「記者の目」を紹介するのも久々だ。
以前、国民投票の前か後に「チャベスをクーデターから助けたが、今は除隊して政権から離れ、今度の憲法改正には反対側に回った将軍がいるらしい。どこのキルヒアイスだ」という話を紹介したが、その人についても少し書かれている。
記者の目:拙速と慢心・チャベス大統領の危うさ=庭田学
南米ベネズエラに政治腐敗の打破と貧者救済を掲げるチャベス大統領が誕生してからほぼ9年。豊富な石油資源の恩恵が貧困解消に向かうことに期待した私は今、強引な政治手法で社会主義化を推し進める大統領に「危うさ」を感じている。今月2日、社会主義国家建設を明記し、大統領の無期限再選を可能にする憲法改正案が国民投票で否決された。
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つまずきの始まりは今年5月、反チャベス系テレビ局RCTVの放送免許更新を認めず、地上波放送閉鎖に追い込んでからだ。「政府転覆を図る反政府勢力を支持した」との政府決定に対し、同局は「全体主義に向かっている」などと批判。首都カラカスでは双方の支持者がデモ行進を行い、同局支持者と警官隊の衝突に発展した。同局の偏向報道を指摘する声は小さくなかった。だが、国民は最も歴史の長い同局の人気番組が消えたことに不満を募らせた。世論調査によると70〜80%が政府決定に反対した。チャベス政権がこれほどの批判を受けたのは初めてだった。
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先月の国際会議ではスペイン前首相を「ファシスト」呼ばわりし、スペイン国王から「黙らないか」とたしなめられた。同じ左派のサパテロ首相から「前首相も民主主義的に選ばれたのだから」と忠告されたが耳を貸さず、しつこく批判した。ベネズエラ国内からも「外国とケンカをし過ぎる」との声が上がっている。改憲案が提出される直前の今年7月、バドゥエル将軍が国防相の辞任にあたり「大統領が提唱する21世紀の社会主義は断じて民主主義的でなければならない」と演説した。大統領と将軍は、80年代から共に国の変革を目指してきた35年来の友人。02年に反チャベス派がクーデターを起こした時、将軍は幽閉された大統領を救出した仲だ。
いま振り返れば、演説は同志への忠告だったのだと思う。将軍は旧友の言動に「民主主義の危うさ」を感じ取っていたのだろう。その後、「社会主義を憲法に掲げることは政治的多元性を保障した現行憲法に反する」などとして、改憲反対を表明。反対派の象徴的存在になった。
東洋思想に明るいバドゥエル将軍は7月の演説を「武士道精神」の紹介で締めくくった。義・勇・仁・礼・誉・誠・忠−−の七つのサムライのモラルだ。国軍兵士に向けられたものだが、落下傘部隊出身の元軍人チャベス大統領にも話しかけていたのではないか。
2013年1月の大統領任期切れまであと5年余。武士のモラルは政治家のモラルにも通じるはずだ。慢心を排し、異論にも耳を傾ける謙虚な姿勢を取り戻せば、貧者の救世主として歴史に名を残すかもしれない。私はまだ少し、チャベス大統領に期待している。