【はじめに】
※実体験を元に、小説風になめくじ退治のおはなしを書きました
※なめくじの画像をあまり見たくない、という人は避けることをお勧めします
※残虐な画像なども一部には含まれています
サンタクロースをいつまで信じていたかなんてことはたわいもない世間話にもならないくらいのどうでもいいような話だが、世の中にはムシキングだの、みつばちマーヤだの、あるいは王蟲の力でゾンビ化した風の谷のお姫様など、虫けらと心を通わせることができるという幻想がある。これらについても、おれは確信をもって言えるが最初から信じてなどいなかった。
昆虫も、その周辺のリンネ先生の分類学によれば昆虫ではなくなる各種の小動物も、人間の味方でもなければ敵でもない。あれはあれで勝手に生きているもので、そこに善悪はないし、それぞれにはそれぞれの正義があるんだ、ということは連邦軍とジオン公国の戦争からとっくにまなんでいた。それでも学校生活を送っていれば、同じ女性の集団でも、積極的に交流したいかたと、あまりそうではないかたがいたりする(女性にとってはもちろん逆方向に同じだろう)。ならば虫(この言葉に、昆虫以外の各種小動物も含める)に関しても、人間の美観、主観に沿って歓迎される虫と歓迎されない虫というのは出てくるものだろう、というのは現実的認識として受け入れざるをえない。ヒンズー教徒の国でもないくせに、スクールカーストとかいうものがある学校生活の当事者がいうのもなんだが、「虫カースト」というのも相当なもんだ。やれやれ。
ここまで書いても本題に入れないのだからライトノベルというのは相当非効率な文芸なんじゃないかと思わないでもないが、それは俺の能力不足なのだろう。というかライトノベルはほぼ数作品しか読んでいないのに書いてるのが問題だと思うが、まあいい。
ライトノベルのいいところは、唐突に話題を変えられるところだ(偏見)。つまり、上の独白で俺が何をいいたいかと言うと、虫に上下の価値などナンセンスで、どの生き物も平等だといっても、やっぱりなめくじはいやだよね、ということだ。
だから、俺はこの学校で、半ば無理やり入部(創部)させられたといえ、この「NOK団(なめくじを大いに駆除する団)」で活動しているのだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「あんた、また遅刻よ!最近たるんでるんじゃないの?それだからこの学校に、まだこんなになめくじが多いのよ!!!」
葉っぱについた元気いっぱいに伸縮するなめくじを手で示しながら、NOK団の団長を自称する俺の同級生が吼える。
一応ことわっとくけど、俺はこういうライトノベルのお約束(らしいと俺が数作だけをサンプルに思っているもの)を臆面もなく出していくぞ。そうしないと間が持たないし、盗作ぎりぎりになることもおそれずやっていく。
で、お約束に従って、この団長はすごい美少女だったというわけだ。通常の女子高校生がそのへんの庭で発見されるなめくじだとしたら、こちらは古今亭志ん生師匠の長屋に出没し、おかみさんのかかとにかみついたという超ドレッドノート級なめくじ。それぐらいの差はあっただろう。
ま、そんなことはどうでもいい。
彼女がなんでNOK団なんてものを作ったのか、その真意を俺はまだ聞いたことはない。
両親がなめくじのせいで命を落としたといううわさも聞いたことがあるが、その真偽もわからない。
ただし、なめくじへの敵意は本物で、
「かたつむりには興味はありません。 チャコウラナメクジ、キイロナメクジ、アシヒラナメクジ、ヤンバルヤマナメクジなどがいたら、あたしが殺します。以上」
とか、最初のホームルームの自己紹介で言ったときは、クラス全員がおどろいたもんだった。おれもおどろいた一人だが、まあなめくじを駆除してくれるというのならそれは応援したいというか、邪魔をする気は毛頭なかった。手伝う気も、さらに毛頭無かった。
それがNOK団に入っているのは、たまたま席が隣だったという不運のせいだ。
だから冒頭の俺への部長の批判は半分ばかり正当で、最近というか入部からずっとたるんでいるのだ。なめくじの増殖というのも、正直、ひと事だった。
