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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

9.11の2日後「9月13日」に、それでも大会を開いたWWEのルポ。~20年目の再紹介~

本日、9月13日。

【解説】
・以下の文章は当時(2001年)、リアルタイムで書かれたものである。

・放送を見て、このように内容を記録したのは、今も「ゴング格闘技」などで取材と寄稿をしている堀内勇記者。当時は在米で、ネット上では「ひねリン」というハンドルネームでも活躍していた(HNの由来も、もはや残しておかないと忘れ去られる可能性があるので残しておこう。リアルとフェイクの問題も含めて楽しむ「ひねくれリングスファン」が元の意味である)
ちなみに、いつまで残ってるかとドキドキしながら再訪すると、 まだ http://hinerin.blogspot.com/ が閲覧可能でほっとした…(ここに、この文章もあれば世話はないのだけど、そうではないのだ)※2023年現在終了
いまもSNSアカウントなどお持ちかもしれないが、たぶん、昔のこのHNは使っておられんだろうな。


・最初、「KANSENKI.net」に掲載された。(これも記録しておかないと忘れられるが、今でも紆余曲折を経て大手スポーツサイトとなっている「スポナビ」は創設当初、ファンの観戦記投稿も外郭コンテンツ的なものとして取り込んでいた。KANSENKIネットは、その当時の、そういう場所である)。

・そしてその後、記事は紙プロにも転載された(この時は紙のプロレスRADICALかなあ。まだ「kamipro」じゃなかったとは思うが)。

これは未曽有の危機に直面したアメリカの、…その「アメリカ」を象徴する一場面であり、
同時に、非常に大きな出来事---それも痛ましい方向の事件が勃発した時、「娯楽」「エンターテイメント」はどんな姿勢で、どんな行動をとるべきか、というケーススタディとしても有益だと思う。
(その一方で、この論理展開は、「エンタメ業界側の自己弁護的な論理構築」に見えないこともない。そこも含めて、知られるべき存在だろう)


なお、これは確認していないが、一般的にWWEはこの後、多くの映像を自由に見ることができるオンラインのサブスクサービス「WWEネットワーク」を立ち上げている。
おそらくだが、この2001年9月13日の大会の様子も、そのアーカイブで見ることができるのでなかろうか?(ただの推測です、事実はわかりません)

watch.wwe.com

※直接の映像が見られるかわからないけど、逆に無料公開のこういう映像があった
www.wwe.com



以下から、ひねリン氏のルポ。

例の11日(火曜)に起きた全世界を震撼させたテロ事件で、さすがに当日予定されていたSMACKDOWNの収録を見送り、選手を待機させていたWWF。多くのイベントが自粛を決めるなか、WWFは13日の木曜日にSMACKDOWNのをライブを敢行しました(なお、同じく当日に放送される予定のTough enough は延期)。プレスリリースでは、リンダ・マクマーンの名で以下のようなコメントが出されました。


「ヒューストンの官吏の人々と話し合った結果、我々は興行を行うべきだと決定しました。我々は、『この野蛮なテロ行為が過ぎた今、アメリカ国民は普段の日常に戻ろう』という、ブッシュ大統領やその他の指導者達の呼び掛けを支援するために興行を行います。木曜夜のWWFSMACKDOWNはアメリカ国民の日常の一つだからです。今週のWWFSMACKDOWNは普段とはちがうフォーマットとし、特別に、このひどい悲劇の間にも明るく輝いたアメリカ国民と我々の民主主義の魂に捧げることになります。」


このアナウンス通り、番組の形は以前にオーエンが死亡した次の日のRAWに良く似た特別ヴァージョンになりました。試合前には全選手が花道に勢揃い。試合はこれまでのアングルやストーリーラインをほぼ全て棚上げした純粋な(?)レスリング試合。その合間に、今回の事件についての選手達の声を挿入するというものです。まあ詳しいことは、以下をどうぞ。

