まず、おなじみtogetterの紹介から。
「ラピュタ的物語」「ラピュタもの」の傑作と特徴―成功するには、どこが重要なカギとなるのか - Togetterまとめ https://togetter.com/li/1093615
個人的に、フィクションを分類したり構造を比べたりするのが好きなのですが、同好の士の方と一緒にこのまえ「ラピュタ的ものがたり」についてあれこれと語りました。
一説には『「ラピュタもの」はたくさんあったが、実は構造的に難しい事情があり、多くが失敗している』とも言われる中、「いや、実は傑作もあるのだ」とのこと。
成功作と失敗作を分けるものは。
どこが一番重要なのか
そもそも「ラピュタもの」を定義すると?
ラピュタ以前にも当然そういう話はあるのではないか?
などなど、話は続き、別のところにも拡大していきます。
みなさんのご意見も。
と。
ここで、はてな村民的には懐かしさを感じる人もいるのではないでしょうか。
そう、上のまとめのツイートの中心になっているのは…ここの書き手の方。
↓
多くのはてな…いや全体的にブロガーと言われるかたに多いが、ゆるやかに執筆の場をフェイスブックやtwitterなどのSNSに移行させた人が多く、「さて次の企画は」もそのように今はなっていて、2014年で更新が止まっている。
だが、上記のtwitter上のやりとりの流れの中で話がまとまり、
ここに「さて次の企画は」著者の文章を掲載できることになったのでした。ぱちぱち。
ただ、いっぺんに最後まで執筆されるわけではなく、少しづつ書き継いでいくので、ここを何度でも確認しますように。
それでは、「さて次の企画は」ブログ出張版、
「ラピュタ構造作品の分析と、宮崎駿への補助線」をどうぞ。
※twitterアカウントのプロフィルより
nakatsu_s @nakatsu_s
角川春樹事務所の編集・中津宗一郎です、SF、時代小説、ミステリとか色々編集してます。担当作の新美健さんの『幕末剣狼伝 西郷暗殺指令』が歴史時代作家クラブ文庫新人賞をダブル受賞。現在、土橋章宏さんの『幕末まらそん侍』は2018年全世界公開同時公開予定で、映画化進行中!
宮粼駿監督が描いた「天空の城ラピュタ」は、少年冒険活劇モノとしては、おそらく本邦の作品の中でも屈指の大傑作であることに異論を持つ人は少ないだろう。
スタンダードであるがゆえに、以降数多くのフォロー作品を産み出されたし、とりわけ「空から落ちてきた少女」というモチーフは、物語の導入部として使いやすかったこともあって、模倣されすぎてしまい、スパイものなどで「レストランで謎の美女から機密文書を託される」と同じぐらい陳腐化してしまった観もある。
ところが実際に「天空の城ラピュタ」を模倣しようとすると、非常に難しく、死屍累々となった失敗作を産み出してきてしまったことは、下記の井上純一氏の論考に詳しい。希有馬「なぜラピュタをやろうとすると誰もが必ず玉砕するのか」 - Togetterまとめ https://togetter.com/li/96551
ただ数少ないながらも「天空の城ラピュタ」をリスペクトして成功した作品もある。そしてこの成功したフォロー作品を読解、補助線とすることによって、より一層、「天空の城ラピュタ」の構造と瑕疵を発見できるとともに、宮粼駿監督には描写することの出来ないことがあぶり出され、より一層、宮粼作品群を理解することが出来る。
ここでは、その数少ない成功作品として、円英智『エルデガイン 導きの神』、上山徹郎『LAMPO-THE HYPERSONIC BOY-』、滝川羊『風の白猿神 神々の砂漠』の3つを取り上げ、円、上山、滝川の三氏がいかに『ラピュタ構造』を換骨奪胎して、作品世界を構築していったかを語っていこうと思う。
- 作者: 円英智
