NHK教育テレビ ETV特集
第200回
21世紀を夢見た日々〜日本SFの50年〜
どういう構成者がいたのかは分からないが、たとえばもし自分が構成するとしたら外せない、昨日の話で言えば川中島や桶狭間をちゃんと押さえていたのがうれしいところだ。
原子力(はらこつとむ)研究所や「原子の実物を見せてくれ。この目で見ないと信用できぬ」もちゃんと取り上げてくれたし。
ひとつ指摘したいのは、やはりSF作家らしく、最初のSF作家クラブの会合や、その原子力研究所の見学の様子が映像や音声が残っていること。NHKがこの前、20世紀を紹介するときにシリーズを「映像の世紀」と称していたが、それが民間に波及するのはまだまだ先で、こういう音や映像が残っているのは実に大したものだ。
余談だが、うちの一族はビデオデッキの購入も遅く(笑)、いまだにビデオカメラのほうはないんだな。80歳ぐらいの親戚もいるので、そろそろビデオカメラ買おうかと思ってるんだが。あとで何がいいかここで聞こう。
話を本論に戻す。
「SF作家協会規約」も登場していたな。
いちいち文字起こしするのも面倒なので、検索したら見つかりました。
http://d.hatena.ne.jp/choiota/20070305から孫引きです。一部改行などを変更し箇条書きにしました。
・・・1963年にSF作家クラブいうのを星さん達とこさえたんや。
創立メンバーは僕ら以外に、半村良とか光瀬龍、あと手塚治虫、それに筒井康隆とかね。
(略)作家クラブの入会資格を決めよういうことになったんや。●宇宙人はダメ
●死んだ人はダメ
●(これは競馬に夢中な奴が中におったからやけど)馬はダメ
●星新一より背の高い人はダメ。
●小松左京より重い人はダメ
●筒井康隆よりハンサムな人はダメ。(略)それでな、一回星さんより5センチほど背の高い人が入ってきたんや。その時星さんがどない言うたと思う? 「足をツメろ!」やて。ひどい話やろ。
さっきの原子力研究所に関しても、見学後に筒井康隆だけがなぜか放射線量チェックに引っかかったというオチがあるんだけど、筒井がインタビューで「あの後から傑作が書けるようになった」とさらっと言う二段オチになってて笑った。
「SFの浸透と拡散」はいまだに続く(筒井康隆談)
俺は世代的に違うのに、なぜ「SFの浸透と拡散」なんて用語を知っているのだろう(笑)これは筒井が提示したテーマだったんだね。
浸透と拡散をやり切って、今、駅前というかつての中心街がシャッター通りになっているようにSFの中心部はシャッター通りになっている。特に少年漫画においては、描くほうだって負け戦を覚悟して描いているのだ。
(http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20050722#p4の通り)
まあ、拡散の是非はともかくとして、浸透ぶりではこの番組は冒頭、おもしろいものを引っ張ってきた。
自分もけっこう好きな、東京ガスの「ガスパッチョ」CMを持ってきて「タンスがタイムマシンになっていて、歴史上の人物がやってくる」という設定が、説明なしに伝わっているという現状を紹介しているのだ。
そうだなあ。これも伝説だが豊田有恒と平井和正が8マンの設定で
「ここでサイボーグを出せば絵になると思うんだが」
「それはチャチいよ」
「俺のプロットがチャチだっていうのかよ?」
とケンカになりそうだったのだが、その会議の速記者がサイボーグを「細胞具」と表記しており、両者ケンカする気も無くなった・・・この話、前も書いたね。(http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20041107)
SFの概念、用語がどう世間や子供に広まっていったかについては横山光輝氏が亡くなったときにも書いた。
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20040416#p4
彼のセンス・オブ・ワンダーも忘れてほしくない。
今から見るとロボットもエスパーも「ああ古臭いなあ」だけど、横山氏はたぶん、その言葉を少年少女に教育するところから始まったんだからね。
「♪サイコキネキス、テレパシー、超能力を使うとき・・・」だ。伊賀の影丸も、山田風太郎の混沌の面白さを、うまく少年向けに翻訳したもの。
当時の少年漫画家は、手塚も藤子も石森もみな「名翻訳家」だったのだ。
今回の番組で新しく認識したのは、日本にSFを浸透させるのに学習雑誌と、NHKのドラマが大きな力があったことだ。