    • -


番組開始。リングを中心に会場全体をロングで捉える映像と同時に、JRが「本日の、ベリースペシャルなSMACKDOWNライブにようこそ」の実況開始の声。そして会場は大「USA」コール。リング中央には、こざっぱりとした白い半袖ジャケットを着たビンスがマイクを持って一人立っている。ビンスのアピール開始。


「今夜、アメリカの魂はここ、テキサス州ヒューストンに生きている!(大歓声)このアリーナにいるみんな、世界中でテレビを観ている視聴者達のために、我々は、この火曜日のNYとDCでのテロ行為の被害者、被害者の家族友人達に、哀悼の念を捧げたい。我々の国の指導者達は、我々に日常、アメリカの日常に戻れと言っている。我々の憲法で定められた権利を行使せよと言っている。そして私はこれが、あの火曜日の悲劇以来初めての、この規模での人々の集まりだと思う。大切なのは、われわれのこの集まりがテロリズムに送るメッセージだ。それは単純に『我々は、恐怖に怯えながら暮らしたりしない!』ということだ。ヒューストンの人々は恐れない。テキサスの人々は恐れない。そして、アメリカ国民は恐れない。我々は誇り高き国民だ。我々自身に、我々の国に、そしてアメリカ人であることを誇る(会場再び大「USA」コール)。そして我々は闘う。我々は我々の家族のために、我々の権利のために、そして我々のこの偉大な国のために。アメリカの心は傷ついた。しかし我々の魂は輝く、ちょうど我々の自由の灯火が決して消えないように。ワールドレスリングフェデレーションは、このコンパックセンターに来てくれたあなた方一人一人に感謝する。ワールドレスリングフェデレーションは、これをテレビで観ているあなた方一人一人に感謝する。そして我々は、あなた方の前でパフォーマンスをできるという名誉と特権に対して感謝する。」



そして、最近新しくなったSMACKDOWNのロゴが流れ出す。いや、いきなりすごいことになってますね。いつもは観客や地元を煽りバカにしまくるビンスが、思いきり観客と一体化している。観客のプラカードも、アメリカ国旗のデザインに「アメリカ万歳」とか、被害者へのメッセージを書いたものとかで満ちている。


さらに、大歓声と音楽に乗ってロックを先頭に全選手、関係者が真面目な顔で花道に勢揃い。実況はJRとヘイマン。JR「我々は、これから二時間あなたを楽しませる。そのためにいるのだ。」ちっちゃなアメリカ国旗を持っている選手多し。胸に手を当ててる選手も。もちろんTAJIRI海援隊も、そしてなぜかアーン・アンダーソンもいるなあ。そしてリング中央に一人立つのはリングアナのリリアン。そのリリアンによる国家斉唱。みんな言うように、この人はリングアナやってるより歌ってる時のほうがよほど輝く。歌い終わって大拍手&大「USA」コール。リリアン歌い終わって泣いている。


CM後、エッジインタビューの映像。ここで断っておくけど、これも含めて本日流れる全てのインタビューは、私服姿のレスラー(&関係者)達の、今回の事件に関するコメントを事前に撮ったもの。バックはアメリカ国旗のカラーをコラージュしたような模様。当然、みんな大真面目モード。


「実は僕はこれ(インタビュー)をやるかどうかいろいろ考えてたんだ。だって僕は、みんなが、このエッジ、というかアダム・コープランドがこの事件についてなにを言うかを気にするかどうかなんて分からないから(註:エッジはアメリカでなくカナダ出身)。また、この興行をやるのが正しいのかどうかも考えてた。考えた末、WWFファミリーとして、僕らは仕事をすべきだと思った。僕らの仕事は、みんなの家族の顔にスマイルを届けることだ。もしそれが出来たとしても、これ(事件)は忘れてはいけないし、絶対に忘れられることはないだろうけど、僕らがそれをできたなら、興行をやるのは正しいことになると思う。最後に、この事件で被害を受けた全ての人々に祈りを送りたい。」


続いて、WWFエージェントのリッキー・サンタナのコメント。涙ぐみながら被害者達に哀悼の念を述べ、怒りを表現し、愛国心のために集まったヒューストンの観客とこの興行を行なったWWFに感謝し、家族へメッセージ。