そう、あの日までは−−−−−−◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
あの時、俺は本校舎から体育館につながる渡り廊下を歩いていた。そこは湿気が多く、たしかになめくじがたくさんいる、ということは知識として知っていた。だが、やはりひとごとのように思っていた。
その時、おれは裸足だった。梅雨時に体育の授業でサッカーを強行されたもんだから、靴と足が泥まみれになっていた。渡り廊下の近くにある洗い場で、足を洗おうとおもっていたんだ。
蒸し暑い夕方だった。
はだしのまま、歩く俺の7歩目だろうか、8歩目だったろうか―――むにゅう
という感触と、擬音ではなくはっきりと空気を振動させて
「ぷちん」
という音が聞こえてきたのに、コンマ1秒の差もなかったろう。あまり思い出したくもないが、なめくじをはだしで踏んだときの感触について、もう少し詳しく説明しようと思う・・・。
なんといっても、なめくじの持つ弾力というものはたいしたもんだぜ。
俺の体重の半分程度が掛かったとしても、30キロ近い重量のはずだ。それに対して、いったんは耐えるような、抵抗を見せたんだ。たんにぺしゃんこに踏んづけただけなら、俺もトラウマにはならなかったと思うな。
この後、自分は結果的に多くのなめくじを手にかけることになるが――そのときも、相手の物理的な攻撃に対して、南斗聖拳の使い手の部下のように、その弾力と柔軟性で衝撃を吸収していった。あれは敵ながらみごとなもんだ。
水風船とこんにゃくの触感の、気持ち悪い部分を集めたような――ーそんな感触がするんだ、なめくじを裸足で踏んでつぶすと。
つぶれるときの音は、思ったより高音だったな。歩行中の圧殺だから、なめくじをつぶした足は、真上からおろしたわけではない。やや斜めに接地したから、つぶれたなめくじの体は、やや引きずられたような形になった。
みなさんは、なめくじの内臓を、みたことがあるだろうか?
よく見ると、色はほんのすこし、内臓が赤みがかっているんだ。
だけど、軟体動物だから、外皮部分も粘液に包まれている。写真は別の個体だけど、おれが踏んだなめくじは、内臓も外皮も区別がつかなかった。たぶん、俺の精神的な動揺があったんだろう。
これは少し内臓がはみ出た、なめくじの写真だ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
俺は、放課後、珍しく一番乗りでNOK団の部室に乗り込んだ。
「なんでい、今日は早いじゃねえか」
「・・・俺が間違っていたようだ。たしかに、なめくじは、倒さなければならない」部長は、太く笑った。笑い声が、太かった。
「そのようすだと、お前さん、やったなぁ」
「何がだ」
「もちろん、なめくじ狩りをだよ」
「狩ろうと思って、狩ったわけじゃないがね」
「そんなのはどうでもいいことさ。つぶしたか、焼いたか、塩をかけたか、それも関係ねぇ。―そして何より、楽しかったろ?」
―――。
「そういう気持ちも、皆無ではなかったかもしれない」
ほろりと、いった。
「うれしいねえ」
部長が、こたえた。
「あたしも、NOK団なんてごたいそうなものを造っちまってよ、団体なんてのを持つようになっちゃお終めえだな。自分で造ったものに振り回されて、大好きななめくじ狩りが、自分じゃできなくなっちまう−−」
「なめくじと戦うのが、好きですか」
「おう、好きだよ。大きななめくじを狩るのも小さななめくじを狩るのもみな好きだ。伸び縮みする長いなめくじに塩をぶっけかた時なんざたまらねえな。あんただってそうだろう?」
「好きです」
先ほどと同じように、ほろりと言った。
「そうとくりゃあ、話ははええや。NOK団の総予算を使って、なめくじをぶったたくための準備をするんだ」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
そして、俺は、ホームセンターへ向かった。
有名メーカーの作る、「なめくじ退治の粉末剤」「なめくじ忌避の粉末剤」のふたつを購入し、決戦に備えた。巷では「対なめくじの双璧」とされるものだ。
