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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

夏目房之介氏の「マンバ」連載コラムが最終回。最後に「今後やってみたいこと」が語られる

計32回の連載だった。
古い順から並べるとこう。

manba.co.jp
 
manba.co.jp
 
manba.co.jp


非常にありがたかった連載であった。
というのは……私事というか個人のお気持ちだが、ぶちゃけ、1990年代に自分が好きだった、追っていたコラムニストって、いま週刊誌とかで継続してレギュラー連載を持っている人がほとんどいないのね。
そりゃそうで、1990年代といったら「およそ30年前」なわけよ。
当時、コラムニストとして売れっ子になるなら、相応の人生経験や業界の信頼を得たキャリアがあるだろうから、45歳だとして、ばりばり後期高齢者。50歳なら80歳になるかどうか。いくらフリーの物書きとはいえ、「定年」だろうし、別の安定した職に就いた人も多い。新聞記者としてその肩書でコラムをかいていた、とかはその肩書のほうが消える。

で、実際的に定期的なコラムの場を持つ人が減っているわけだ。故人も……
山崎浩一呉智英浅羽通明えのきどいちろう中野翠ナンシー関小田嶋隆町山智浩目黒考二勝谷誠彦中森明夫関川夏央………まだ生き残ってる週刊誌、月刊誌とかに長期連載がある人もいるが、それはそれで何やら視点と生活が硬直気味だったりしてな(名前は挙げない)

そんな中で、無料のサイト内で夏目房之介という高名なコラムニストがきちんと連載し、しかも漫画サイト内でマンガについて書くという、オーソドックスな構図が嬉しかった。


ただ、一方で「そもそもいま、こういう無料でみてもらって広告か何かで稼ぐ?サイトで、プロが連載コラムを書いて原稿料を貰うというシステムが持続可能なのだろうか?」という疑問も正直会った。


計32回で、連載がかなり「突然に」終わったというのは、どうだろ、何かを証明しているのではないか。ちがうかな。本人が「突然の最終回」「私としてはまことに残念」と。

突然ですが、本連載今回が最終回だそうです。私としてはまことに残念ですが。
 初回が、2022年1月「浦沢直樹の漫勉」と諸星大二郎の「謎」なので、何だかんだで3年余続いたことになる。「与太話」と名付け、そのつど気の向くままに気軽に書こうと、はじめは思っていた。が、ここ数年気になっているマンガ研究の主題にひきづられ、あまり一般には興味を引きにくい連載内容になってしまったかもしれない。13年の大学教師生活で、必然的に研究よりのテーマに引き寄せられ……(後略)
https://manba.co.jp/manba_magazines/27586

マンガ与太話最終回 夏目房之介

ただ、計32本の記事でとてもうれしいのは、夏目氏が自分の回想をすることで、「マンガ学誕生の歴史」みたいなものの資料になっていること。
以前、このブログで記事を書いた記憶があるけど、夏目氏はマンガ学の道に進んだわけでなくマンガ学を「創った」のである。それも、はじめは「学問のパロディ」の体裁をとり、「いや、あえてあの低俗でナンセンスな漫画を、”学問風”に研究したパロディなんですよ。笑えるでしょ?」「たしかに!アハハ」とかやりながら、気づいてみれば実は立派な学問のジャンルになっており、おやおやあちこちの大学に研究室ができてたよ…!という、宇宙人のひそかな地球侵略、あるいは時代劇の御家乗っ取りのようなことをしたんだ、彼らは(笑)
その犯行?の手口・・・・いや歴史証言を得たところが貴重だった。



あー、当時の文章を残していたぞ、おれ。この時点で10年前の文章を再録して…まさに1990年代、その「学問のパロディのふりをして学問になる」の陰謀の真っ最中の時だ。
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のちに2ちゃんねるに夏目氏がかきこんだことがある。西暦2000年、ミレニアムのときか

584 名前:夏目房之介投稿日:2000/11/10(金) 23:56
>583さん 昔は「少女マンガの文法はやはり特殊過ぎて、外国の人が理解しにくい僕も昔そう思っていました。実際、昔の欧米コミックに、ああした効果やコマ構成はなかったように思います。
個人的感想ではここ5年以内に欧米でも似たコマ構成を見る気がします。
ただ、それが本当に少女マンガの影響なのかどうかは不明です。
また、国内でも少女マンガ手法は80年代に普遍化してますから、直接の影響が商業的に出るのは、韓国と台湾ぐらいかもしれません。
この2国ではむしろ少女マンガのほうが市場としても強いようです。
ただ少女マンガ系には特殊な影響力があって、オタクレベルのマニア層でやおい的な波及をする、いわばコアな影響は欧米、東アジアともに見られます。
 
 

585 名前:名無しさん@お腹いっぱい。投稿日:2000/11/11(土) 00:36←※これ、おれ。数少ない2ちゃんねるへの書き込み
私は、とんがった(?)連中が、情報のないところで
もがいたり試行錯誤しながら文化ジャンルをつくってく、って話がなんかすきなんですね。SF黎明期の星新一や野田昌弘の回想録とか、「モスクワ愚連隊」的東欧のロックバンドの話とか、辞書と首っ引きでRPG「ウィザードリー」をやりこんだ初期ゲーマーとか、岡田斗司夫のゼネプロ話とか……タイや台湾のやおい少女も、ひょっとしたらそういう黎明期の開拓者として悪戦苦闘しているのかも。
 

 
586 名前:夏目房之介投稿日:2000/11/11(土) 01:46
>585さん。
いいね、いいね、そういうのね。
60年代末の劇画もそうだったし、
今、多分うざったく思う人もいるだろうマンガ批評ってぇと出てくる団塊や僕らの世代の人も、初期SFみたいな時期あったような気がする。
だから主張が違っても、けっこう仲いいんだよね。
今、外国でマンガ好きな人と会ってて楽しいのは、そういう雰囲気もってるせいもあるのかもなぁ。


その後、こんな動きも
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これも参考に
mandanatsusin.cocolog-nifty.com
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そして最終回で、夏目氏は意気軒高に「これから研究したい仕事」を列挙する。

やりたいことはまだまだある。共同研究によるマンガ史観の再検討や、自分を含む60~70年代の戦後ベビーブーマーの「マンガ青年」集団の再検討、これまで論考をまとめた谷口ジロー論など、とりかかるべき主題は多いが、私の生きているうちにできるかどうかもわからない。ただ、できるところまでやってみようと思う。もっとも生来の怠け者なので、期待されても困るが。


こういう時には、手塚治虫にとってのカベムラ編集長みたいな人がいないか、と惜しまれる。電柱に登って窓から「ナツメ!居留守するんじゃねえ!いるじぇねえか!」「谷口ジロー論の原稿ができてない?これから家に火をつけるからな!」みたいにね(笑)


かつての夏目房之介氏の著書、今でも入手可能なのはどれぐらいあるだろう。電書化とかもされているのかな。


まだ、ブログも更新されている。
blogs.itmedia.co.jp