ハーディーズ(withリタ)vsザ・ハリケーンランス・ストーム(withアイボリー)。
ザ・ハリケーンというのはWCWのハリケーン・ヘルムス。子供番組のスーパーヒーローに成りきったバカキャラで受けている。試合はクリーンに行われ、最後はジェフのスワントーンボム炸裂。リタの髪、三つ編みでお下げになっている。


テリのコメント。母として、この事件に衝撃を受けたと。


ロックのコメント。
「(すごく静かな声で、ゆっくりとぎれとぎれに)なにより最初に言わなくてはならないのは、僕には被害者達の家族、友人、そして24時間瓦礫の中を、遺体を探して必死で働いている労働者達の、痛み、苦しみ、怒りを推し量り、理解することはできないということだ。そこにいるのがどういうことか? もし僕の家族がそこにいたら? 僕には想像がつかない。哀悼の念を彼らに捧げる。そしえ僕の心、祈りを彼らに。またこの事件に巻き込まれた全ての人達、被害者の友人や家族達には『強くあってくれ(stay strong)』と言いたい。Stay strong。」
キャラ抜きのロック様(当然自分のことをふつうに「I」と一人称で呼んでいる)、コメントがすごい知的。ボキャブラも高度。


ここで、キャプションとともに「SMACKDOWNはスポーツエンターテインメントですが、火曜の朝に起きた、邪悪なテロ攻撃はリアルです。我々の思いは、この悲劇に巻き込まれた全ての人々に。」とのナレーションが。「スポーツエンターテインメント」は「リアル」の反対語なのか? とちょっと突っ込みたくなる。


CM後、galleayfurniture.comのジム・マキングベル氏のインタビュー。つうか誰このおじさん? 地元の有名人? とにかく、被害者への哀悼の念と、この時期にWWFの興行を行ってくれたビンスへの感謝。


RVDvsスパイク・ダドリー(withモリー)。
RVDは最近、アライアンスのメンバーでありながらファンの支持が高いので、ストーンコールドに妬まれるストーリーでベビー化路線を歩んでいる。ヒールなのに動きが凄すぎてベビーになっちゃうというそのことが凄い。今日もぽんぽん飛んで、最後はものすごい落差のフロッグスプラッシュ。


ジェリコのコメント。
「正直、僕はNYに行って、瓦礫の中で自分がどんな手助けができるか確かめたい。でも僕はNYにはいないから、別の形で手助けをしたい。僕らはこの事件から学べるのは、もっと平和な国民に、人類になること、もっとお互い親切になること。また僕らは、明日は、10分後は、5分後は何が起こるか分からないということも学んだ。そして、たぶんこれが何より大切なことだけど、今夜は大切な人をもっと強く抱きしめ、もっと多くキスをし、道にいる見知らぬ人にももう少し親切になろう。我々の運命は我々の手の中にあるんだ。」
町のお兄さん風でした。


マイケル・ヘイズ(まだWWFにいたんか?)のコメント。
「俺たちアメリカ人は完璧ではないし、そう主張したこともない。しかし俺たちは善良な人々だ。しかしこの事件を起こしたやつらは邪悪な人々だ。俺はこう考えられると思う。俺は以前歴史の本を読んでいたけど、これは過去の話と同じだ。ピルグリムが革命的な闘いにやってきて以来、南北戦争I&II、朝鮮戦争ベトナム戦争湾岸戦争と闘って来た。(こう考えれば、)このリアルさを感じられるだろう。多くの女たちや男たちが自由のために闘い死んできた。これはこの国において、誰にも止めることの出来ないものなんだ。我々アメリカ人は、自由のために闘い死ぬからだ。俺はこの国で有名なふたつの格言を思い出した。一つは「団結すれば我らは立ち、分裂すれば我らは倒れる(United we stand, and divided we fall.)」だ。我々は倒れていない。我々は過去のどの時よりも、現在団結しているのだ。二つ目は「軽率なことはするな。報いが来るぞ。(Be careful what you ask for, because you just might get it.)」 だ。俺は個人的に、今回の事件を起こした奴らが、報いを受けるのを待てない(決然とした表情)。」
うーん多くの人が、今回の事件の遠因であると考えている悪名高きアメリカの戦争史を羅列して自国批判するのかと思ったら、それを全て「自由への闘い」としてまとめるとは。さすがかつてフリーバーズとして、南北戦争の旗を振っていた人らしいという気もする。