すこーし流れた映像は、演技や俳優の髪型、服装が実に古いなあと感じさせるものだったが(笑)、当時は最先端だったろうし、青少年を驚かせはまらせるには十分だったろう。筒井「時をかける少女」も半村「なぞの転校生」も、当時この作品は大人気をとったそうだ。
学習雑誌がSF教育に力がある、というのはこれは自分に置き換えてもよく分かる。
何度も書いたが内山安ニがいたし、今思い出したぞ、チクタクタックンとかいう作品があった。
それは学習漫画だな。
そういえばこういう小説は以前、ジュヴナイルSFとか称されたけど、ここからいわゆる「ライトノベル」が生まれたのかね?そういう歴史認識でいいのかな。これはあとで調べよう。
「黎明期もの」というジャンルを探そう。
書いているうちに思い出して、夏目房之介@2ちゃんねるでのやり取りを思い出した。
なぜ覚えているかというと、この「585」が俺だったからだ(笑) 最初の別の人の話題が、東南アジアのマンガ文化の黎明、という話だったんだね。
http://log-chan.hp.infoseek.co.jp/comic04.html
583 名前:名無しさん@お腹いっぱい。投稿日:2000/11/10(金) 22:41
すまんが、下がり過ぎなので一旦上げるぞ昔は「少女マンガの文法はやはり特殊過ぎて、外国の人が理解しにくい
ところがある。というか、”少年マンガ・少女マンガ”という区分が
日本だけ」といわれてましたが、やはり浸透してきましたか。まあ、日本でもいかにも少女マンガ!(呉智英いうところの「ド少女漫画」)
というのは減ってきましたが。
584 名前:夏目房之介投稿日:2000/11/10(金) 23:56
>583さん 昔は「少女マンガの文法はやはり特殊過ぎて、外国の人が理解しにくい
僕も昔そう思っていました。実際、昔の欧米コミックに、
ああした効果やコマ構成はなかったように思います。
個人的感想ではここ5年以内に欧米でも似たコマ構成を見る気がします。
ただ、それが本当に少女マンガの影響なのかどうかは不明です。
また、国内でも少女マンガ手法は80年代に普遍化してますから、
直接の影響が商業的に出るのは、韓国と台湾ぐらいかもしれません。
この2国ではむしろ少女マンガのほうが市場としても強いようです。
ただ少女マンガ系には特殊な影響力があって、
オタクレベルのマニア層でやおい的な波及をする、
いわばコアな影響は欧米、東アジアともに見られます。
585 名前:名無しさん@お腹いっぱい。投稿日:2000/11/11(土) 00:36
私は、とんがった(?)連中が、情報のないところで
もがいたり試行錯誤しながら文化ジャンルをつくってく、って話がなんか
すきなんですよね。SF黎明期の星新一や野田昌弘の回想録とか、
「モスクワ愚連隊」的東欧のロックバンドの話とか、辞書と首っ引きで
RPG「ウィザードリー」をやりこんだ初期ゲーマーとか、岡田斗司夫の
ゼネプロ話とか……タイや台湾のやおい少女も、ひょっとしたらそういう
黎明期の開拓者として悪戦苦闘しているのかも。
586 名前:夏目房之介投稿日:2000/11/11(土) 01:46
>585さん。
いいね、いいね、そういうのね。
60年代末の劇画もそうだったし、
今、多分うざったく思う人もいるだろう
マンガ批評ってぇと出てくる団塊や僕らの世代の人も、
初期SFみたいな時期あったような気がする。
だから主張が違っても、けっこう仲いいんだよね。
今、外国でマンガ好きな人と会ってて楽しいのは、
そういう雰囲気もってるせいもあるのかもなぁ。
まあ、「黎明期」というのも区切り方しだいではある。
道場本舗らしくたとえれば、つまり修斗やパンクラスを黎明期とすることもできれば、(1976年の)アントニオ猪木や梶原一騎の異種格闘技戦、ブルース・リーを黎明期とすることも出来る。大規模なマスリングでは、PRIDEが黎明期だって言えるかもしれない。
SF、サブカルチャーに関しても、島本和彦が今「アオイホノオ」という作品を描いているが、あれは70年代末から80年前半? 彼らにとっては、「そこがはじまりだったんだよ!!」と断言するリアリティがあったんだよな。
唐沢俊一も「僕の後に道は出来た」と「第一世代」を自称している。
まあ、細分化されればされるほど記憶、記録は詳細になるし、読み物は増えるので定義に文句は無い。
こういう作品を紹介すると・・・おお、絶版かと思ったらこういう形で読めるとは。
今回の番組を面白がった人は、買って間違いなく損はない。さっき挙げた「細胞具」のエピソードもここが出典だ。
http://www.ebunko.ne.jp/toyota.htm
あなたもSF作家になれるわけではない
著者:豊田有恒イラスト:長尾 太定価600円
