ちょうど格闘技の話題が途切れた(まだ猪木祭り2,3部見てないのです)ので、2011年の積み残しネタを。
毎日新聞には1/4ページほど使っていろんな部署の記者がオピニオンを語る「記者の目」というコーナーがあるのだが、昨年7月ごろの文章だったかな。
もうネット上では直接読めないのかな?保存していた。
2011年07月26日(火曜日)
名古屋場所で考えた相撲再生の道=飯山太郎(東京運動部)
◇負けても内容評価して励みに
角界の再出発は厳しい船出となった。24日に終わった大相撲名古屋場所で「満員御礼」が出たのは千秋楽の1回のみ。1958年に始まった名古屋場所では、69年(2回)を42年ぶりに下回り、過去最低になった。NHKのテレビ中継の平均世帯視聴率も、日馬富士の優勝が決まった14日目を除き、すべて1桁台・・・・。
明るい兆しはあった。…13人が大量昇進した十両は、会場を興奮させる相撲…チェコ出身の新十両、隆の山・・・再十両の双大竜も…相撲ファンを喜ばせ、興奮させるのは、攻防のある相撲。そのことを改めて認識するとともに、これを番付編成にも生かせないかと感じた。◇感動与えた力士、観客投票で選出
そこで私が期待するのが、取組ごとに相撲内容を観客が評価するマークシート式の新アンケートだ。9月の秋場所から本格導入……ポイントは「負けても評価されるかもしれない」という部分だ。
無作為に選ばれた1日1000人の観客らが、十両以上の各力士の相撲を毎日、4段階で評価。その日のうちに集計し、「見応えのある相撲を取った力士・感動を与えてくれた力士」のベスト3が発表される。評価に勝ち負けは無関係。……負けても上位相手に健闘したり、観客が沸く相撲を取れば、勝った相手より高い評価を得られる可能性もある・・・(略)◇番付に反映なら八百長無意味に
私は八百長問題の取材で、再発防止策を外部有識者に聞く過程で、「八百長をやっても得にならない仕組みを作るべきだ」との意見を何度も聞いた……星の貸し借りで互いの地位を保ち合っていたのが八百長問題の構図だが、「相撲内容により地位が守れる可能性があるならば、角界追放のリスクのある八百長をするメリットは少なくなる」という論理だ。
そこで…・・アンケートを活用してはどうか。場所を通じてトップの評価を受けた力士には……いっそのこと、番付編成を担当する審判部が、アンケートで高い評価を得た力士は負け越しても地位を留め置くという特例を設ける……八百長で得る白星より、全力を出し切り、見応えのある相撲を取った上での黒星が評価を得られるとすれば、八百長の誘因が減る…(略)
もちろん白星が地位や報酬に直結する角界の伝統の一角を崩すことにはなる。また「押し相撲の方が客受けは良いんだよな」(中堅親方)など、「素人」の見方を不安視する声もある。だが、元横綱のある親方は「お客は勝負を見に来ているのではなく、相撲を見に来ていることを肝に銘じることが大事」と指摘する。未曽有の不祥事を契機に、角界もかつてない挑戦をしてみるべきではないか。
いやー……面白いなあ。
極端な方面、あるいは片方の断面だけ見て言えば「これは”プロレス”じゃん」という言い方もできるが、プロレスの本質とはちょっとずれているだろう。むしろ「内容で客を満足させていれば切られない」と選手たちが考えていた「ジャパニーズMMA(PRIDE)」と「グローバル・スタンダード的米国MMA(UFC)」の差、により近いかもしれない。(異論や例外はあるだろうが、少なくともバス・ルッテンやランペイジら選手本人がそういうふうに彼我の違いを語っている)。こちらをご参照されたい。
■DREAM.17とUFCから。「日本では”戦い”は勝敗以上に重要だ」という命題は正しいか?