CM後、ショーン・ステイジアックのコメント。被害者と関係者たちに哀悼の意を述べ、我々はさらに強い国民になる、と。


リタのコメント。
「(早口で、たどたどしく)こんだけひどく凶悪なことに対して、なにを言えばいいのか分からない。どうやって他の人と違うことを言えるのか。茫然自失な自分の心の奥を探ってみて見つかるのは、悲しみ、怒り、恐怖、そして無力さが一体となったもの。で、私たちは今答えを探してるでしょ。誰がこんなことをするのか。どうして?彼らはなにを成し遂げたかったのか。私たちには分からない。私たちは事件の容疑者を探し、動機を求めるけど、それでももう起こっちゃったことは何も変わらない。私はみんなとおなじように、火曜日からすっとテレビを観てたけど、変わったことは、この事件がどんどん現実的になったってこと。個人としても国民としても、こんなふうに感じたことはなかったし、はー(ため息)、私はこんな状況に直面してどうすればいいか分かるなんて言えるほどずぶとくない。個人的には、私は大きくても小さくてもなんか問題があるときは、やってることを止めて深呼吸する。だから今夜私たちが提供するエンターテインメントで、ちょっと短い時間だけ、みんなが頭にあること脇に置いて、リラックスして、最初の深呼吸をできればいいと思う。」
なんか、最後のパートを含めて、ほどんど事件に戸惑う町の女子大生って感じだった。俺的には好感度高し。


ジェリコvsクリスチャン。
パートナーのエッジばかり出世して自分にいいことがないのを妬み、エッジをイスで殴ってヒールとなったクリスチャン。派手なオペラ(もどき)の音楽と滝のように落ちる花火で入場。マイクをもって悪役っぽく自分の入場シーンを自慢しているところにジェリコ登場。クリスチャンをからかって(内容は別に面白くないから略)試合開始。ジェリコがクリーンに勝利。


キャニオンのコメント。NYでポリスをやってる従姉妹を誇りに思う。助け合っているNYの市民を、そしてなによりこの国を誇りに思う、と。


タズのコメント。
ペンタゴンピッツバーグのに加えて、NYのおそろしい事件で、俺は今ここヒューストンにいて、(NYの)スタテン島の家族と両親と離れているのが恐い。俺の妻と子供がスタテン島にいて心配だから、俺は彼らのそばにいて守りたい。でも俺はそうしていなく、ここで仕事をしている。妻と子供に会いたい。この事件を起こした奴らは思い知ることになる。激しく思い知る。大統領だか議員だか誰かが、奴らに正義を下すと言っていたが、俺にはそんなのはクソだ。正義なんかくれてやるな、やつらを撃ち落とせ。膝まづかせ、腹ばいにさせろ、やつらの息が絶えるまで。力には力で闘え。俺はいつ家に帰れるか分からないけど、きっとNYに帰る。どんなふうになってるかも分からないんだ。」


CM後、(WCWの)トーリーインタビュー。涙ぐみながら、被害者たちにいたわりの思いを。


ハリケーンのコメント。NYの消防士や、手助けをしている人々に称賛。事件を起こした奴は人間以下だが、助け合っている人々は我々がそれ以上であることを証明した、と。


ババレイインタビュー。多くの人が死んだが、アメリカとアメリカの魂を殺すことはできない。これは逆に我々を強くしたんだ。そしてこの事件を起こした奴らに報いがあることを、すぐに報いがあることを、と。


