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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

「美しく面白い試合」と「勝つ試合」の永遠の相克〜新漫画「夕空のクライフイズム」を中心に。


「スポーツが単に勝つだけであってはいけない。」

この命題は、当ブログが一応所属しているっぽい格闘技クラスタの中でも何度も繰り返されて言われている。実家の4軒先にある、山中のおばあさんが語る嫁の悪口ぐらいに繰り返し繰り返し語られて、飽き飽きしてる。

んで、スポーツが単に勝つだけじゃ駄目なら何するかっていうと、「教育として」とか「道を究める」とかいろいろあるけど、
「面白い試合をしようじゃないか」というイズムもあるよね。
プロは特に、試合が興行でもあるから「客を呼べる面白い試合でナンボ」とも言われる。一方「プロなんだから、勝つことが第一。負けてもいいなんてのはアマチュアだ」みたいな…「競技」と「エンターテインメント」、まあおなじみの議論です。
これも 
正直、当方は少々飽きている(笑)

ところが、そのテーマを、格闘技なんてごく少数のひねこびたマニアと、アンダーグラウンドの反社会性勢力のみが関わるマイナー・スポーツと違い、自称ではなく客観的に「キング・オブ・スポーツ」であるサッカーで描こうという漫画が登場しました。

それが週刊ビッグコミックスピリッツで連載の始まった
手原和憲「夕空のクライフイズム」です。


さて困った。
サッカーにおける、クライフという人のアレに関係しているらしいんだが、お察しの通り分かるわけがねーだろ俺がさ(笑)。

だから読むときは「以後、わが国が『よく分かんねえ』と放り出した際、一切の責はそういうマニア向けのサッカー漫画を描いた貴国にあると宣言す」とどっかの最後通牒のようなイキオイで、よく分かんなかったらすぐに放り出すというスタンスで読み始めた。

面白かった。

以下、ストーリーを解説したい。
といっても今雑誌が手元になくて、さらに小学館のスピリッツ公式サイトもまるで押してない(項目が無きにひとしい)こんなポイズンの世の中じゃ…。
かなり簡略化して描きます。

主人公・今中は、「県内で上位だけれども、トップを狙うには足りない」ような高校サッカー部の補欠選手。なぜ補欠かというと、技量というより「ドリブルをガンガン仕掛けて積極的に個人技で攻めていく」という本人のこだわりが、組織力と作戦遵守と、なにより堅実さを求める監督の方針と合わないからだった。

 この監督も、以前はそんなサッカーを認め、部員の自主性を重んじていたが、「結果がほしい」という周囲の、有言無言の圧力によって変わってしまっていた…
 

しかし、とある日、この監督はさらなる名門校に引き抜かれていなくなってしまう(笑)。かわりにやってきた実績不明の監督は、伝説の名選手にして名将であるらしい(ぼく風に解釈すると、ルー・テーズバディ・ロジャースアントニオ猪木を合わせたような人?)クライフに心酔し、クライフ風のチーム作りを目指すと宣言する。

クライフは、こんな名文句を残していた。
「美しく敗れることは恥ではない。無様に勝つことを恥と思え」

新監督は解説する。
「要はクライフは厨二病です。でもかっこいいでしょ?だから私たちも美しいサッカーに挑みましょう」

そして
「その為ならば 勝つことぐらいあきらめましょう。」

 
何人かの部員は「あんたもクライフも狂ってるよ!」「こっちは勝ちたくてずっと我慢してたんスよ!」と突っかかるが、その光景を見ながら、補欠のドリブル職人にして、干された直接の理由が『試合でクライフターンに挑戦した』であった今中は、胸の中に湧き上がるワクワク感を抑えられずにいた……

という話。
なかなか面白そうでしょ?
サッカーしらんけど。


「勝利至上主義」へのアンチテーゼとして、「見せる、魅せる」「大積極的プレー」を掲げるキャラクターはそれなりにたくさんいた。


修羅の門」の”キングオブデストロイ”ことジョニー・ハリス。

月下の棋士」の刈田升三。

「空手小公子 小日向海流」のプロレスラー・田伏隼。

スラムダンク」の豊玉高校(ラン&ガンのあそこ)

…最後の例にもあるけど「管理主義、統制主義」のアンチテーゼとして登場するパターンも多い。 
プロの魅せる(客を呼ぶ)美学と高校生の「とにかくガンガン攻めるのがかっこいいし、面白いんだ」を一緒にしていいのかという問題もあるが、それは置く。


