笹原はもはや強行開催以外に手がないとみた。幸い、IGFの両国からの射撃が不活発なのをみて、兵をふりかえった.
「おれは大みそかへゆく。おそらく再びリアル・エンターテインメントには帰るまい.格闘技界に生き倦きた者だけはついて来い」
(略)
ただ一騎、笹原だけがゆく。悠々と硝煙のなかを進んでいる。
それを諸隊が追おうとしたが、FEGの負債の壁に押しまくられて一歩も進めない。
みな、茫然と笹原の騎馬姿を見送った。RE軍だけでなく、地に伏せて射撃しているIGFやボクシングの将士も、自軍のなかを悠然と通過してゆく敵将の姿になにかしら気圧されるおもいがして、たれも近づかず、銃口をむけることさえ忘れた。
ササヤンは、ゆく。
ついに会見場まできたとき、K-1と戦極から流入してきた増援のIGF部隊が、この見なれぬ将官を見とがめ、士官が進み出て、
「いずれへ参られる」
と、問うた。
「大みそかへゆく」
笹原は、微笑すれば凄味があるといわれたその二重瞼の眼を細めていった。むろん、単で斬りこむつもりであった。
「名は何と申される」
IGF部隊の士官は、あるいはどこかから引き抜かれたの新任プロレス関係者でもあるのかと思ったのである。
「名か」
笹原はちょっと考えた。しかしリアルエンターテインメントの代表、とはどういうわけか名乗りたくはなかった。
「ハッスルGM 笹原圭一」
といったとき、IGFは白昼に竜が蛇行するのを見たほどに仰天した。
笹原は、駒を進めはじめた。
士官は兵を散開させ、射撃用意をさせた上で、なおもきいた。
「大みそかに参られるとはどういうご用件か。IGFに参加されるならば作法があるはず」
「IGFに参加?」
笹原は馬の歩度をゆるめない。
「いま申したはずだ。ハッスルGMが大みそかに用がありとすれば、さいたま大会の開催にゆくだけよ」
(後略)
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原文はこちら
■本日、土方歳三没140周年【敗将列伝】(1)
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20090511/p8
パロディでした。現実化しなくて良かった、良かった。すこし惜しかった。