ロック様、リングに登場。「Finally...」のいつもの台詞をやったあと、今夜は特別な夜なので、自分のWCWタイトルの挑戦希望者を募集。「控え室に、この偉大なロック様と闘いたい者はいるか?」そこで登場したのは、自爆キャラで売っているステイジアック(withステイシー)。リングに全力で駆けこんでロックに突っ込むも、その勢いのままあえなく場外に放り捨てられる。ロックは何事もなかったように「誰か、このロック様と闘いたい者はいないのか?」悔しそうに引き揚げかけたステイジアック、再び花道を走ってロックに突っ込み、再び放り捨てられる。ロック三たび「誰か、このロック様と闘いたい者はいないのか?」


ステイジアック三たび突っ込むも、ロックは寸前で手をかざしてステイジアックを止め「まったまったまったまった。どうしたというのだ? お前はいったい何をやっているのだ? お前はいつも自爆してるではないか。 今日も二度も走り込んで、二度もロック様に放り捨てられ、気分は良いか? 良いわけないな。不快だろう。そしておそらく痛かろう(JRが思わず笑う)。まあ待て落ち付け。話をしようではないか。みんなの好きなパイについて話そうではないか(大歓声)。ステイジアックよ、お前はパイが好きか?」ステイジアック「大嫌いだ。(観客ブー)」ロック「ロック様がパイを好むのは皆の者が知っている。そしてこのヒューストンテキサスの人民もパイが好きだ。しかしお前は好きではないのか。では、お前は(自分の下半身にちょっと手にやって)シュトルーデルも嫌いか?」
(註:シュトルーデルは巻き菓子。最近ロック様はペニスを暗示するものとしてこの言葉を使う。つまりロック様はステイジアックに「(女性器を暗示する)パイを嫌いということは、お前はペニスを好むホモなのか?」 と遠回しに尋ねていることになる。)


ステイジアックが嫌な顔をして引くと、ロックは花道で一部始終を見ていたステイシーに話を振る。「ではそこの女はどうだ、お前はピープルズシュトルーデルは好きか?」それにステイシーは笑顔でうなずいて反応。観客大喜びの中、いらだったステイジアックが割って入って「失礼、俺はWCWタイトルに挑戦したいんだが!」ロック「分かった。では握手をしようではないか。それで我々はタイトルマッチを行うのだ。」二人は握手。ロック「よし、今ロック様は、お前をこの孤高の星の国に歓迎しようではないか!」といきなりロックボトム。3カウント。三たびゴミ扱いのステイジアックあわれ。まあこういう日には、こういうコメディーで笑うのはいいことでしょう。ロックはともかく、ステイジアックもグッドジョブでした。ここんとこずっと極端なみじめキャラだけど、笑われ役として名前と顔を覚えられてきているのも確か。


デブラのコメント。なんでこんなことをするのか? と問い、また大切な人を無くした人々への同情を語る。そのうち泣き出す。最後は泣きながら「なんでアメリカ人にこんなことをするの? 私たちが奴らに報復する日を待ちきれないわ。待ちきれない。」


ヒューモラスのコメント。兄弟が当地で消防士として働いていて、自分の命をかけて働いている彼らこそヒーローなのだ、と。


CM後、アイボリーのコメント。WWFのスタッフに感謝の気持ち、被害者たちに哀悼の意を述べた後、アメリカの子供たちに向けてメッセージ。
「恐れてはいけない。(泣きながら)そしてこれだけで判断しないで。子供たちに知って欲しいのは、この国には、この世界には、悪い人間よりも、はるかに多くの善良な人たちがいるってこと。アメリカはあらゆる人種と宗教を持つ人々から成っていて、それゆえに我々の国は素晴しく、多様で、自由なの。国として、我々はこの悲劇を抱きしめる。そして記憶する。この出来事の酷さと残虐さは、我々がさらに強く、深くつながり合う人類となるための挑戦なの。」


