ナメクジは、大人になってからでも、エサを与えられ続けると、1カ月半で体重が10倍近くになるまで太らせることができます。これもある種、ヒトにはまねできない能力?かもしれません
この本の106Pに、そう書いてある。
ほかのところでも、「食べさせれば食べさせるほど、体が大きくなる」と念押ししている。ちなみにその逆に、仮に食べさせなくても、湿り気さえあれば1カ月は生きているのだとか。
さらにダメ押しすると「ひとたび大きくなった(太った)ナメクジは、絶食してもほとんど痩せない」という特徴があるらしい。同書では、わざわざ太字で強調している(115P)
ナメクジ博士が明かす知られざる「脳」と「生態」のすごい話!
- 作者:松尾 亮太
- 発売日: 2020/05/21
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
どこからともなく現れ、銀色のスジを残して這うナメクジ。農作物の害虫であり英語ではのろまの代名詞でイメージは悪い。2018年にはナメクジを生食して死亡した豪州男性のニュースが話題を
呼んだ。だが、ナメクジの脳を研究して19年の著者によれば、人間には及びもつかないすごい「脳力」があるのだ。「学習」と犬並みの高度な論理思考ができ、苦悩もする。脳の出先機関である触角に
記憶も保存できる。脳も触角も壊れると勝手に再生し、眼がなくても脳で光を感知できる。しかも脳の真ん中を食道が通っている!本書はそんなナメクジのすごい「脳力」とふしぎな生態(呼吸とうんちは同じ孔、頭の横から産卵など)を軽妙なタッチで紹介する。ヒトにはまねできないナメクジの脳力は、ヒトのあり方だけが
最良ではないことを教えてくれる。最終章では著者のナメクジ研究生活の悲喜こもごもが語られ、陽の当たらない研究こそが実は醍醐味にあふれていることがよくわかる。
常識と非常識が入れ替わる楽しいナメクジ脳の世界へようこそ!
ナメクジの巨大さ、といえば、やはり古今亭志ん生が遭遇した「なめくじ艦隊」を想起するであろう。
名人上手の描写ってぇのは、こういうものだ。
……いるのは蚊ばかりかと思うとそうじゃァない、蝿がいて、なめくじがいて、油虫がいて、ネズミがいるってんですから、人間のほうがついでに住んでいるくらいのものであります。
地面か低くって、年じゅうジメジメしていて、おまけに食いものがあるてえことになると、なめくじにとっちゃァ、この世の天国みてえなところとみえて、いやァいましたねえ。虫の中の大看板はこいつです。出るの出ねえのなんて、そんな生やさしいものじゃアありません。なにしろ、家ん中の壁なんてえものは、なめくじが這って歩いたあとが、銀色に光りかがやいている。今ならなんですよ、そっくりあの壁、切りとって、額ぶちへ入れて、美術の展覧会にでも出せば、それこそ一等当選まちがいなしてえことになるだろうと思うくらい、きれいでしたよ。
かかァが蚊帳の中で、腰巻一つで、赤ん坊ォおぶって、仕立物かなんかの内職をしていると、足の裏のかかとのところが痛くなったから、ハッとふりかえると、大きななめくじの野郎が吸いついてやがる。 なめくじがこんな助平なもんだとは、あたしゃァそれまで知らなかった。
なめくじといったって、そこいらにいるような可愛らしいのじゃァない。五寸(15cm)くらいもあって、背中に黒い筋かなんかはしっているのが、ふんぞりかえって歩いている。きっと、なめくじの中でも親分衆かいい兄ィ分なんでしょうねえ。
もうそんな奴になると、塩なんぞふりかけたってビクともしやしない、キりで突いたっててんでこたえない。血も出やしない。血も涙もねえ野郎ってえのは、きっとあァいう奴のことをいうんでしょう。 しようがねえから、そんなのを、毎朝、十能にしゃくっては、近くの溝川(どぶがわ)へ捨てに行くんだが、出てくる奴のほうが多いから、人間さまのほうがくたびれちまう。
夜なんぞ、ピシッピシッと鳴くんですよ。奴さんにすれば、歌でも歌ってるつもりだろうが、あいつは薄ッ気昧のわるいもんでしたよ。
なめくじは、別にあたしの家ばかりじゃあない。長屋じゅう同じなんですよ。一つしかない水道の回りに朝なんぞみんな集まっては、
「ひょっとすると、東京のなめくじが、みんなウチの長屋へ集まって来てんじゃないかねえ」
なんて話をしている。
- 作者:古今亭 志ん生
- 発売日: 1991/12/01
- メディア: 文庫
- 作者:古今亭 志ん生
- 発売日: 2005/01/01
- メディア: 文庫
してみると、志ん生の住んでいたこの長屋は、案外(なめくじにとっては)ずいぶんと栄養のあるものがおかれていたのかもしれない。
しかし、この江戸の伝統と経験によって得られた五寸のおおなめくじに、京大出身者は論理とデータで挑むのである。
なぜナメクジは、一方的に体が大きくなるのか。
実は、ナメクジは体が大きくなると、DNAそのものが体内で倍増するのだ。これ、すごくね??