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ランポ 1―The hypersonic boy (てんとう虫コミックススペシャル)
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と同時に、『未来少年コナン』も参照しつつ、コナン → ラピュタ → フォロー作品群を経ていくことで、『ラピュタ構造』を顕在化させていこう。
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なおこの三作品は、それぞれ絶版+未完と現在は非常に読みづらい状況になっており、ラピュタの威光の下の作品作りが大変かということもまた照らしてしまう。そのため現時点においては、論考を理解が難しくなる事情もご理解いただきたい。「七人の侍」みたいに、ある種の物語構造のパターンとして作り上げてしまったほうがいいんだけどねーー。まぁそれを目指して書いていこうと思う。
なお『ラピュタ構造』の変格として、個人的にはガイナックス『ふしぎの海のナディア』、新城カズマ『蓬莱学園の初恋!』、堤抄子『聖戦記エルナサーガ』を語りたいのだが、これについては、また別段を設けたいと思う。
◆幻のマンガ家・円英智が描く、ラピュタを越えた畢生の傑作『エルデガイン 導きの神』
【世界設定、あらすじ紹介】
言葉を解し、人間よりもはるかに強大な魔力を持つ「竜人」たちによって統治されている世界。白き竜王・●【※編注 メールで送られてきたとき、どうも異体字がつぶれてしまったようです。以下同じ】の善政によって治められている王国アーマヤーテの少年・ザンは、ある日、人間への苛烈な支配で知られる黒竜王が支配する王国ルアイソーテの飛行艇から落下してきた少女を救う。緑の髪の毛とみたこともない服装の少女は記憶を失っており、ザンは彼女にリュミールという名前をつける。しかし彼女の両手首には金属球が埋め込まれ、あらゆる傷が瞬時に治る能力の持ち主だった。そして彼女には、世界の命運を握るほどの秘密が秘められていた。彼女と謎の巨人ロボを巡り、ルアイソーテの強力な能力者・ガロウズの魔の手が襲いかかる。リュミールを拐われたザンは、軍属の兄・●、内念術師●らとともにリュミエール奪還のため、ルアイソーテの首都へと潜入する。主人公 ザン(=パズー)
竜人の養父・●と、軍属の兄●と暮らしている少年。
ヒロイン リュミール(=シータ)
軍事国家ルアイソーテに負われる少女。記憶を失っているが、両手首に金属球が埋め込まれ驚異的な治癒能力を持っている。巨人ロボットとともに発掘され、
敵役 ガロウズ(=ムスカ)
ルアイソーテの特務大佐。人としては最強の魔導力を誇り、先史文明の産物であるエルデガインとリュミエールを追い、世界支配の野望を持つ。
(=ドーラ相当)
ザンの兄で、アーマヤーテ軍の少尉で重力使いの魔道士。リュミエール奪還作戦と謎の島の探索へと赴く
(=ダイス船長)
ザンの兄の同僚である魔道士。巨体での格闘と内念術が得意だが、かなりコミカルな性格。後に敵であった●と同行して島の探索に当たる
(=モンスリー局員)
ガロウズの副官を勤める魔道士。非情な女性士官だが、実は密かに竜人支配を覆すレジスタンス活動をしている。
と言ったところが『エルデガイン 導きの神』の概要と、シータ奪還のために旅立つ相当のストーリーラインである。
私はラピュタ構造を模したリスペクト作品としては、本作が最高傑作だと思っているのだが、円英智氏は、自分流のラピュタを作る上で、基本的にストーリーラインは踏襲しつつも、幾つもの設定の拡張を施して、ラピュタのストーリーを拡げている。
以下はその改変部分を見ていこう。
◆「ラピュタに、大規模なラストバトルと後日譚を入れよう!」