ブラッドショーのコメント。
「俺はいろんな卑怯な事件を聞いたり見たりしてきた。ドイツでの狂信者によるユダヤ人の抹殺。狂信者によるオクラホマ州ビルの爆破。そしていま、ある狂信者どもがアメリカを攻撃し、罪のない男、女、子供、夫、妻、両親を攻撃した。お前らがどんな信仰や動機を持っていようがこの人々は全く関係無いじゃないか。俺たちは今日ショーをやり、お前らに見せてやる。お前らはアメリカ合衆国の背骨を折ることも、その繊維を曲げることすらできないことを。俺たちがショーをやることを批判する者が出てくるだろう。俺はそいつらにはっきり言っておく。Go to hell!! 俺たちはアメリカを愛するからショーを行うのだ。これこそ、今夜俺たちがアメリカに提供できる全てだ。俺はそうしなくてはならないときは、なんの躊躇もなくこの国に俺の命を捧げる。俺には実際にそれをやった親戚達がいる。外国のいろんなところで埋葬された親戚たちが。俺も同じことをするぞ、この偉大な国を愛しているから。ジョージW(ブッシュ)はテキサスが生んだ偉大な為政者だ。今こそ彼は偉大な大統領になるときだ。そこにいる奴ら、俺たちはお前らを捜し出してやる。どこに隠れよう・と見つけ出す。神の祝福をこの国に、この俺の住む偉大な州に、そしてこの事件を起こした惨めなサノバビッチにも。」


Xパック&アルバートvsアコライツ。
寸前のコメントでインパクトを残した怒れるパトリオットブラッドショークローズラインフロムヘル炸裂。


カートアングルのコメント。
「(被害者への哀悼を述べた後)、私は今までの人生でずっと、特別な者、アメリカンヒーローと呼ばれる者になろうと努力してきた。そしてオリンピックで金メダルを取り、ある人々は私をアメリカンヒーローと考える。しかし私は、あのひどい悲劇を見た後、本当のアメリカンヒーローは誰か知っている。それは被害者たちや家族にその手をさし延べる、警官であり、消防士であり、医者であり看護婦であり、救助隊員である。彼らこそ本当のヒーローで、金メダルに値する。いや、彼らこそ、アメリカ人と呼ばれるにふさわしいのだ。It's ture。」


CM後、ビンスの冒頭のスピーチを再び紹介。


ブッカーTvsビッグショウ。
かかと落し二連発でもフォールを取れなかったブッカー、前方回転しながらの三度目のかかとで勝利。今日初めてヒールが勝つ。


CM後、会場外に立っている星条旗が映され、さらに冒頭のビンスのアピールの一部を再び流す。


ランス・ストームのコメント。
「(涙ぐんで)これはアメリカに対する攻撃というより、世界に対する攻撃なんだ。私はアメリカ人ではないが、私にも影響する。私の家族は私を心配し、私も家族を心配する」等々。


Dヴォンのコメント。
「奴らは、自分たちの国が荒れてるから、自分が我々の国アメリカや他の国にあるような自由を持ってないから、我々を嫉妬して、我々を奴らと同じ所まで引き下げようとしたのだ。この事件は我々を団結させ、近づかせる。もしもこの事件が我々を団結させないなら、なにがそうさせるというのだ?」等々。


CM後、赤十字のやってる援助募金の番号の紹介。


海軍将校で、名誉勲章の受勳者マイケル・スロントン氏のコメント。ヒューストンに住んでいるらしい。
「(自己紹介の後)私はビンスとWWFに感謝したい。ヒューストンにおいて立ち上がり、『我々はテロリズム行為にに自分たちの生活を変えさせはしない』と宣言するために行われた最初のスポーツイベントとなってくれたことを。テロリズム行為は恐怖だ。コリン・パウウェルが言ったように、我々は生活を続けるし、それが大事なんだ。それがビンスがテキサス州ヒューストンで今夜やってくれていることだ。今日、テキサス州ヒューストンの指導者たちの助けを得て、あなたがたの前に立てることは名誉である。」


リタvsアイボリー。
三つ編みでお下げ髪のリタがムーンサルトで勝ち。試合前にさっきの将校さんがリングサイドにいる姿が映され、JRが「彼はベトナム戦争の遠征を四度も生き残った」とか持ち上げている。まー大事な客であることはよく解った。


