こんな記事を、少し前に書きました。
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コンテナ物語 世界を変えたのは「箱」の発明だった 増補改訂版
- 作者:マルク・レビンソン
- 発売日: 2019/10/24
- メディア: 単行本
この本、評判通り大層おもしろかったのですけど、その紹介をひさびさに梶原一騎風(というかプロレススーパースター列伝風)に、やってみたいと思います。
なぜそういうふうにやるのかに、特に意味はない。ふつうに書くより、だいぶ疲れるんですけどね…
過去に「科学者スーパースター列伝」のシリーズを書いていたけど、
科学者スーパースター列伝
■科学者スーパースター列伝・元素の魔術師!メンデレーエフ
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20080919#p1
■科学者スーパースター列伝 電気の神様!マイケル・ファラデー
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20101007/p4
■科学者スーパースター列伝 夢のPC砲!パスツールとコッホ
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20111005/p2
■科学者スーパースター列伝「大王の狩人(イェーガー)!! 窪寺恒己」〜副題:青いジャングル
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20131008/p1
この前に、ほんの少しだけ描かれた「第0回」が発見、復刻されました。■科学者スーパースター列伝(第0回)放浪の数学者!ポール・エルデシュ
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20130414/p1
今回は「ビジネススーパースター列伝」第1回、と言ってもいいかもしれない。
ビジネススーパースター列伝 世界を変えた箱!!コンテナ輸送
事実を事実のまま 完全に再現することは
いかに おもしろおかしい
架空の物語を生みだすよりも
はるかに困難である --- (アーネスト・ヘミングウェイ)
これは 事実談であり …この箱は実在する!(当たり前だ)
この コンテナの一代記を 読者に伝えたい一念やみがたいので
アメリカのノーベル賞作家 ヘミングウェイのいう「困難」 に
あえて挑戦するしかない… わたしたちは 真剣かつ冷静に
この箱をみつめ…そして その価値を 読者に問いたい…‼️
今や、地球の物流を一手に引き受ける存在となった、コンテナ!!
この世界を変えた発明を生み出した男の名は…マルコム・パーセル・マクリーン!
トラック一台から身を起こした運送業界の風雲児であった!!
遠出認可が必要だった輸送ルートを他社から買い取って運営する、自分たちの持つルートと反対側のルートを取得して往復で荷物を運べるようにする…などの斬新なアイデアで業績を伸ばしていたマクリーンは1953年、途方もないアイデアを思いつく!
「チェっ…このハイウェイ渋滞年々ひどくなりやがる…おまけに戦争が終わって政府がただ同然で船を払い下げて海運会社が元気になってやがる。クルマじゃ不利だ」
「いやっ、待て!!!も、もし車のトレーラーを、そのまんま船に載せて運べば??」
世界を席巻する、コンテナ輸送の幕開けであった!!
このアイデアを引っさげたマクリーンの会社は、途方もないことを思いつく!
ニューヨーク市のむかいにあった、名前も一字ちがいの「ニューアーク港」。港湾局とタッグを組んだマクリーンは、ここをコンテナ輸送向けの港に改造する!
「港の周辺にターミナルを建設したい? ハテ、この港の町の一等地に、そんなものを作りたいとはいかにも奇妙だが…こっちとしてはビジネスチャンスだ。土地を確保しこちらで整備しようじゃないか」そして…
「我々はウォーターマン海運を買収する!」
「シャ、社長! あそこは無借金経営で資産に船37隻、現金2000万ドルを持つ優良会社です。それを買うには途方もない高値をつけねばいけません。だが社には、そんな余裕の資産がありませんよ!‥アワワ」
「ウフフッ、まあ見ておれ」
マクリーンは電光石火の早業でウォーターマン海運を買収!そして…買収すると即座に、ウォーターマン海運に「利益配分金」をマクリーンへ会社に支払わせ、それでもって買収金額を賄ったのだ!!!
なんとも奇想天外!!
買収先の資産を担保に資金を借り入れて買収する…宇宙時代の新必殺技「LBO(レバレッジド・バイアウト)」が誕生した瞬間だった!!
しかし、会社だけ作って肝心のコンテナの実物がなければ、 全くのおてあげ……
しかし、コンテナの神様がいるとしたら、その神はマクレガーを見放さなかった! ここに天才技術者タントリンガーを用意したのだ!
