ビッグコミックスピリッツで、最近連載が始まったばかりの「ひらやすみ」。この前BRUTUSだったかな、別の一般雑誌で、連載前のプレ読切が載ったりしました。
本日発売の雑誌「BRUTUS」様にて、真造圭伍氏の新連載のフルカラー前日譚12pと西村ツチカ氏との対談が掲載されております🎉
— 【公式】スピリッツ編集部 (@spiritsofficial) 2021年4月15日
真造氏の新連載「ひらやすみ」は4月26日発売の週刊スピリッツからスタート🙌 ため息が出るほど綺麗なカラーを是非雑誌でお楽しみください〜〜#BRUTUS #真造圭伍 #ひらやすみ pic.twitter.com/IBWiVqNH2v
どんな作品か。まずは一話を読もうや
spi.tameshiyo.me
無料の楽園。もらった平屋モラトリアム。
生田ヒロト、29歳、フリーター。定職なし、恋人なし、普通ならあるはずの?将来の不安も一切ない、お気楽な自由人です。そんな彼は、人柄のよさだけで、仲良くなった近所のおばあちゃん・和田はなえさんから、タダで一戸建ての平屋を譲り受けることに。そして、山形から上京してきた18歳の従姉妹・なつみちゃんと2人暮らしを始めました。しかし、彼の周りには生きづらい“悩み”を抱えた人々が集まってきて……連載前から雑誌「BRUTUS」で紹介された、真造圭伍最新作。
先が見えず鬱屈した“今”だからこそ、あなたの心をスッと癒してくれる物語です。
平均的な水準としては貧乏だったり、食事が手を抜いた簡素メニューだけど、その中で小さな楽しみを見つけて満足している(あるいは大きな夢に向けて準備をしている)人たちの生活が、脱俗しているかのような透明感があってここちよい………というのは先行作品がたくさんあります。というか同じ雑誌に「くーねるまるた」続いているし(笑)。
かけあうつきひ
福井セイ
毎週金曜更新
芸人を目指し上京した親友の陽と月。
六畳一間の同居生活も、残り500円の食費も、
二人だから笑いに変わる…はず!
大きな夢へのささやかな日常譚、開幕です!!◆作者コメント
どうでもいい情報ですが、主人公2人が暮らすアパートは「東京都杉並区高円寺南の某所」という設定です。さらにどうでもいい情報ですが、作者も近くに住んでます。
ただ、タイトルにも使われているように、「フリーターが一軒家(東京阿佐ヶ谷の、駅から20分の物件だってさ)を、遺産として赤の他人からもらった」というのが、超重要な設定だし、ここに皆食いつくフックだろう。
この件が興味深かったのでいつか書いて、疑問点も同時に提示しよう…と思ってたら、似た記事がネットに載り、twitterトレンドにも一時浮上した。
〈236〉「この家もらってね」。言い遺してあの女性(ひと)は逝った | 朝日新聞デジタルマガジン&[and]
「ユーコさんががんで余命宣告を受けたとき、“私が死んだらこの家をもらってくれないか”といわれて。私は突然の申し出にびっくりしました」
ユーコさんの親兄弟は他界しているものの、仲のいい従姉妹(いとこ)が近所にいるとのこと。血縁のある人がいるのになぜと、不思議に思った。
(略)2016年4月、夫が顔を曇らせて言った。
「ユーコさん、婦人科系のがんらしい。手術して抗がん剤治療をするって」そうなると食事作りも大変だろう。ひとり暮らしだし、うちから歩いて5分。家族5人分も6人分も作るのは一緒だ。自分にできるのはそれくらいしかないから夕食を届けようと、彼女は思いたった。
(略)仕事をしているので、週1回のこともあれば3回のこともある。「無理をしなかったから、続けられました」
毎日でないとはいえ、仕事から帰ってもう一度家を出るのがおっくうな日もあったろう。肉親でもなかなかまねできることではない。自宅に帰っても家族の食事や片付けが待っているのだ。「おふたりに話があるの」と夫婦で呼び出されたのは亡くなる前年の春だ。がんが再発、余命宣告を受けたという。
「私は親兄弟も子どももいない。だからこの家をもらってくれない? 近所の従姉妹も、あの人ならと賛成してくれているの」従姉妹とは夕食を届けに行くとき、たまに居合わせ顔だけは見知っている。ユーコさんの覚悟の表情から、生前整理をしたいのだとわかった。しかしどう答えていいか、言葉が出ない。「私たちは賃貸という形でも十分ありがたいと言いました。でももうご自分で強いお気持ちで決めてらっしゃったので。最後に、ありがとうございます、大切に使わせていただきますと答えました」
ごちそうさまの絵文字メールが届かなくなり始めて半年後の2019年12月、息を引き取った。
ユーコさんは従姉妹に通帳を預け、こうことづけていた。
「私が死んだらエアコン2台を新しいのに取り換えてあげて」最後の入院前にトイレと給湯器も最新のものに換え、引き渡しの時にはハウスクリーニングをするように、すべての段取りを…
しかしこの記事は、老人に「ご飯を作ってあげていた」ら家をもらったのだが、ひらやすみのほうは「ごはんを食べさせてもらっていた」ら家をもらった…のだから徹底している(笑)。