ステイシーのコメント。
「私まだ21才で、私の世代にとってこれは、学校の教科書で読んだことがあるだけのことセった。今私たちには、同情、勇気、愛国主義という言葉がなにを意味するのか問われているの。私自身、自由って言葉に新しい尊敬を持ったし、私の気持ちは、これは私だけの気持ちでないけど、我々アメリカは団結して、お互い争うことをやめて、一体化しなくてはないらないってこと。そして私の心と折りは、この事件に影響されたこの国の全ての人々に。」


ストーンコールドのコメント。
「俺は哲学的なこととか、世界を変えることなんか言えやしないが、とにかく起きた事と自分の意見を言う機会を与えられた。俺が思うに、この事件を起こした奴らは全くの卑怯者だ。俺の心は愛する者を失ったみんなに。今夜俺は、WWFとともに仕事に戻る。それがするべきことだと思う。俺は奇妙な気分だ。これが起きてからずっと気分が悪く、俺は個人的にこのことを払いのけることはできないけど、国として俺たちは払いのけなくてはいけない。俺たちは知人の喪失を弔わなくてはいけないけど、同時に俺たちは回復し、ギアを再び入れなくてはいけない。俺たち(WWF)は今夜そのためにここにいる。この火曜日に起こったことは俺の人生で見たなかでも最悪の出来事で、こういうことをもう二度と見なくて済むことを望む。ただし、これを起こした人間を、俺たちが捜し出して報復する時を除いて。こいつらはそれに値する。こいつらは、今後こいつらに起こること(報復)にふさわしい。」

CM後、ブッカーTのコメント。犠牲者とその家族への哀悼。消防士等への称賛。そして我々はもっと強くなり、団結すると。



ステファニーのコメント。
「(ものすごく落ちついて、力強い声で)数年前、何者かが私の家族を壊そうとした。彼らは私の父と母の名誉を攻撃しようとし、WWFを攻撃した(註:かつて、ビンスがステロイド疑惑をかけられ、濡れ衣も着せられかけたことを言っている)。彼らは我々をバラバラにしようとたくらみ、結果として、私の家族の絆を強めただけだった。そしてそれは今のアメリカの感情と全く同じものだ。アメリカは火曜日に攻撃された。しかしアメリカは団結した国家(united nation)だ。そして我々は共に、力強く立ち上がる。私は驚くほど、アメリカ市民であることに誇りを持つ。そして私は、私の権利、自由のために立ち上がる。」
この日のコメントの中で、もっとも安定し力強かったのがステファニー。まったくこの人、ただもんじゃないですね。
(後記1:俺は上のようにひたすらステフに感心してたんだけど、番組を観たファンの反応としては、このステフの発言を批判する意見がすごく多いです。自分の家族のステロイド疑惑と、今回の悲劇をいっしょにするなんて無神経過ぎる、と。これは流すべきではなかった、という声も。)


テスト&ダドリーズvsTAJIRI(withトーリー)&リーガル&スコッティ
この試合前に、リングサイドにいるレイカーズのロバート・ホーリーとZZ TOPのビリー・ギボンズが映される。現在の番付からすれば、確実にTAJIRIのテーマで入場するはずのベビー軍、さすがにこの日はスコッティのテーマで入場。試合はそのスコッティがワームで沸かすも、テストのハイキックを食らいフォール負け。ちなみにTAJIRIは今、WCWのトーリーになぜかベタ惚れされるという、めちゃくちゃうらやましいストーリーをやってます。


リリアンのコメント。NYに住んでて、友達を連絡が取れてない、と。


ファルークのコメント。犠牲者への哀悼。テロリズムへの怒り。それでもアメリカは打ち勝ち、テロリズムを征服するだろう、と。
「いまこそ我々は、この卑怯者達に対して、ビジネスとはどういうことか教えてやる時なんだ。」


