曙さんのおかげで最強論の迷妄から覚めた、という人を知っているが、脱洗脳後のこの人にインタビューしてみると、「相撲最強論」のイメージは全く別のところから来ていたのだ。
筒井康隆「走る取的」である。
http://www.geocities.co.jp/Hollywood/2315/diary1.html
筒井康隆を読む人なら知っているだろうか。「走る取的」という短編を。
「メタモルフォセス群島」という本(新潮文庫)の1編である。
これはすごいよ、って言うかこんなに恐い話はない。
・・・・・・バーで2人で飲んでたときに、そこに取的(幕下の相撲取り)がいるのを知らず、
「あいつ、今は相撲取りみたいに太ってるらしいぜ。」
と言って友達のことを笑ったことから全ての悪夢が始まる。
それが理由かどうかは分からないが、それからその取的にずっと追っかけられ、最後には2人とも殺されてしまうのだ。
・・・・・・
なんたる滅茶苦茶な話。しかし、この話はしばらく頭から離れなかった。
私はこの作品を読んだとき、子供だったせいかまだ「怖さ」はピンとこなかったのだが、相撲取りの怪獣じみたイメージは確かに印象に強く残っている。強さの根拠は「からだの鍛え方が違う」のひとことで片付けていたけど(笑)、それがかえって説得力があったのだ。
夢枕獏が編んだ恐怖アンソロジー集にも収録されていた気がする。
その後(というか今)ふと気づいたんだけど、相手は意図や個性がまったく不明、それでも圧倒的なパワーを持つ、そして逃げても逃げてもしつこく追ってくる・・・というのはスピルバーグの出世作「激突」と同じ構図だよね。
いちいち初出年を調べないし、似通っているのも偶然だろうけどそういう小説。
或るとき、ちょっとしたきっかけで親戚の子にその筒井康隆の「12人の浮かれる男」をあげようと思ったのだが、なんと絶版なんだそうです。筒井康隆といえば大人気作家、というイメージがあるのだが、それでも絶版は避けられないのですなあ。
それでも、もう何十年も前の「富豪刑事」が今回というか、今日からテレビ朝日でドラマになるそうだ。原作はミステリー的な意味とは別になかなか面白いユーモア小説で、(ドラマはやじうまワイドの紹介をみると果てしなくダメっぽいが・・・)、これで筒井康隆に再度スポットが当たるのは悪くない。
この作品のほか、「走る取的」が収録された「メタモルフォセス群島」は粒ぞろいの短編が詰まっていたので、さすがに絶版はされていないようだ。
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