RNAが増えるとか、その結果としてタンパク質が増えるとかじゃない、大元のDNAそのものが増えるのだ、体内で。
こうやって大きくしたナメクジは、脳の前頭葉をピンセットで潰すとか、逆に脳を取り出して、シャーレに移して様子を見る、というヒドい実験が行われる。前者は1カ月で「脳が再生」し、後者は「ブドウ糖などを入れた培養液を入れておくと、脳だけでもシャーレで数日生きている」という。実験には大変重宝だとか。
あ、そういう実験の中には「なめくじから脳を取り出して、別のナメクジの腹の中にその脳を移植する」ちゅう実験もあるとか。
この本には、「ナメクジの飼い方--ご家庭で簡単に飼えます」という章があり、やや詳しく飼育法を説明しているので、夏休み(今年あるのかなあ…)の自由研究などで、ぜひ「1カ月でなめくじ、大きく育ててみた」をお子様と一緒にトライしてみてください。
もっと詳しいマニュアルは、この本にあるとか。
研究者が教える動物飼育 第1巻 -ゾウリムシ,ヒドラ,貝,エビなど-
- 発売日: 2012/05/25
- メディア: 単行本
こういう本を書く著者は現福岡女子大教授だが、はたして「京大出身者」だった。
やっぱり、
またも、
そうだ。
「またも」というのは、この前カラスの本読んだばっかりだから。
m-dojo.hatenadiary.com
第6章で
「研究者になった理由」を、筆者の松尾亮太氏は列挙している。
1・昔、母に「好きなことをやって生きろ」と言われたから
2・研究者(大学教員)がものすごく楽そうな仕事に見えたから
3・せっかく大学で一生懸命勉強したことを生かさないのは勿体ない、と思ったから
4・学生のころ、父に「飲みたくない酒を飲まないといけないような仕事には就くな」といわれたから
5・研究が好きだし、自分には適性があるような気がしたから
6・スーツ、革靴が嫌いだから
なめとんか。
本人も、この列挙理由ではまずいと考えたのか、その後項目ごとに補足説明をしているが、書けばかくほど墓穴を掘っている。
で、その2の補足説明で
「さて無事大学に合格し、4年間は京都大学理学部で学んだのですが、当時のこの大学の教員は、学生の眼からみて非常に気楽に生きているように見えました。講義の準備はロクにせず、講義時間の大部分は与太話か…(後略)」
6の補足説明では「革靴ではない」という否定形だけでなく、もっと具体的に「400円のクロックサンダルもどきを履いて会議に出席しても大学は許されるのだ(と信じる)」と主張している。
まあ、育てた京大もスゴイが、こんな危険人物をかくまっている福岡女子大もただものではない。
かの研究室では、「令和なめくじ艦隊」が、日々栄養を摂取しては巨大化を続け、出撃のその日を待つ_______(了)
研究内容
嗅覚忌避連合学習
ナメクジは、食べてみて不味かったものの匂いを覚えることができ、学習するとその匂いには決して近づかなくなります。さらにこの記憶は、一回学習しただけで何週間も続きます。この学習記憶に脳をどのように使っているのか、行動学、分子生物学、電気生理学、組織化学の手法を用いて調べています。中枢神経系の自発的再生
ヒトの脳は、脳卒中などで損傷を受けると、組織レベルで再生することはできません。しかし、ナメクジの脳は自発的な再生能力が高く、そのもっとも分かりやすい例が、切断された触角の再生です。触角先端部には、神経節や嗅上皮、眼などの神経組織が集まっており、これをゼロから再生することが可能なのです。また、脳自身も神経新生を介して失った部位を再生することができます。核内DNAの増幅
通常、動物の体細胞の核は、父母由来の1組のゲノムDNAから構成されています。しかし、ナメクジをはじめとする軟体動物腹足類の中枢神経系には、ゲノム全体を2倍、4倍、8倍・・・と倍々に増やすことで大幅にDNAを増やし、タンパク質などの物質合成能を高めているニューロンが多数存在します。このようなニューロンが何故どのようにできるのか、調べています。光感知機構
ナメクジは、暗い場所を好む性質(負の光走性)があります。そして、触角(大触角)の先端には眼が備わっています。この眼をどのように用いて暗い場所に行くことができるのか?、そして眼以外の器官で光を感知しているのではないか?といった点に着目して、研究を進めています。