しかし、この薬の利用は意外な結果を生み、そしてある人物を歴史の舞台に登場させることになる・・・・。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「守備隊は、惰眠をむさぼっていたのか!!」
NOK団の団長の怒声が、沈黙する俺たちの文まで補うように響いた。
「申し訳ございません、たしかに忌避剤は二重、三重にラインを引き、殺すための薬も各所に点在させ、完璧な防御線をひいたのですが・・・」「この渡り廊下回廊は、なめくじ帝国の裏庭になったとでもいうのか!!貴官と同様に、はだしでなめくじを踏んづけるという、テロ行為の犠牲者はまったく後を立たない。これではNOK団自体の存続が問われよう」
「早急に対策を立て直さないと・・・君たちはどう思う?」「ええと・・・では少しいいですかね」
いすではなく、なぜか机の上に座って紅茶をすすっていたこの男は、俺と同じクラスで、NOK団の部員だ。本来は歴史研究部を志望していたのだが、歴女が多く加入して定員オーバーということで、やむなくここに入部したという。
「私は少しばかり歴史をかじったことがあります。古来、あるラインから相手を遠ざけるという忌避戦術は、ゲリラ的に展開する敵軍にはあまり効果がありません。けだし、敵は攻撃の時期も場所も自由に選べ、こちらはそのラインの防衛に執着する、という時点で、敵に主導権を握られているからです」
「また、攻撃のための粉末剤ですが・・・言い訳のように『なめくじが暗い場所に入っててから死にますので、死体がめだちません』と説明書には書かれています。古来、安全地帯からものをいう軍需産業の連中はこういう煽り文句で、自分の企業の物資の大量使用を促そうとします。効果は確実に挙がっています、見えないところで相手は苦しんでいます。あともう一度この薬を買えば・・・と。ふふ、国民の血と税金というのは、彼らにとってはよほど美味であるようです」、
「従って、もう一度、これらの問題に対し、正反対のアプローチをしてみることが必要だ、とささやかな人類の歴史は教えています。すなわち、ラインを引いて敵をそこから拒否するのではなく、むしろ敵軍を一点に集中させること。そして誘引した敵軍に損害を与えた時、その戦果を確実にカウントできること」
ぼそぼそと、興味なさげに語ったが、それは戦術思想を劇的に一変させる革命的な発想だった。
前の失敗に終わった作戦の責任者として、俺は尋ねた。
「しかし、そんな作戦を実行するための武器はあるのか?どこのメーカーが売っている?」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇別のところから、声が飛んだ。
「アサヒでも、サッポロでも、キリンでも良い。卿が購入した薬の棚から離れた場所、酒の商品棚にその武器は山と詰まれていよう」彼は一年の、新入部員だ。鮮やかな金髪がひときわ目をひく。
だが、生意気な孺子(こぞう)だ。
「そんな話は多少きいたことがあるが、都市伝説のたぐいじゃないのか?専門のメーカーがそれ専用に開発した薬より効果的だとは思えんが」新入部員は、軽い冷笑を浮かべながら金髪をかきあげた
「なるほど、卿は説明書を読みこなし、用法どおりに使うという範囲では名将らしい。だが、なめくじに説明書の効能書きどおりにやられてやる義務はなかろう。もはや議論のときではない!実行あるのみ!!!豊穣な麦の恵みを持って、不逞なるなめくじどもを大量にヴァルハラに送り込むのだ!!」
俺はやや不愉快だったが、寛容を旨とする男として、この生意気な孺子(こぞう)と、歴史と紅茶好きの同級生に従うことにした。高校生のビール購入や、それを学校まで持ち込む苦労は割愛する。また「ビールの飲み残し」が必要だが「全部飲んじゃった場合」はどうするか、といった問題も控えていたが、これらは後日語ることもあるだろう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その戦果は、おどろくべきものだった。
或いは戦闘でなく、一方的な虐殺だと後世の歴史家は評するかもしれない。
しおからのように、小瓶にぽちゃりと漬け込まれたなめくじ。
今まさに、ビールの海の中で溺死しかけ、のたうちまわるなめくじ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