「貴様かッ!1949年に長さ30フィート(9メートル)のアルミ製コンテナを設計したというタントリンガーとやらは!」
「ハー、そうですけど…」
「なら話は早いっ、 長さ33フィートのコンテナは作れるかな?これならT2型タンカーのスペースに収まるっ」
「なっ、なんたるムチャを!!」
「それでビビるのはチト早いぜっ、四つの隅にスチールの固定金具を取り付けて、金属フレームに8列並べるようにしてくれっ…そして……そのコンテナは船、トラック、鉄道!この三つに容易に積み替えができる『ミラクル3』でなければならない!!」
「マ、マクリーンさん、あなたはお見受けするところ、相当のバカらしい…とてつもない、運送バカ!いいでしょう、そのバカに、わたしも望んでなろうじゃありませんか!!」
素晴らしい協力者を得たマクリーンのコンテナ事業は順調にスタートし、瞬く間に 世界の注目を集めた!!
だが!!ライバル会社「マトソン海運」は、潜水艦発射ミサイルポラリスの開発にも関わった地球物理学者フォスター・ウェルダンによる、計算されたアプローチからのコンテナ輸送ビジネスに乗り出す。
彼はその頭脳と計算から、コンテナの大きさは20から25フィートサイズが最適とはじき出した!
が…ここで全ての海運業者に立ちはだかる、思わぬ敵が現れた!!
「荷物を箱のまま車から船に、そして再び車に乗せる…だと!!しゃらくせえ!この泣く子も黙る港湾労働者組合に断りもなくそんなイロモノ輸送が、できると思ってるのか!!」
首尾よく巨大海運に成長したマクリーン社だったが…
ここに巨大な敵が立ちふさがる!!!そう港湾労働者の組合「ILA」である!!港町の文化とは、すなわち港湾労働者の文化である!
喧嘩早く誇り高く、その日その日、己の肉体一つで稼ぐ結構な銭をふところに、刹那の人生の楽しみを謳歌する!
その一方でまずは港の埠頭に集まり、ボスから仕事のお声掛をしてもらわないと一銭も稼げない。おべっかや袖の下も一方では横行する厳しい社会…それに対抗するように生まれる労働組合は、 その圧力に対抗するためによりタフで、より過激な団体になった!彼らの忠誠心は会社ではなく仲間にある。仕事時間は不規則だから勤務時間の決まっている一般の労働者ではなく、港のコミュニティだけで団結する。
船の具合によっては何日間も稼ぎがないこともあれば、「今日は怠けて釣りにでも行こうか」と勝手に決めても誰にも文句を言われない… 。
そんな文化は受け継がれ、息子も兄弟も孫も、港の仕事をやるということが珍しくなかった!1950年代半ばイギリスで大規模な港湾ストライキが発生した時、時の首相マクミランはこう暴言を吐いた!
「港湾労働者は度し難い。あいつらの仕事は世襲だから知性はいらないんだ……貴族院議員のようになっ!!」
そんな連中が大幅に仕事を省力化するかもしれない「コンテナ船」に目を付けたからさあ大変!!
口達者なアイルランド人トーマス・グリーソン、オーストラリア生まれの己に厳しい修道僧のようなハリー・ブリッジズ!!実は犬猿の仲であったこの二人の組合指導者が全く対照的な形で、このコンテナ問題に直面する!!この激烈な組合闘争とその解決が、また歴史を大きく変えたのだが、それはまた別の話…(ほんとはここも詳しく書きたかったが、体力が尽きた)
その後のコンテナ輸送は
・空前の兵站を日強としたベトナム戦争を機に一気に普及をうながされる。
・ニューヨーク港と、その対岸のニュージャージー港…コンテナ化に冷たかった港と積極的な港の”決闘”
・日本、シンガポール、韓国、ドバイなど、 コンテナ輸送に特化する港を政策的に進めた国家が世界経済の中心に躍り出る !!などの変化を生み出す!
それと同時に1回の航海で荷物を詰めれば詰めるほど利益になるコンテナ輸送のタンカーはますます巨大化…パナマ運河を渡ることができるギリギリの船の幅はかつて「パナマックス」と言われ、それ以上の大きさのタンカーは「オーバーパナマックス」と呼ばれ、畏怖されたが…いまや、その基準はマラッカ海峡を通れるかどうかを基準とする「マラッカマックス」となった!!!
そしてコンテナ輸送はクレーンをコンピューターで遠隔操作するようになり…そこではセンサー技術や AI の知識を学んだ女性が、昔とは別の意味でのタフガイさを発揮し、大活躍している!!
コンテナ輸送を発案し世界に広めたマクレーンは、このあまりに激しい郵送の変化に自らが飲み込まれ 、1986年、自身の海運会社を倒産させるが…それも物流ビジネス一筋に生きたロマン!!
この業界では、だれもが彼に敬意を払い、2001年5月30日、精一杯の人生を生き切ってこの世を去った彼の葬儀が行われた朝、世界中のコンテナ船が汽笛を鳴らし、弔意を示した!!!
コンテナがあるから、グローバリゼーションがある!
グローバリゼーションがあるから、コンテナ輸送がある!!
このことを忘れなければ、まだまだ世界の人を、豊かにしてくれるはず!!