天空の城ラピュタでの最大のアクションの見せ場は、中盤のシータ奪還シーンであることへは異論は少ないだろう。むしろハリウッド的な映画技法からすると、ラストにバトルのない宮粼駿作品の作劇の方が異色なのだ。
これについては私もTwitterなどで何度か述べてきたが、宮崎監督が4歳時に宇都宮空襲で得た衝撃が大きな体験になっていると云われている。
宮崎作品のクライマックスには、「巨大な建造物が崩壊する場面から、主人公たちが逃げる」という定形があるからだ。ラストで敵ボスと主人公が決戦をすることはほぼ無い(注1)。と同時に、後日譚が映像と台詞が両方揃って語られることも非常に少なく、EDテーマに沿ってあっさり述べられることが多いのも特徴だ。これに付いてはジブリのプロデュサーを勤める鈴木敏夫氏が幾度となく述べているが、制作過程において、最後までシナリオ相当のコンテが上がらないうちに作画に入るということがその原因の一つであると云われている。要するにラストが弱いのだ(注2)。
これに対して、円英智氏は、幾つかの設定変更をすることで、よりクライマックスを劇的に描くことに成功している。(1)覚醒したエルデガイン(=ラピュタ要塞)と、世界の現有戦力との大戦争
これを描くために「主人公の兄が軍属」「ラピュタに登場しない為政者=王を登場させ、それとガロウズ(=ムスカ)と明確に対立させる。」「」
(2)強大な力を得たラスボスからヒロインを救出する主人公の大アクション
主人公は基本的に普通の少年だが、「瞬動法」という特別な歩法が出来る。またヒロインはその不死性をラスボスに利用され、肉体融合されてしまうため、主人公自身が戦って取り戻さなければならない。これらの設定のため、主人公がどうしても最後に敵ラスボスと戦わねばならなかった。
(3)滅亡の脅威が去った後に、新たな道へと進み出す世界
敵を倒した後、多くの国を失って世界は荒廃したが、そのための復興のため、竜人は支配者の地位を降りて、人間の時代がやってくる。この復興のシーンで、エコロジカルな視点が強調される。と同時に主人公とヒロインの数年後の生活が描かれる。尺の問題を他にすれば、エンターテインメントとしての要素は、『エルデガイン』の方に詰まっているのではないかと言えよう。
◆「エルデガイン」から「ラピュタ」を照らして解かること
さてここで井上純一氏が指摘したラピュタを成功に導いた要素を確認してみよう。
・ヒロイン
・主人公
・敵
は、
この視点から照らしてみると、ラピュタのシナリオの幾つかの瑕疵が見えてくる
【ストーリー相違点】
◆日本神話と格闘ロボットを組み合わせ、IF世界でラピュタを描くSF『LAMPO-THE HYPERSONIC BOY-』
【世界設定、あらすじ紹介】
ジェファン神国(日本=ジャパンの暗喩)は、その超越した科学力によって、世界の発電量の90%を産み出し、意識を持った軍事ロボットによって世界に覇を唱えていた。そんなある日、エヴリア半島の片田舎の港町に住む少年ランポは、漁の途中空から落下してきた少女ヨシノと出会う。侍従ロボ・タイホウに守られた彼女はジェファン神国の巫女であり、エヴリア半島に神国ゆかりの科学者を探しに来たのだ。
しかしタイホウは追手のロボットに破壊され、ヨシノはあわや連れ帰られそうになるが、それを阻止したのは、驚異的な身体能力と拳法の技を披露したランポだった。ヨシノを連れ戻すため半島に神国軍隊と、神国ロボットマスラオが迫る。そこへランポの養父である爺ちゃんが駆けつける。その正体はヨシノが探していた神国陸軍軍師で伝説の武人スサノオだった。だが、一騎討ちの結果スサノオは斬殺され、ヨシノは神国へ連れ戻された。ランポはヨシノを救出することを誓い、スサノオの遺言に従って半島中央のマルヴァ村に居る、もう一人の元神国人科学者・ツクヨミの元へ旅立つ。
※この文章は、少しずつ補足修正しつつ、拡大していく予定です。