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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 報道、記録、文化のために

賞をテーマにした「黒笑小説」・・・建前・本音の二元中継、そして先行漫画

上に関連しているんだけど、本格推理の一方で「名探偵の掟」「毒笑小説」などパロディ、ユーモア色の強い作品をものしている東野啓吾が、

黒笑小説

黒笑小説

という作品を書いている。ここにたしか「もうひとつの助走」という、筒井康隆

大いなる助走 (文春文庫)

大いなる助走 (文春文庫)

へのオマージュとなる作品が収録されてるんだけど、これは筒井作品でも重要な要素となる、文学賞の受賞をめぐる人間模様を描いたもの。それも電話を各出版社の編集者と待つ、中堅作家の風景だ。
「僕は別にどうでもいいんだけどね」といいながら渇望する作家
「別にどうでもいいよ」とか「今回も駄目だろうな」と思いつつ持ち上げる編集者のしらじらしい会話が、(  )の内面独白と交互に表れて面白い。

この、タテマエの会話と内心のホンネ独白という表現は、ドラマなどではナレーションを多用すればできなくもないが、基本的には小説・漫画の独壇場なので面白い。


と同時に、その手法をたくみに使った傑作漫画が有る。

「新」のつかない最初のシリーズは、政治家秘書がどう地元でカネをつくり、おじちゃんおばちゃんから1票をもらうためにくさい芝居や饗応をするか、という実に泥臭い部分を描き、こっちの面白さも抜群なのだが(「社会の裏のディテール教えます」系漫画の先駆でも有る)、「新」はむしろ永田町での合従連衡がテーマ。

しかし弘兼兼史「加治良介の議」のような、浮わついた大文字の議論なぞ薬にしたくてもない(笑)。ひたすら元総理、前総理、野党指導者、若手実力者などが入り乱れ、くっついたり離れたり、もうビバリーヒルズなんたら白書状態です、ほんまに。それで多数になった少数になったとやってるんだから。
その際、まさに政治家はホンネを隠しつつ美辞麗句を並べる(場面によっては、逆にものすごく激烈なホンネや脅しもぶつける)んだが、ふきだしによって声に出ている台詞と内面での独白を書き分けられる漫画の強みをいかし、この二つを並べている。

そうすると・・・・「なるほど、こんな場面はこんな風なレトリックを使うのか」「こういう風に言って、本音を隠すのか」という部分が物凄く参考になるんだよ(笑)。とくに、政界はそれなりに年功序列、礼儀や典礼も要求されるから、ちょっとした言い回しは実にカドのない巧みな言い回しになっている。
新社会人とかにもお勧めかもしれない。

で、どんどん話が進行すると、もう相手の裏の読みあい、布石の打ち合いが実に複雑極まりないことになってだね。実は「DEATH NOTE」を好む人なんかは、すごく面白く読むことが出来ると思う。

原作者は、政治記者(ライター)半分、有力政治家のブレーン半分というような怪しげな人だったとも聞く。

「新」のほうはもともと週刊ポストに連載されたもので、普通の漫画ファンに目に付く機会がなかったかもしれないが、隠れた名作です。