ただ、いずれも小味、あるいは忘れがたい旨みを持った名わき役であるけど、これを物語の中心の柱にすえて、そのあり方を論じるというのは初の試みなんじゃないかと思う。
まあその理由は少し想像がつく。
このような思想はやっぱり根本のところで大穴というか、それでいいのかと突っ込ませる偏った考え方と言わざるを得ない。「逆光は勝利!」とか「頭上の余白は敵だ」ぐらいにかたよった考え方なのである。

だからこれをメーンのテーマにしたら、たぶん主人公の正義や王道が揺らぐから扱いづらいのだろう。

ただ、この「夕空の〜」は、一歩進んで、リアルな物語設定の中で「この思想、ほんとにいいのか?これは正しいのか?」という問いを、ストーリーの中に取り込んでいこうとしているとおぼしい。
それはなかなかに茨の道だが、成功すればすごいことになると思う。


さらにいうと、クライフという選手、監督は実際にこのスタイルで成功したんだそうだね。スポーツと言えば結果がすべてなわけで、勝ちさえすればアンデウソン・シウバのノーガード戦法も正義だし、ワイドマンに負ければそれまで勝利とKOを積み重ねたその戦法もぼろくそ言われて終わり。
さて、29日は…
http://www.wowow.co.jp/sports/ufc/preview/index.html?ufc168

サッカー戦略漫画の新星として、「GIANT KILLING」をジャイアントキリングせよ!!

そして第二回にして、矢継ぎ早に選手を投入してきた(笑)それも点取り屋のストライカー…じゃなくて女性キャラ。このひとです

ちがう。
似ているが。

この女性はマネジャー…と思いきやコーチ、参謀です。ついでに監督の娘。ここだけはめちゃくちゃ王道やがな。
ただ、性格が王道どころか裏街道のけもの道。
聴いたことのない選手の逸話やら名プレーシーンを暗記し、3-4-3(ダブルプレーか?)とかいまだにこっちが聴いても良く分からないフォーメーションの話にうっとりしながら「これは浪漫です」
と叫ぶ女。大体3+4+3じゃ、10だろうにさ。イレブンだよサッカーは。
(※これはさすがにネタで、少し考えれば『キーパーを加えて11』だと気づくけど、最初の数秒はそう思ったことは事実。当方のサッカー知識の一例として)

ちなみにサッカーを自分でもやっていて、そのせいで「あしがふとい」という設定もあるとかないとか。よつばとは会わせてはいけない。


まあ、足のふとさはともかくとしてだ、こういう風にサッカー戦略をああだこうだと漫画の中で、梶原一騎的に論じてもらえるなら、いまやベテラン長期漫画の域に入った「ジャイアントキリング」の対抗馬となるかもしれないとの期待もわく。

ジャイキリは2007年に連載が始まり、アニメ化されたり賞や解説本も出たりとさまざまに評価は高いが、一番の漫画の評価は「類似作品が出ること」のような気もする。
「夕空〜」がジャイキリの類似作品だとみなすのは今の段階ではまったく不当なわけだが、ただ「サッカーの細かい戦略やシステムを、漫画の中にかなりリアルな形で取り込む」という作品は、スポーツの規模や人気から見たらまだ少ないと思っていた。(定義によっては「結構ある」とする人もいるだろうけど)
もうひとつぐらいあっても全然キャパ的には余裕だろうし、むしろ対比的に読むことで双方が面白く読めるような気がするのです。


他の紹介ブログ

あ、先行してこの漫画を賞賛しているブログも紹介しよう。

週スピ新連載の「夕空のクライフイズム」はブレイクすると断言します!
http://blog.livedoor.jp/yamaselove/archives/53096356.html

これは確実にブレイクする予感がします。
1話目でここまで確信を持ったのは「モテキ」以来です。
(略)
新連載は1話目で8割決まるっていつも書いてるけど
1話目にこれだけキッチリ盛り上げるのはうますぎる。

今まで読みきりとか短期連載を繰り返すことで完成されちゃいましたか。

【新連載チェック】「夕空のクライフイズム」「アイアンナイト
http://ch.nicovideo.jp/JackA/blomaga/ar409936

手原先生はとても面白いサッカー漫画も描かれるのだ。

68m―手原和憲高校サッカー短編集 (ビッグコミックス)

68m―手原和憲高校サッカー短編集 (ビッグコミックス)

 高校サッカーを舞台にしたオムニバス形式の全5話で、それぞれ場所も登場人物も違うのですが、その一瞬に賭けた何かがあった、そんな思いの詰まった一冊です。
(略)

