全日本南北戦争フォーラム
http://nanboku-sensou.blogspot.jp/
という団体がございます。この前、中田考氏のインタビューを紹介した「宗教問題」の編集にも携わっている小川寛大氏は、南北戦争の歴史にも詳しく…というかネットでは
OGAWAKandai のtwitterで有名だから
https://twitter.com/grossherzigkeit/
自分も、南北戦争研究かとしての印象が強い。
氏が、ご厚意で今夏に出た、全日本南北戦争フォーラムの会報5号を送ってくだすったのだが、特集が「リンカーン暗殺事件」なのだった。
全日本南北戦争フォーラム会報Vol.5
2015年夏季号
特集「リンカーン暗殺事件」―目次―
特集
暗殺と逃亡の12日間
スタントンの軍事法廷
ジョン・W・ブース ある「移民右翼」の肖像
リンカーン暗殺事件報道と通信の変革
リンカーン暗殺と「法の戦い」 映画『声をかくす人』
リンカーン暗殺事件をめぐる人々活動報告:イリノイ州スプリングフィールド訪問記
図書紹介:ミッチェル『風と共に去りぬ』(岩波書店)連載
南北戦争のマイノリティ:アメリカ大陸とロシア
アメリカ政党略史:最後の妥協
南北戦争の海軍:提督(アドミラル)の話
南北戦争と日本:リンカーンに会った日本人
これが実に面白い。
その面白さのたとえとして、自分の貧弱な表現力では「アメリカ版の、150年前の『テロルの決算(沢木耕太郎)』だなあ」となる。
今なお語り継がれる日本ノンフィクションの金字塔「テロルの決算」。
少年の刃が委員長の胸を貫いた瞬間から社会党への弔鐘が鳴った。テロリストと野党政治家が激しく交錯する一瞬を描き切るニュージャーナリズムの傑作。大宅賞受賞
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似ているのも当然といえば当然のことで、結局暗殺事件や、原発や航空機の大事故というのはどれも、柳田邦男氏のたとえだったかな…「迷路を歩いて、偶然一回も壁にぶつからずにするっと抜けるような」、ありえないような運命をたどっておきることが多い。
「ここでXXがXXしたら、それだけでこの事故(暗殺)は起こらなかったのに」という、不思議なほどの偶然によって巻き起こる。
また、最後の最後にそういう大きなことが起きると読者は知っているから、犯人や非暗殺者の一挙手一投足に、こちらは象徴的な意味を読み取ってしまう。
だから、暗殺事件の直前直後の言動というのは、ディテールを知る、それだけで本当に興味深い。あ、これにも似てるぞ。おれも引き出しが少ないね、この時も「テロルの決算」に喩えてら(笑)
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暗殺犯ブース、その人となりと、逃亡と最後
・リンカーンを暗殺したブースについて、自分は細部は何も知らないが、どこかで暗殺時に「タイラント(暴君)は死んだ!!」と叫んだということは知っていた。「へー、タイラントって暴君って意味か。あの怪獣もそれで命名されたのか」ということで印象に残っているんだよ(笑)
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ただ、英語で言ったんじゃなかったんだそうだ。
「シック・センパー・タイラニス!」sic semper tyrannis
ヴァージニア州の標語であり、シェイクスピアのジュリアスシーザーで、シーザーを誅したブルータスが叫ぶ台詞である。
・ブースの行為を「売れない欲求不満の役者の承認欲求による暗殺」と評したのもどこかで読んだのだが、これはかなりの曲解で、ブースはかなり人気で、将来を嘱望された俳優だったのだという。ただし、職業柄なのか、かなり芝居がかっており、おのれの人生を一種の舞台として演じきろうという強烈な芸術意識があったことは間違いないらししい。小川氏は以前twitterで「田中芳樹の銀英伝は一応読んだが、感銘はあまり受けなかった」と書いていたが(笑)、銀英伝では歴史を大きく動かした「幼帝誘拐」を、やはり自分を舞台の役者のように考えている、芝居がかったお調子ものが行った行為、というふうに描写していて、これも一典型なのだろう。