CM後、リーガルのコメント。
「(静かな声で言葉を選ぶように)常にテロの危険のある国から来た者として、私の感情を説明するのは難しい、つまり、どれだけ私が怒っているのかを。でも、確かにことは起きてしまったし、それでも我々は自分の家に戻って生活しなくてはならない。人々が集まって、いろんな形で、できる限りのことをして助け合っているを見るのはすばらしい。だから人生は続くし、つまりそれが全てだ。みんな集まって、うまくやってゆく、それが人生なんだ。」


アルバートのコメント。事件をニュースで見て最低の気分になった。アメリカが団結し、この悲劇を乗り越えることを望む。被害者への哀悼。この顔の無い卑怯者たちに迅速に正義の手が下らんことを。アメリカに神の祝福を、など。


アングルvsライノ
好勝負。ライノのゴアをアングルがカウント2で返し、オリンピックスラムで勝利。試合後アングルがマイクを取って「USA!!USA!!」と観客のコールを促し、リングサイドで観ているさっきの軍事さんが手を叩くシーン、さらに客席のところどころで掲げられている星条旗を映して番組終了。オーエン追悼のトリはストーンコールドだったけど、今回はさすがにキャラ的にアメリカンヒーローのアングルでした。

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ということで、スペシャWWFのひどく長い緊急リポートでした。とにかくみんな愛国心と国民の団結と復讐を訴えててすごいもんですね。実際このウルトラナショナリズムは、今現在非常時?のアメリカ社会全体の大きな傾向ですね。America under attack みたいのばかりだったテレビニュースの見出しも、いまはAmerica unites というふうになってきている。事件以来、星条旗くっつけてる車とかよく見かけるし。知り合いの左翼思想の持ち主のアメリカ人が、事件以来自分も思わずアメリカの旗を買って振りたくなってしまったと言って、自分がそうなったこと自体にショックを受けたりしてた。この放送は間違い無く感動的だったし、実際視聴者からも大きな支持を受けたけど、中東系のアメリカ人は見てて恐怖を覚えたかも知れないとも思う。実際英国でのオンエアでは、復讐を語るコメント部分は全部カットされたらしいです。ブラッドショーやタズのは全カットだったとか。


しかし、普段卑劣な暴力ばかり見せているWWFが、こういう時には卑怯な暴力と闘うアメリカと一体化し、普段あんなにむちゃくちゃに崩壊した家族を演じているステフが、家族の絆の強さを力説。モラルに反したことをやりまくってるWWFが、こういう非常時にはものすごい力で伝統に回帰してゆき、観客もそれを当然のこととして支持している。で、来週以降何事もなければ、またWWFはふだんのはちゃめちゃ暴力コメディーに戻るでしょう。このへんのバランス感覚も面白いもんですね。いくらむちゃくちゃやっても、究極の部分ではWWFは国民の正義を支持するのだ、ということですかね。同時に、普段むちゃくちゃやっているというそのこと故に、WWFアメリカの民衆ナショナリズムとこれだけ強烈に結び付いているとも言えそう。伝統や正義もアメリカなら、奔放な自由や消費主義もアメリカ。普段は後者のアメリカを支持しているWWFが、非常時には前者のアメリカを支持してみせたのがこの日のSMACKDOWNだったのかな。


(後記2:実際続く週の月曜のRAWは、すでに普段のフォーマットに戻ってた。それでもファンの多くは星条旗をモチーフにアメリカを祝福するプラカードを持ちこんでたし、試合開始前の場内のスクリーンは星条旗で満たされて、やっぱりファンが「USA」コールをしてた。選手の入場ゲートのバックの壁にも、常に星条旗が映されていた。これは、このSMACKDOWNはやっぱり高い支持を受けたと言うことだろうし、今多くのアメリカ人が、こういう国を称える儀礼への参加を求めているということでしょう。ちなみに「アメプロ=社会の支配団結に都合のいい大衆儀礼」という分析については、現在ドクターマサがコラムで紹介中。この分析は今のアメプロには古すぎて話にならないと思ってたけど、この日のSMACKDOWNに関してはけっこうぴたっと当てはまっちゃうかも。)