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20110926/p1
しかし、そういう「観客人気」を考慮することが「八百長撲滅」にもつながる…この発想はなかったわー。まあ勿論、15日のリーグ戦を4場所という相撲の形式だからこそ、ということもある。
だが…たとえば高島学氏に、この論説への意見を聞いてみたいわー。
松原隆一郎氏に、意見を聞いてみたいわー。
そんなことをあれこれと考えた、記事でした。だいぶ遅れての紹介となってしまいましたが……。
【参考】高島学氏、「ダンヘンvsショーグン」語る
■名勝負≠最高 最強≠最高 ダンヘンvsショーグン=??
「ダナ・ホワイト…ロレンゾ・フェティータも、2人の試合が史上最高のファイトという風に称えまくった」
「確かに、この試合は1Rから攻守の激しい入れ替わりが続き…男と男の殴り合い…気持ちだけは折れなかった」「で…だ。MMAとは、男と男の勝負でないといけないのだろうか。」
「1R、攻勢に出ていながら、ガードが下がり、逆手負けするような一発をもらうのは、ミスがあったからじゃないだろうか」
「確かに、凄いモノをみたという想いは十分にある。ただし、スパッと極めて終わった試合、勝負どころを逃さなかった勝者と比較して、この二人の評価が高すぎやしないだろうか」
「名勝負は名勝負。しかし、それは最強決定戦ではなかったことは、しっかりと踏まえて称えるべきではないだろうか」
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米長邦雄「将棋界も相撲と同じく、勝敗で地位、待遇に大きな差がある。だが八百長はありません」
と、相撲八百長問題のときにドヤっと語っていた。
まず事実か、どうか。確かに聞かないので、ないかもしれない。
どうだろうか。
で、仮に「ない」とするなら、何ゆえなのだろう?
相撲は「幕内十両になるとならぬで、全く待遇が違う。だからなんとしてもとどまりたい」「それで『互助組合』ができ、みんなで生き残ろうよ、となる」
たしかにこれは、将棋界も同じだ。
八百長がないとしたら…なぜだろうか。
【追記】コメント欄の議論で分かる、壮大な逆説
抜粋。
萩 2012/01/06 10:11
「相撲は「幕内になるとならぬで、全く待遇が違う〜」…「たしかにこれは、将棋界も同じだ。」
将棋界に大相撲ほどの格差があるんでしょうか?
萩 2012/01/07 00:32
…将棋界に十両・幕下間ほどの格差がないなら、八百長がなくても別に不思議だと思わないんですが、どうなんでしょうか?
gryphon 2012/01/07 04:47
どこまでが「幕下」扱いかによっても比較がことなりますが(フリークラスなど)「のぞみを高く持たないならば、生活は可能」という点では相撲はそれぞれの部屋が力士の衣食住を保障し、また付き人として小遣い的なものももらえたりしますね。/相撲ファンはある意味、「おまえら負けても最低限はちゃんこが食える(他の競技よりずっと恵まれてる)のに、八百長なんかするのか」と言えるわな。
よく松原隆一郎が「あれだけの専業格闘家をまるまる食わせている時点で、大相撲協会が世界最大の格闘技団体なんです」といってますね
萩 2012/01/10 06:57
>負けても最低限はちゃんこが食える(他の競技よりずっと恵まれてる)のに、八百長なんかするのか年収1千万以上と「ちゃんこが食える」(だけ)の生活を比較して前者を選ばない関取はいないと思います。なぜなら、ちゃんこが食えるだけで満足しているような力士は出世する必要もないから努力もしないので関取になれないから。
問題はやはり格差であって、幕下陥落寸前の力士にとって1勝が数十万円以上の価値をもつからこそ八百長の温床になるということ。将棋界にそこまでの格差がないなら、相撲界と同じとはいえないですね。
gryphon 2012/01/10 07:07
いや、もし「最低保障は効果がない」「なぜなら上位に行く者は元来、その位置では満足できない連中だからだ」という命題があるなら、それを言い換えると「そこの地位に上がれるものは、その地位を魅力と感じているものばかり」となります。これが成立するなら、実は面白いことに横綱と幕下(あるいは名人やA級とC級)は、経済的な格差がほぼ無くても、その名誉と地位それ自身の魅力だけで、八百長があり得てしまいますよね。その仮定はたいへん逆説的な考察ができて面白いのですが。