強度の式は
超人強度=ベアークローの数×通常のジャンプの倍数×通常のひねりの倍数
です。
あと、回転力モーメントを応用したマウント返しとかね。
さて。
このへん、までは通常の物理学の範囲でして、実を言うとこの時点ですでに私は信憑性を判断できないのですが(笑)、それは自分の高校時代の怠慢に由来するのでおいておきます。
問題は第二部ともいうべき合気道編。
実を言うと、例の「拳児」に出てきたような、武道の有段者をころっころ投げ飛ばすようなあの技、「奥義」との「透明な力」とも呼ぶ、もしくは”合気”そのものとも言われるあの現象・・・・合理主義者は「そんなもの(現象)がそもそも存在するのか分からん」と言われるのかもしれないあれですが、なんとあれを、著者本人が
「できるようになった」
らしいのです。
いや、この人は物理学の法則をわきまえている、はず。
保江 邦夫 (ヤスエ クニオ)
1951年、岡山県に生まれる。東北大学で天文学を、京都大学と名古屋大学で数理物理学を学ぶ。スイス・ジュネーブ大学理論物理学科、東芝総合研究所を経て(略)確率変分学を開拓し、量子力学においても最小作用原理が成り立つことを示したことで世界的に知られる。
いやいやいや、高等な物理学は極める際に、何しろ目に見えないものを考察し、直感のようなものも働く世界であるし、また逆に出てきた式があまりにも美しく調和したものだったりすることで、最後は神秘・超越的存在を信じるようになった科学者ってのも多数存在する。
だから、とりあえずは彼のいう仮説を検証するしかないだろう。
あれやこれや、習得までのドラマチックな人生や、また、信憑性を担保してくれるような社会的・武道的な信用のある人々の紹介は飛ばして、キモをいいます。
すなわち合気の奥義、
どんな筋骨隆々の格闘家も、筋肉量も力も全く無いような保江氏が投げられるようになた、その科学的理由はなんなのか?
(※ここからはある意味、ネタバレです。この本を、ある種の謎解き物語として楽しみたい方はご遠慮下さい)
精神的内面を『無の境地』にもっていくことで前頭葉運動野における意識的神経活動を小脳における無意識的神経活動に限りなく同調させた結果として神経に生じる電気神経活動を敵の筋肉組織につながる神経システムに伝え、それを微弱帯電させることで敵の神経システムの機能を停止させる(ブロックする)ために敵の筋肉組織が麻痺してしまう
という可能性を、現時点で筆者は提示している。
つまりでんきです。
何でやねん、理由を言え理由を、だすが。
彼の主張・根拠はこうだ。
保江氏の合気道奥義は非常にうまいことに、腕相撲という形で相手に行うことができるそうなのだ。この奥義を使わないと簡単に負ける人も、奥義さえ使えば楽勝。それも相手は「力が出ない」と実感し、なおかつ「電気のようなしびれ」を感じると言う。
んで、腕相撲なら広い場所も要らず動く部位も少ないので、電極をつけて筋肉の電流や脳波を測定しつつこのワザを試せるのだそうだ。
その結果、筋電図から、相手の右腕に電流が流れ込んだこと、脳波パターンにある種の相関関係があること、を確認したのだという。
データを捏造していない限り、そもそもここに書かれた内容がしょっぱなからでたらめでない限り、何かがある、ということになる、のだろうか?
その後、保江氏は岡山県のベンチャー企業が無線で筋電図を計測できる機械を発明したことを知り、道場内での本格的な合気道奥義も計測する。
その結果、やはり相手の筋電図から、筋肉の力が抜けていっていることを確認できた、という。
さて、彼の主張は以上の通りだ。
たしかに筋肉からは微弱な電気が流れているだろう。
しかしそれが、相手に伝わって、相手の筋肉をふにゃっとさせることができるだろうか?
まず、突っ込みというか確認すべき事項
・これは新書や雑誌「秘伝」の記事以外に、学会に科学論文として投稿されているの?
・実験相手は「空気読む」人だった可能性は?
・この技が応用効く、実際に扱えるなら柔道のオリンピック狙えるんじゃないの?
です。
しかし、これが科学的な反証可能性を満たしつつ、一応実証されたとしたら格闘技もルール変更とかが必要になるかな。
「XX選手が、合気奥義の使用を…認めたため! この試合は奥義ありルールで行われます」とか。