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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

人間発電所、ついに稼働停止― ブルーノ・サンマルチノ逝く


※その後、まとめつくりました

さらば人間発電所ブルーノ・サンマルチノ逝去と、その反応 - Togetter https://togetter.com/li/1220359


自分も世代的にずれているので、ブルーノサンマルチノの試合は1回も見たことがない。
いや牽強付会すれば…一試合だけ見ている。
それはジャイアント馬場が亡くなった時、直後に行われた東京ドームの大会の追悼セレモニーが”引退試合”と銘打たれ、 サンマルチノはジン・キニスキーザ・デストロイヤーらとともにリングに上がり、モニターに流れる往年のジャイアント馬場の映像を見守った。
それを1試合とすれば、見たことになるのだろう。

ではなぜ、そんな選手のことがすごく印象に残るかといえば、それはわがバイブル「プロレススーパースター列伝」 のおかげである、 としか言いようがない。

スタン・ハンセン編、そしてシリーズ随一の完成度を誇るブルーザー・ブロディ編で、結局は(列伝の中においては)負け役なんだが、相手を上げる非常に良い負け方をしてくれたレスラーである。
しかしどうでもいいが

日付に「蒸し暑い夜―」と付け加える、梶原一騎の才能のほとばしりはどうよ。いや、本当に蒸し暑かったかどうかは知らんが(笑)、そこで生まれる臨場感たるや。



と同時に、ほんの一行なんだが、梶原一騎が書いた「アントニオ猪木談」の中で、ブッチャーがなんとか最後にはカウンターの地獄突きで失神 KOを奪い、大逆転勝利したものの…、苦戦に次ぐ苦戦を強いられた「人間空母」 ヘイスタック・カルホーンに ついて、「気絶させたブッチャーもすごい」が「人間発電所ブルーノ・サンマルチノがカルホーンを抱えてリングを6周して名をあげた」 と書いていて、たったその一行が幻想を膨らませたのであります。一方でミル・マスカラスのNY登場には「サンマルチノに全盛期を過ぎた夕映えが訪れつつあった」ので、彼の空中殺法が新鮮に見えた、と書いたり…


梶原一騎は、手持ちのレスラー幻想が晩年には微妙に時代とずれたりして、また何作も書いたわけだから、 A という作品では一人のレスラーを強い勝ち役に振り分け、Bという作品では負け役でジョブさせている。いや、一人のレスラーがそんなふうに勝ち役にも負け役にも なるのは現実のプロレス界を見れば至極当然なのだが、 これが困ったことにテキスト、作品として残るとなんか整合性の点で居心地が悪いんだよね(笑)
さらに言うと…、 これは俺の邪推だが、梶原一騎は総会屋のように全日本プロレス新日本プロレス双方に「俺のペンの加減一つで、お前達が高いギャラを払って呼んでくる外国人レスラーを、ageることもsageることもできるんだよなぁ……そんな俺に、君たちは何で報いてくれるのかな?」みたいな牽制球を投げていた、という気がするんだよね。

サンマルチノに全日本プロレスの総帥、ジャイアント馬場はビジネスを超えた友情を感じていることは周知の事実で、そのサンマルチノを上げたり下げたりというのは、ちょっとそんなところがあったんじゃないかなあと…

まあその真偽はともかく、プロレススーパースター列伝で、主人公として登場するレスラーの相手役に回って、そこで存在感を見せたレスラーの中で五本の指に入る存在だろう。そのおかげで、こうやって試法を見たことない人でも、訃報に対して色々思うところがあるのだから、 やはり最後の勝者は「物語」なのだろうか。

物語が最後の勝者、という話で言えば、サンマルチノと「ハンセン首折り伝説」 については、やはり語らざるを得ない。…ただこれについては既に言及されているのでこの記事を読んでもらった方が早い。

WWE殿堂入りを果たしたスタン・ハンセン「首折り事件」の真相は、もはやタブーではない - エキレビ!(1/5) https://www.excite.co.jp/News/reviewmov/20160617/E1466102789490.html

…ハンセンのWWE殿堂入りが発表され、それと同時にWWEは「Stan Hansen joins the WWE Hall of Fame Class of 2016」なる公式動画をアップ。そこには、件の「サンマルチノーハンセン戦」中の1シーンが収められていた。噂には聞いていたものの、初めて目にした人は多かったと思う。ハンセンが異常な急角度のボディスラムでサンマルチノを投げ落とし、サンマルチノが受け身を取り損なっている場面である…

その公式動画はこれ。

Stan Hansen remembers those who made him one of the most vicious competitors : WWE Hall of Fame 2016

開始後1分の映像だ。
あー、こりゃねえ…


夢枕獏は、「仰天・プロレス和歌集」でこう歌った。


一番よく効くのはヘタな技ですと言ってから  頭を掻いているインタビューである.