以下、無用のことをのべる。
軍事的天才、についてである。
このふうがわりな才能は、贔屓目に見てひとつの民族が、その長い歴史の中で1人、2人生み出せればいいものであり、またこの才能はほかの仕事に転用できるものではない。
その軍事的天才が、NOK団という特殊な環境に、同時に二人もあらわれたのは、奇妙なことのようにも、奇跡にもおもわれる。
この物語は、それらの軍事的天才が、軟体動物という哺乳類以上にふるい生物のひとつと、どのように対決し、どうふるまったかということを書こうとおもっている。
このふたりがいないならいないで、あるいは平均的な学生がその席をうずめたかもしれないが、、あるいは学校は渡り廊下を含めてなめくじの支配地域になっていたかもしれないという大げさな想像も、できぬこともない。
余談が、すぎた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
一匹、このビールの地獄におちることを免れたなめくじがいる。
灰皿のふちで、いわば、なめるようにして、ビールを味わっている。
このとき、なめくじを誘い込むのに必要な小瓶が、小国のかなしさで払底していた。
陶製の灰皿などという、いわばまにあわせのものを、この重要な戦闘のときに動員していた、ということが、ひとつの対なめくじ戦の風景のひとつである。
いきおい、ふちの部分が大きく、バランスをいわばとりやすい。「白兵戦じゃな」
金髪の孺子が、つぶやいた。そのつぶやきが、そのまま、軍事的必要性に基づく合理的な命令だった。つまり、ビールを飲んで酔ったなめくじが、落ちて溺死するーー確実に効果をあげているとはいえ、不確実なその戦果をまたず、よってきたなめくじを物理的に攻撃し、死にいたらしめよ、ということである。
この地は、なめくじが根拠地としているだけあって、緑に富んでいる。
自然、小枝も数え切れないほど、地面に落ちている。
この枝が、兵器となった。強烈な突撃によって、にわかにこの地はなめくじの出す粘液に染め上げられた。
なめくじ狩りというもののの思想的善悪はさておき、この突撃力、打撃力を生かした白兵戦はすぐれて戦術的というより戦略的な意味合いをもっていたように思われる。ともあれ、メーカーの専門的な薬ではなく、どこにでもある、ビールによるなめくじ退治は空前の戦果を挙げた。
立案者は、酒ではなく、その戦果に、血の色をした夢に酔ってよかったであろう。しかし、彼らの感想はちがっていた。
「おわってみれば、なめくじ狩りも、むなしいものだ」
この言葉を、ふたりの軍事的天才のどちらがいったかは、歴史は沈黙している。
しかし、これを偶然聞いた学校の職員は、不思議そうになんども、ひとつばなしとして周囲に語って聞かせたという。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その後、時代はめぐり、盆を迎えた。
盆の際、来客にビールがふるまわれる。普通のビールも、ノンアルコールのビールもあった。
しかし、何件も回る来客のほうはひとくち、ふたくちで済ませる人も多い。
自然、大量の――――当時の国力からみて、空前の−−−−余剰ビールが生まれた。
そのビールを使い、同じく空前のなめくじ狩り作戦が展開されようとしていた。
使った容器も、注がれたビールも・・・
しかし、それについては稿をあらためる必要がある。
西暦2012年、宇宙暦紀元前789年。
まだ人類も、なめくじも、自らの運命をすべて予見してはいない。
【完】
イラスト作者 https://twitter.com/kit90126
なんか中盤から息切れして、いろんなものがまざったような気がするが、とりあえず完結!!
しかしどう考えても、普通に
「ビールでなめくじが退治できます」とか
一般性があるエントリにしたほうがよかったよな・・・
【2012,11,20追記】こちらにも、なめくじが刺殺される写真があるので、参考にリンクを張っておく。
虫村の日記〜なめくじ
http://d.hatena.ne.jp/kazuyo1014/20121120/1353373441