どんなファンタジーにも「リアリティ」が必要。一人暮らしの老人が、死後に空く家を「誰かにあげる」…は、相当に実感を持たせるおとぎ話なのだろう
物語は読み手の願望、願い、「こんなこといいなできたらいいな」を相当に反映する。
だが、一から十まで都合のいい物語は逆に読者が入り込めない。こち亀で「おおっ、なにげないところに1兆円が落ちてた!」というのがあったが、あれはダメッ(笑)
前も書いたけど、転生ものやタイムスリップものは、「主人公が超絶天才なので大成功します」より「転生者が21世紀の科学技術の知識や、物語直の次の展開という知識を持っていたので大成功します」のほうが、読者の中での「リアリティ」があるから読まれているのだと思う。
それと同じで……島耕作バリに、大企業の出世街道をとんとん拍子で上り、社長会長に上り詰める、なんてのより、
「知り合った身寄りのない老人と親しく友達付き合いしていたら、その老人が亡くなり、遺産としてぼろい一軒家を贈られた。経済的にはかつかつの生活だけど、これで『住』に関してはどっしりとした基盤ができた。それも東京都内に…」というのは、実に今の世の中では、それなりにリアリティがあり、されどファンタジーであるという絶妙な設定だと思う。正直、この設定だけで今後の展開とかはあんまり関係ない…ここで使うのは不適当とは自分も半分思うけど(笑)、「センスオブワンダー」だと半分は思うよ、この設定。マジで。
「あげる側」からのリアリティも大きい。
・家(しかも持ち家)は、最後の最後まで自分が使うから、ほかの預金や株とは違い「あたしもあと10年は生きないだろうから、持っててもしょうがない、手放してパーッと…」とはならない。
・その一方で「家」には愛着も大きいだろう。蔵書やコレクションもそうだけど「死んだ後も、今の状態を残してほしい」が一番のニーズであることも多い。「ずっとこの家を、使ってくれる人にこそ譲りたい」は、ナチュラルな感情とも言える。
・昔と違い、家族・親戚との縁も変化し、おしなべて薄くなった。子供や孫がいない高齢者も多いし、昔よりいとこやはとことの交流=そこから生まれる親しみも、めっきり少なくなっているだろう。
・相続の面倒くささや、今の生活に満足しているような環境があれば、上の記事の従兄弟のように、「親しい知人にこの家をあげたい?それもいいかもね」と、自分がその遺産の分け前がもらえないことに怒り、ガツガツと反対しない人だっているだろう。
・おまけに少子化である。ひとりっこ同士が結婚すれば、それだけで「実家の家屋」だけでも2件。単純計算で1件は余るのだ。
・だからいまや「空き家問題」もさまざまなところで生じている。「家」の重みは、相当変化しているし、へたに相続したら解体費用云々まで負担する羽目になったりする。親戚の家が、知らないだれかの手にわたるなんて事件の重大さも減じているのだ。
だから「譲る側」の視点でみても、こういうケースはさもありなん、だと思うのです。
ただこういうのって、法律的にはどうなん?ある意味、詐欺師やヤクザの草刈り場では……
作中では「実際はいろいろあったけど」で済ませてる(笑)。だけど、法律の実際上はどうなんでしょう?結構簡単に「赤の他人に家をあげる」は成立するんでしょうか。
もちろん子や孫がいて、同意しなかったら遺留分だなんだってなるんでしょうけど。
このへん、法律に詳しい人の実務的な解説も知りたいとおもいました。
コメント欄より
キルゴア二等兵
これって「相続税とかどのくらいかかるんだろ?」なんてことは、やっぱ考えちゃいけないんですかね。
あと「阿佐ヶ谷駅」から20分だと、おそらく他にもっと近い駅があるような気がします。
gryphon
それな!相続税な!この場合どうなるん?
guestroom
これは、面白い設定ですね。
いろいろ手続きの前に、このケースだと普通に捜査対象になるような気がしますね。
ざっと整理するとこんな感じでしょうか。
①故人は生前に準備した様子から、公正証書など有効な遺言書があったと推察。
②相続した土地の額は、阿佐ヶ谷駅か徒歩20分程度なら坪あたり150〜200万円程度か。
画像から30坪程度とすると、総額で4500〜5000万円の資産が、主人公のものとなる。
(借地の可能性は否定できないけれど、それでもそれ相応の話になる)
③相続はなされたので、他の親族や法定遺留分も解決済。ということは、他に親族が全くいないか、家一軒を他人に残せるくらい財産があったか。
④それでも、没後3ヶ月程度で登記の変更まで完了。
⑤主人公は、遺産相続のことは知らなかったと主張。
⑥主人公は、故人が亡くなる前夜に2人きりで会っていた。絶対に怪しまれますよね。こうして見ると、和歌山のドンファンと似た構図ですね。
個人的には、都会の空き家問題にもつながるので、この方向の話題を盛り込んでくれること期待します。近所のお節介が告発とかしないかな。
gryphon
あー、ナレーションとか「信頼できない語り手」かもしれない…この設定で、たしかに「実は…」のミステリーも描ける