仰天・プロレス和歌集

仰天・プロレス和歌集


ただ、ハンセンのために弁明するなら、本当に聞いたのはこのハンセンの下手な技ではなかった。
まだ医者の診断では安静にしているべきだと言われたのに、「アントニオ猪木vsモハメド・アリのクローズド・サーキットに合わせて、お前の復帰戦を組んだから出場してくれ!猪木の試合はしょっぱくなりそうだから、お前がお客さんを満足させて帰らせないと困るんだ」と言い出して、強引に退院させたビンス・マクマホン・シニアの無理難題こそ、一番効いた技だったらしい(笑)


実際ここでは、首折りの因縁のあるハンセンをサンマルチノが爽快にやっつけ、観客も大いに溜飲を下げたそうだ。


にしても……彼、ハンセンの得意技が偶然、首を攻撃するラリアットで、この事故を「ギミック」に出来たのは運命としかいいようがない。そして、よく考えたらシャレにならない、このアクシデントのギミックへの変換を、プロモーターもケガさせた側もさせられた側も、一致して押しすすめたのだから、プロレス界の底なし沼っぷりときたら。この時、ドル箱スターを技の下手さゆえにぶっこわして、団体とそこで働くレスラー全体に金銭的な被害をも与えたハンセンは、かなり居心地悪い思いをしたらしいが、そこで当事者のサンマルチノが温かくも寛容な心で許し、重要登場人物としてその後のMSGでも扱ったからこその、その後のハンセンの未来もある。




そんなサンマルチノは代替わりしたビンスマクマホン・ジュニアの考える、今現在のスポーツエンターテイメントたるWWEのプロレスは全く相容れず、長くニューヨークマットとは距離を置いていた。しかしビンスは、あまりにもあまりにも強欲で、プロレス界を現在と未来だけでなく、 過去まで全て支配したいと言う強い欲望があった。
そこで粘り強く様々な人脈を駆使して交渉、心からの和解かどうかはともかく、最終的にはビンスとサンマルチノは握手し、殿堂入りや映像のアーカイブ化なども生前に完了した。
これは最終的にプロレス界にとっても一番良かったのではないか。



最後に、プロレススーパースター列伝を超えるインパクトを残した漫画についても紹介したい。

みのもけんじ「プロレススターウォーズ」で描かれた幻の対決、ジャイアント馬場アンドレ・ザ・ジャイアントの『ジャイアント決戦』は、最初から最後まで、とにかく漫画や小説などで架空の対決を描きたい人にとってはお手本中のお手本になる傑作だが、
(以下、ややネタバレにつき、OKな人だけ読んでください)
両者 KO の引き分けという形で決着がついた後のボーナストラックにサンマルチノが登場する。これが本当にすごくて……

ジャイアント馬場
アンドレ・ザ・ジャイアント
がともに KO状態。当然自力ではリングを降りられない。
しかし二人の大巨人を運ぶ担架なんて、当然そのへんには転がってないし、人手も必要。大館のリングサイドに…

「タンカは必要ない、私が彼らを運んで行こう」
と言って!!
背広姿の、すでに引退した!
人間発電所ブルーノ・サンマルチノがリングに入るのですよ!!
そして!!
馬場とアンドレをそれぞれ片方の肩に乗せて、かるがるとリングを降り、 花道を通って控え室まで運んでゆくのです。
そこに浴びせられる惜しみない拍手!!
怪力無双のサンマルチノの特性…さらにいえば、前述のお化けカボチャことヘイスタック・カルホ−ンを抱えてリングを6周半したと言うプロレス伝説を活用して描かれるこのシーン。

ほんのちょっとだけ、ゲストキャラが見せ場を作る…というフィクションの中での作劇術のお手本と言ってもいい、一場面でした。


そんな形で、極東の1プロレスファンが、実際の試合を見てもいないのに幻想の世界で生きずいた大物プロレスラーでした。
ブルーノ・サンマルチノ、人間発電所(この異名の芸術性はナンシー関も絶賛した)。
安らかに眠れ。