 しかし、青春サッカー漫画なら沢山ある訳でして、手原先生のサッカー漫画が面白い点は、誰もが共感できる日常の視点を持ち、例え劇的な展開があったとしても、過ぎてしまえば全部良い思い出よ!という、良く言えばおおらか、ぶっちゃけて言えばズボラな感覚が、優しく懐に入ってくる点だと思います。

 繊細な線と合わせて、非常に読みやすいんですよねぇ。


そして作者本人のtwitter

https://twitter.com/taharakazunori
手原和憲 @taharakazunori
ビッグコミックスピリッツで「夕空のクライフイズム」の連載を始めました。謎のネコ漫画「ミル」全6集、サッカー短編集「68m」、「YNWA」で参加させて頂いた「僕らの漫画」などが発売中です。

そんなtwitter周辺のやつをまとめてみた。

新作サッカー漫画・手原和憲「夕空のクライフイズム」、作者の意気込みと反響 -Togetterまとめ
http://togetter.com/li/607583

スピリッツも公式サイトでもうちょっと一押ししてもいーのになあ。

まあ年末で忙しいだろうけど連載一覧
http://spi-net.jp/rensai_sakuhin/index.html
に早いところ加えてほしい(笑)。連載終了の「電波の城」も残ってるから、ある時期にまとめて更新するのかな?
そして、ちょっとしたら1話(半分程度でもいいの)の試し読みでもあれば、反響はさらに大きいと思うが……

そして、貴誌の新しいキャッチコピー。ライオンが「おはようからおやすみまで」なら
「夕空から薄暮(※「白暮」=白暮のクロニクルからこじつけ)まで」。

はどうでしょう?
「それめっちゃ時間短いよ」
「じゃあ『夕空から、薄暮から、明日まで』。あがります」



大相撲の「決まり手」−−大技も、「美しく勝つ」意識があってこそ?

さて、関連付けて考えてみよう。
この前の朝日新聞、別刷り版に、掲載された記事である

(be report)力士大きく決まり手少なく - 朝日新聞デジタル (http://www.asahi.com) http://t.asahi.com/dhas
【会員のみ読める】

【中小路徹】「なんか単調な相撲が多いなあ」「そういえば、あの技を見なくなった」――。最近の大相撲を見ていて、そんな感想を持つファンが多いかもしれません。そこで、40年前と20年前と今年の本場所中入り後の全5174番の決まり手を分析してみました。すると、いくつかの傾向がくっきり浮かびあがり、力士の大型化にとどまらない大相撲の実情もみえてきました…

ここに一覧画像などもあって、その数字だけでも面白いのだが、そういう決まり手の変遷に関して、上の「夕空〜」につながるような話もある。

…加えて、「体重信仰」による稽古場での教え方の変化があると、舞の海さんは指摘する。「体重が増え、当たって押すのが相撲道だという風潮になり、親方たちも『まわしにこだわるな。強く当たってとにかく押していけ』という指導をするようになった。力士も、押し以外のことをすると怒られるのではないかという強迫観念を持ち、人と同じ稽古をしていても不安にならない。時代を反映している現象だと思う」

 結果、真っ向勝負で押すだけになり、かわされるとまわしをつかめず、はたかれて転んでしまう勝負が増える。こうしてみると、決まり手の変遷は…(略)

 舞の海さんは「こういう投げ方、寄り方をして勝ったという主体性のある勝負が少なくなった。なぜ勝ったかより、バランスを崩した、体が伸びきったなど、勝因より敗因が目立つ相撲が増えた」との印象を持つ。

 この大型時代、見応えある相撲を増やすには、どうすればいいのか。

 十枝さんは「かつては、多くの三役を出した出羽海部屋のような大部屋があり、巡業の日数も多かったため、若い力士がいろいろなタイプの兄弟子の技を見ては、格好良さにあこがれて盗んでいた。強い力士の技をみて、自分で工夫して身につけていくという空気を取り戻してほしい」と話す。


相撲は年間何十試合も行われ、決まり手なども体系化されているので、統計的考察に向いている。そのせいで外国人の数学者が、千秋楽における「800ロングパワー」の存在を証明してしまったりしたが(笑)。
しかし、あれほどに「結果がすべて」な大相撲でさえ「親方に怒られるんじゃないか」や「あの先輩のあの技、格好いいなあ・・・」が関係してくるのですよ。


夕空のクライフイズム」と並行するものを感じて、ちょっと面白かったしだいです。


いつかだれかが
「夕空の舞の海イズム」とか描くことがあるのかもしれないなあ。