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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

あさのあつこ「バッテリー」を目黒考二(北上次郎)が評す。

おおきく振りかぶって」の話から、この人気少年小説へ。
おお振りのファンも、これを読むと何となく気に入るんじゃないでしょうか?

前のエントリ
■[野球][漫画][読書]投げる人、捕る人。または凡人と天才の協奏曲について
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20070907#p4

バッテリー (6) (角川文庫)

バッテリー (6) (角川文庫)

これがすごい小説だったからだ。主人公は原田巧。・・・小さな町に家族で引っ越してくる。
巧は天才的なピッチャーなのだ。いや、正確に書くならば、この第一部でまだ野球小説は始まらない。のちに相棒となるキャッチャーの永倉豪と出会うだけだ。
・・・ようするに、この少年は天才ピッチャーであるがゆえに、自分の力をとことん信じているのである。彼にしてみれば、そんなことは誰にでもわかることではないかという思いがある。その才能を理解しないものは、たとえ親でも許せないのだ・・・・。
(略)
読み始めたらやめられないのだ。そんな性格のままで、お前は中学に進学して大丈夫なのかと気をもむのである。野球はひとりではできん、とじいちゃんも言っていたではないか。それなのに、お前は自分の力だけで野球ができると思っているのか巧よ。とかなんとかいろいろ心配になるのである。

(略)

(続編で)本格的な野球小説が始まっていくが、案の定、中学の野球部に入った巧は現実とぶつかっていく。その具体的な挿話の積み重ねが群を抜いている。・・・天分に恵まれた人間が、現実の生活の中でどんな困難に直面し、どんな苦悩をするのかという仮定が平易な文章と秀逸な挿話で語られていくのだ。その精神のドラマがこれほどまでにスリリングなのは・・・(略)相棒のキャッチャー永倉豪とさえ、彼は衝突するのである。
(略)

第三部から第五部まで・・・いやはや、すごい。その第三部から始まるのは、ライバル物語だ。現実との衝突はもっと深い局面を迎え・・・自分の力を信じて、それを理解できない周囲に苛立っていた主人公が・・・・本当にお前は天才なのかという問いに彼は直面するのである。まったくスリリングな展開で目が離せない。

以上、「本の雑誌」発行人である目黒考二(いや違った、北上次郎名義だ)が2006年に出した

エンターテインメント作家ファイル108 国内編

エンターテインメント作家ファイル108 国内編

に収録されている書評を、大幅に抜き出して再構成したもの。
ああしんどかった。

この本の中でも、非常に際立つ、力の入ったものですので敢えて広く読んでほしいと思ったが、できれば実際に読んでみてほしい。ここのamazon経由で購入しても当方は一向に構いません(笑)自分もこういう長文書評をもっと書かねば。

本の雑誌社から出てる本は買い取り制なので、あまり書店に並んでないんだよな。
これが、おおきく振りかぶって、にもつながる、「天才の苦悩と孤独」というテーマのひとつの補助線であり、回答でもある。


さて。
実はこの書評を紹介したのは、もうひとつ、実はこっちのほうが大きい話があるのですよ。
そこは今回抜き出さなかった。あとでまた書きます。