朝日新聞記事『(日曜に想う)皇帝ネロ、落書きが覆す「暴君」 ヨーロッパ総局長・国末憲人』より
第5代ローマ皇帝ネロ(紀元37~68)といえば、希代の「暴君」として名が通る。16歳で即位。母や妻を殺害し、64年のローマ大火の責任をキリスト教徒に帰して迫害した。芸術にかまけて統治を怠り、元老院から「国家の敵」と名指しされる。30歳で自ら命を絶った後、胸像や碑文は削られ、痕跡が抹消された。
ところが、そのような評価が近年大きく変わってきた。彼が実は「名君」だったというのである。
ローマのコロッセオに隣接する丘に、ネロが築いた「黄金宮殿」が……
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ネロはどんな皇帝でしたか。
「考古学的視点から探る限り、極めて有能な君主だったと考えられます」
なのに、なぜ「暴君」の汚名を?
「一種のポピュリストだったネロは、大衆の支持を背景に政治を進めたため、元老院など支配階級と対立しました。だから、死後否定的に扱われたのです」
元老院議員だった歴史家タキトゥスらの著作と、後の小説や映画は、ネロに暴君のレッテルを貼った。その評価を覆した一つが、当時の庶民の落書き……
ネロ死後の79年、ベズビオ山噴火による火山灰でポンペイは埋没した。その結果、普段なら消えてしまうはずの落書きが、現在に伝えられた。
ポンペイの他の落書きにも、ネロの名は多いという。ローマでは、いたずらで描いたネロの似顔絵も残されている。
「エリートによってつづられた公式記録がネロを悪者扱いしたのに対し、落書きは庶民の受け止め方を物語ります。彼は大衆人気を誇っていたのです」
特別展を企画した同館のトルステン・オッパー上席学芸員(51)が説明する。
ネロの死から28年後、ローマでは「五賢帝」の黄金時代が始まる。その際に称賛された政策――税制・通貨改革や古代コンクリートによる街づくり、東方への領土拡大は、いずれもネロの治世に基盤が用意された…(略)
書いた国末氏の写真付きツイート
改革を断行し、大衆人気を誇った皇帝ネロが「暴君」の汚名を着せられたのは、つくり話が事実に取って代わったからだった。 文字を刻む行為は、歴史づくりに参画する営みに他ならない。偽りを大著に記すより、事実を片隅に遺す者でありたい。自戒の念も込めて。拙稿コラム。https://t.co/baE7MXVICA
— 国末憲人 Kunisue Norito (@KunisueNorito) July 24, 2021
ちなみにこちらは、コラムで紹介しましたが、ネロをたたえるポンペイの落書き。有力者宅のキッチンのしっくい壁に刻まれたものだそうです。大英博物館で開催中の特別展「ネロ 虚像に覆われた男」で展示されています。 pic.twitter.com/rfAFAHidv9
— 国末憲人 Kunisue Norito (@KunisueNorito) 2021年7月24日
五賢帝の政策と、ネロの政策がどの程度共通しているのかは今後知りたいと思うけど、ちょっと一般論的にいうと「暗君伝説」は本当に無能力と言うより”反対派が多い政策を実施した”人間が多い、という説はよく聞く。
中国の巨大運河の創設者である隋の煬帝、生類憐みの令ーーこれは犬優遇とかより「日常的に暴力沙汰刃傷沙汰の起きる戦国の気風の矯正策であった」と今は言われるーーの徳川綱吉などなど。
ただ「庶民に愛された」=「賢君」を「落書き」で分析できるかどうか。
ネロが主要部分でポピュリズム、ローマ市民の直接的な人気取りを重んじるタイプだったことは事実だろうし、庶民はなんだかんだと、直接王と触れ合うと恐れ入り、そのこと自体に感激するものだ。なんだかんだと言っても今の選挙ですら「握手した数以上の票は出ない」と言われるのだから。
逆に、生類憐みの令のように、今の社会を大きく数十年単位で変化させていくような政策は反発も多い。
そしてその庶民の不満を「押さえつける」機能があるかどうかも関係してくるし。
田沼意次は庶民の政権風刺を止めなかった(止めるような政治的体力がなかったのかもしれないし、そもそも庶民を重んじていないから悪評も眼中にないかもしれぬ。ひとくちには言い難い)から悪評が残った、とも言われる
……大火のローマを見下ろしながら歌を歌っていたなど、指導者としての資質を疑われる逸話が残る。しかし、その多くは創作の可能性が高い。「現代のフェイクニュースと同じです」とオッパー氏。つくり話が事実に取って代わり、ネロのイメージを築いたのである。
ならば、同じことが現代でも起こりうるだろう。本物と偽物が入れ替わり、フェイクニュースがいつの間にか大手を振る。うかうかすると、トランプ前米大統領が「名指導者だった」などと位置づけられる日だって、来ないとは…
この大火のエピソードは創作らしい、という話は有名だけど、ただ名君伝説だって多くは創作だろう(仁徳天皇の民のかまど話のように)
そしてまた、これはコラムにオチをつけるという意味もあるけど、まさしくトランプが「庶民の落書き」的なものから歴史を発掘すれば、名指導者扱いされかねないポピュリストであり、熱狂的な庶民のトランピストを抱えるタイプの人間。
それは、国末氏の同僚が描いた「ルポ トランプ王国」が如実に記している……はずだ。
「カリフォルニア、ニューヨーク、ワシントンは、オレたちとは違う。あれは 偽のアメリカだ…ここが本物のアメリカ だ、バカ野郎!」
「トランプが美しい壁を造るんだ」
「どう説明すればいいのか分からないのだがな、私は彼を見ているのが楽しいんだ。しんどい日も彼は私を笑わせてくれる。ニュースを見ていたくなるんだ」
「トランプは私達と同じ言葉を話す」
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そして最後に、ネロも重要人物として登場した漫画「プリニウス」が最終章に入っている。
一方でセスタスはまだまだ続くが(笑)、アニメではネロらの登場する前半がおもいっきり飛ばされた(笑)