・ブースはその場でつかまったか殺されたかと勘違いしていたのだが、実はこのあと、数日間の逃走に成功していて、その逃走記録がまた面白い。シンパが宿やルートを提供してくれたのだが、やはり(そう名乗ってるわけじゃないが)大統領暗殺犯にいきなり来られても(笑)。うさんくさがられたり、怪しまれたり、川を逆に遡って追跡者に近づいちゃったり(笑)、逆に思わぬ厚意や幸運があったり…
最後は納屋に閉じ込められて幸福勧告を受け、一緒に逃亡していた1人は降伏。本人は逮捕寸前で撃たれて絶命した。この撃った兵士は、逮捕すべき犯人を撃ったという微妙な立場だが「ブースは抵抗しており、仲間の安全のため」ということでお咎めなし。しかしその後、全国の人気者になり、ブロマイドが売れて、ファンレターが殺到したというところが、メディア時代の夜明けらしい話だ。そういえばジェロニモも、最後はサイン入りブロマイドで稼いだんだっけ。
ジェロニモ問題続報。REDで描かれた「それからのジェロニモ」 - http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20110506/p2
・ブースは移民二世、父親は民主主義と共和制にひかれて英国からやってきた(彼も役者で、だから本場のシェイクスピアものをうまく演じられた)。移民二世だからこそ、「アメリカの理想」への思い入れが忠実で、それが人種差別政策と、また「州ごとの自由と自治があり、連邦はそれに介入できない」という南部の理念だったという話。
・それより重要な点は、リンカーンが暗殺されたことにより、北部は南部を当初の…おそらくリンカーンが構想していた「和解の為に寛大な南部政策」と獲るという方針を捨て、ある種の搾取と軍事支配を行うことになった、ということだ。伊藤博文暗殺の影響の評価にも似ている気がする。そのときには、生前はふつうの政治家と同じように毀誉褒貶のある一政治家だったリンカーンがこの悲劇の死で「神格化」され、一切の批判がゆるされぬ空気が生まれたことも大いに貢献したという。
リンカーン暗殺後の処理を担ったスタントンは、映画「声をかくす人々」(レッドフォードが監督)の中では「戦時には法は沈黙する」という名言?を発したとか。これも銀英伝で悪役が言いそうな台詞だ(笑)
南部の英雄リー将軍が暗殺の一報を聞いての発言。
『わたしは直接的にはグラント将軍に降伏したが、その背後にリンカーン大統領がいて、南部に慈悲をかけてくれると確信したから降伏したのだ!』
こういう話、あるあるある……
・リンカーン暗殺計画にかかわったとされて国外逃亡した一人(ジョン・サラット)は、その後、ヴァチカンでローマ教皇護衛の傭兵隊に所属したとか(笑)。その後、エジプトで逮捕されたが、アメリカでの裁判で無罪を勝ち取った。
・この時期は「銃」「通信(メディア)」が一日ごとに爆発的に進歩し、暗殺前の南北戦争と合わせて大きなファクターになった。それについてもこの会報は詳しい。理由はいまだに不明らしいが、すでにリヴォルバーなども普及していたのに、単発先込め式のデリンジャーをブースは暗殺につかったのだそうだ。予備のナイフはボウイーナイフと呼ばれるものだったという。
通信のほうでは、この事件はロイターの「出世試合」であり、ほかの通信社が太平洋を渡る船を港で物色していたのに対して、ロイターはすでに出航した舟をもっと快速のタグボートで追いかけ、原稿を入れた樽を投げ込んで、いち早く欧州にリンカーン暗殺の一報を伝えたのだそうだ。
この時、大西洋を一本の超ロング電線でつなぐというとほうもない計画がすでに3度も失敗しており、完全に成功するのはこの翌年、1866年となる。
この敷設計画を不屈の執念でやり遂げた人の話を、自分は山本有三の「心に太陽を持て」で読んだことがありました。
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いま、この会報が通販みたいなもので購入できるのかはなんとも分からない。
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で情報を見てもらうしかないかな?