.book版:287KB、PDF版:1.08MB
日本SFの草創期に作家デビューし、一方で「エイトマン」「鉄腕アトム」「スーパージェッター」などのSFアニメ脚本家としても活躍した著者による、貴重な回顧録。若き日の平井和正や、手塚治虫らのエピソードが満載です。
1976年〜、今はなき「奇想天外」誌に連載されたエッセイ集。・・・そのころ、ぼくたちSF作家は、戦々兢々としていました。そのうち、公園の立札に「SF作家と犬、入るべからず」と出るかもしれません。あるいは、サウナ風呂の掲示に「泥酔した方、刺青をした方、あるいはSF作家の方には、入場をお断りする場合があります」と書かれるかもしれません。
いや、それどころか、SF作家を差別してくださる方は、すくなくともSFとは何かということを承知しているだけ、ありがたい存在でした。SFと言っても、そのころは、誰にも通じませんでした。ある人は、スフ――ステープル・ファイバーの略だと思います。ちなみに、いまでは、スフ――人造絹糸という単語のほうが、すでに死語になっているくらいですから、隔世の感にたえません。また、ある人は、新製品普及会の意味だと、とってしまいます。新聞にSF倒産という記事が載ったのも、それほど昔のことではありません。さらに、ある人は、サービス・ファクトリーのことだと思います。ぼくも、その社の自動車を愛用していたので、あまり悪口も言いたくありませんが、SF――つまりサービス工場には、何度も通いました。こららに言わせれば、SFなどというところで、愛車を整備してもらうと、配線がメビウスの輪になっていたり、シリンダーがクラインの壺になっていたりしそうで、なんとなく薄気味わるかったのですが、べつだん、そんなことはありませんでした。
しかし、SFを、この種の名称と誤解してくれる人は、まだしも理解のあるほうでした。ある出版社の社長は・・・・・・、
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80年代オタク文化をひとつのカルチャーの創生とした上で、そのエピソードを語る。
怪獣マニアが深夜映画をハシゴしたり、ファンジンで論争したりと、そういう話が満載で、21世紀の今からではやはりうかがえない話が多い。
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いうまでもないよね。これに代表させてしまったけど、手塚治虫を含め「トキワ荘」の関係者は何かしらの回想を書いているし、アンソロジーや他人の評伝も多数あるのでそういうのも広く読んでほしい。でも最初は、当然これを読むべきである。
他の人の関連著作というと
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など。
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模型とかフィギュアとかの黎明期を語る。
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少年漫画、特に週刊少年漫画の黎明期を「非トキワ荘」の側から見ることも必要だ。
みなさんも「黎明期もの」の傑作をご存知でしたらお知らせください。
最後に、まだ決定版が出ていないものとして
「ロールプレイングゲームの黎明期伝」
「児童文学の黎明期を生きた、石井桃子氏の『編集者時代』の評伝」
が読みたいな、という要請をここでしておきます。誰にだよ。
最後に宣伝
インターネットもパソコン通信から考えれば、いつが「黎明期」となるのかは不明ですが、「掲示板文化」というのがあるなら、自分はかろうじてその端っこにいるのかもしれません。
筒井が今回の番組で「SF作家は群れているといわれたが、どんなジャンルでもその初期には、同好の士が集中して、集まっていたものだ」と話していた。
たしかに、当時の掲示板は今よりかなり頻繁にオフ会とかビデオ上映会とかやってたですよ、格闘技・プロレス関係者は。
私は「今のネット屋・ブロガーは昔のよりスケールが小さい、面白いことを書く人がいない」みたいな論調は正しいとは思わないけど、まあそういうわけで今度11月25日に開く藁谷さんの講演会と、その後の懇親会は、初期の掲示板に集まっていた格闘ネッターの集い、に人的にも雰囲気的にも名残を引きずっている、最後の催しという面があります。
そういう視点から興味を持ってご参加いただくとありがたい(笑)
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20100101