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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています 

「Number」にアリ追悼特集。沢木耕太郎が有名俳優に席を譲られて観た観戦記「砂漠の十字架 最後のアリ」を再録。

http://number.bunshun.jp/articles/-/825861

永久保存版 THE GREATEST ALI
 
レジェンドインタビューモハメド・アリ「リングの上で、人は真実に出会う」
追悼メッセージ&年表文◎芝山幹郎「個の戦い」を貫いたヒーロー
12ページ完全再録沢木耕太郎「砂漠の十字架 最後のアリ」
ラグビー ROAD TO 2019

まったく不思議なことだが、ノンフィクション作家の枠を超える人気作家である沢木耕太郎は、なぜか単行本になっていない文章も多々あり、阿川佐和子との対談で言っていたな……未収録作品は原稿用紙にして数千枚といったか、1万枚といったか。とにかく、単行本未収録作品が多数、なのです。
全9巻の「沢木耕太郎ノンフィクション」が刊行されて、まだマシになったが。
http://www.bunshun.co.jp/book/80sawaki/


今回の沢木耕太郎「砂漠の十字架 最後のアリ」は、これまでの本に収録されていたか。自分の記憶にはないけど、どこかにあるのかもしれない。

ただ、自分にとっては初めて読む文章だった。
しかし、この中の名場面は、その後の彼の短いコラムに解体され、ピックアップされて題材として使われており、「ああ、あの場面はたしかにこの時の取材と書いてあったな」と思い起こされるのだ。



たとえば、『ヘビー級の試合は「すべて」みている』と語る老記者とめぐりあい「アリは勝てないし、勝ってはいけないんだ」と彼が語る場面。逆に彼に「アリは好きか?」と聞かれ、沢木が「好きか嫌いかわからない。でも最後の試合は見ておきたかった」と答える場面。試合後携帯タイプライターを手にしたその老記者から「また会おう。ヘビー級の会場で」と言われる場面…これらは、その後オリンピックで自国のバレーボールチームが勝つか負けるかに熱狂する中国の記者や、フォアマンの試合と対比させ、「老い過ぎて」という短編コラムになっている。

チェーン・スモーキング (新潮文庫)

チェーン・スモーキング (新潮文庫)

また、このブにネタバレしているが(笑)、沢木耕太郎がアリの最後の試合…vsラリー・ホームズを観戦するためのチケットを譲ってくれたのは、有名俳優のTである…という話は、この「砂漠の十字架」でも最後半部分になって明かされ、読者に意外な効果を挙げる。このTとの交友録も、とあるコラムで「チケットを譲ってくれた」という挿話になって描かれた。この最後に「彼は…である」と明かす叙述トリック?は沢木氏は好きと見える。


また、この短編の中では、回想の形でアリのほかの試合も引用されている。

アリvsフォアマンを沢木が見たのは、大陸横断バス旅行の最中で、イランのイスハファンの電気屋前、なぜか上下が半分にちぎれて映るテレビで。
登校中の子供たちが熱狂してみていた中で、一緒になって観戦した…というのは持ちネタで、もちろん「深夜特急」でも紹介されている。

深夜特急〈4〉シルクロード (新潮文庫)

深夜特急〈4〉シルクロード (新潮文庫)

深夜特急(1?6) 合本版

深夜特急(1?6) 合本版

クアランプールで見たアリの防衛戦(vsジョー・バグナー)、そしてその前の公開練習日に、防衛戦の次の相手として浮上していたジョー・フレイジャー(彼とは三度目の試合になる)と、やや宣伝を兼ねた舌戦になり、「奴は何者でもないんだぞ、だが俺は王者だ (He's nobody,I'm the champ!)」とアリが吠えた場面…この言葉、「He's nobody,I'm the champ!」をテーマにしても沢木氏はエッセイを書いている。それを読み、自分は主人公がいまだ「nobody」であるということを絡めて「アオイホノオ」論を書いたりしたのだった。

ドラマ完結「アオイホノオ」の私的総括と、島本和彦氏に関する私論〜(ドラマはBSで再放送!) - http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20141004/p5


つまり、ことほどさように、沢木耕太郎氏は自分の出会った名場面や名台詞を再構成して、新しいテーマも載せて別の文章にするのが上手い。未収録作が多いのも、要はほかの場所で、それを材料にしてもっと別の満足いく作品ができたので、それ以前の同じネタが載ってる旧作は、習作あつかいで封印しているのかもしれないな。


そんなことを思いました。
そのうえで、この「砂漠の十字架」が今回読めるのは、幸いであります。


こんなインタビューも

15年前のインタビューが採録されている

Q:輝かしいキャリアの中で、汚点を残しかねない試合もありました。ある日本人との戦いがそうですが。
「当時の私には金が必要だった。それがあの試合を受けた理由だが、同時にキャリアの最後の時期でもあった。600万ドルという魅力的なオファーを断る理由はなかった。あの試合は、一部の批評家たちが批判するようなコメディではない。スペクタクルは保障されていたし、私は不正をしていない。単に契約を順守しただけのことだ」

うーん、意味深意味深。底が丸見えの底なし沼…


柳澤健1984年のUWF」も好評連載中

そして「1984年のUWF」、いよいよ佐山聡の「シューティング」と、UWFの「プロレス」の齟齬があらわになりつつある…


そして、凄く感心したんで、別の項目を立てるのだが…次項につづく。