ジョー・フレイジャーが亡くなった。
時事通信は、こう伝えた。
http://www.jiji.com/jc/c?g=spo_30&k=2011110800927&google_editors_picks=true
アリ氏「尊敬と称賛」=次々と哀悼の声−フレージャー氏死去
【ニューヨーク時事】7日に死去したジョー・フレージャー氏(米国)の訃報に、ボクシング界からは哀悼の声が次々と寄せられた。ともにヘビー級の黄金期を彩ったモハメド・アリ氏(米国)は、「常に尊敬と称賛の念を持ってジョーを思い起こすことだろう」と声明を発表。アリ氏はフレージャー氏との初対戦でプロ初黒星を喫し、続く2試合を連勝して対戦成績は2勝1敗だった。(後略)
ひとりの元世界王者に対して、かつての対戦が名勝負として知られた相手からの追悼コメントとしては、何の変哲も無い。オールドファンは、ああ、たしかにいい勝負だったな、と思い出すだろう。
だが、
http://omasuki.blog122.fc2.com/blog-entry-1215.html
ではタイトルを…ご存知だろう、いま話題の「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」という本が書かれるきっかけになった、猪瀬直樹のたった2ページの木村政彦追悼コラムと同じ
「枯れない殺意」
とした。
同ブログに、ひとつ苦言を呈するならこの場合、自分のブログの過去のエントリにリンクを張るべきなのである。
■モハメド・アリに言葉で挑発された相手は、数十年たってもそのことを恨んでいるという話(ジョー・フレイジャー)
http://omasuki.blog122.fc2.com/blog-entry-545.html・・・NHKハイビジョンで放送された「モハメド・アリ vs ジョー・フレイジャー」のマニラでの試合のドキュメンタリーを・・・・・・例によってアリは戦前、プロレス流の軽快な煽り発言を連発するのだが、それはフレイジャーにとっては度が過ぎるもので、シュートな憎しみをかき立てられ、60歳を過ぎた今でも許せないのだという話だった。
その許せないアリの発言は、次のようなものであった。
"It will be a killa...and a chilla...and a thrilla...when I get the gorilla in Manila!"
(オレ様がマニラでゴリラを捕らえたなら、殺し(キラー)でゾクゾク(チラー)スリラーだ)
(略)韻を踏んだ詩のような名文句だ。そしてアリはフレイジャーをゴリラと呼び、ゴリラの人形をめった打ちにしてみせたらしい。この辺はボブ・サップと変わらない。
どう見てもそんなに怒ることでもないだろうとしか思えなかったが、
(略)
アリはイスラム・ネーションのメンバーで、黒人至上主義だった(とはいえ、ビジネス面ではこだわることなく白人も登用する柔軟さも持っていた)。黒人至上主義の黒人は、そうでない黒人を、白人の寄生虫であるかのように見なしていたという時代背景があった。
(略)
・・・アリは最近のインタビューで、度が過ぎたことをフレイジャーに謝りたい、時代の熱に浮かされてしまった、ただチケットをたくさん売りたかっただけなんだと語ったそうだ。
60をすぎたフレイジャーは、いまでもジムを経営し、ジムの奥の部屋で生活し、アリへの憎しみを抱き続けている。
こんな記事もある
■新証言・伝説のタイトルマッチ
http://d.hatena.ne.jp/maroon_lance/20090719/1247976824
その中でも特に、次のような罵倒はフレージャーには応えた。
モハメド・アリ「フレージャーは白人のあなたより始末が悪い。だから奴をアンクル・トムと呼ぶ。今のあいつは白人の手先だ」
根拠の無い罵倒に、フレージャーは言い返しようがなかった。フレージャーこそ南部の貧しい黒人であり、7歳から畑に出て働いた労働者階級の代表だった。自転車を買って貰えたアリとは全然違った。しかしアリは、フレージャーを応援する黒人がいたら、そいつは裏切り者だといって憚らなかった。アリの煽動に乗せられて、黒人雑誌までがフレージャーを攻撃し始めた。彼の息子は学校で、「お前の親父はアンクル・トムだ」といじめられるようになった。
二人の第一戦は、空前の盛り上がりを見せた。
マービス・フレージャー「アリがアトランタオリンピックで聖火台に点火したとき、よせばいいのにレポーターが親父にどう思うって質問したんだ。そしたら親父は『火の中へ落っこっちまえ』って答えたんだ。冗談だと思ったけど本気だったみたいだ」
自分は、これらに触発され、何度か関連の記事をかいた。
■格闘技における「煽り」「挑発」を考えるリンク集
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20090709#p1
■「モハメド・アリvsジョー・フレイジャー」ドキュメントの再紹介
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20090730/p4
しかし、歴史は勝者によって染められる。アリの追悼のことば、おそらく本心からであろう尊敬と賞賛も、結果的には亡くなったジョーの憎しみを覆い隠す効果しか生まないだろう。
いま、「力道山はなぜ…」という本が売れていることで…真剣勝負か否かなど、大きな違いも当然あるが……「栄光につつまれた勝者・大スターの引き立て役にしかならなかった敗者…それでも偉大なアスリートの、憂いを秘めた晩年」
という大きな共通点を頭に浮かべつつ、この訃報に接してほしい、と思う。
- 作者: 増田俊也
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2011/09/30
- メディア: 単行本
- 購入: 21人 クリック: 475回
- この商品を含むブログ (131件) を見る
上で紹介した番組は…
http://blog.goo.ne.jp/mimifuku_act08/e/d5b47688380edaae1ac60477ee16c6b5
何かの機会に、再放送があるかもしれません。
ハイビジョン特集フロンティア(ドキュメンタリー)
「新証言・伝説のタイトルマッチ」
〜1975:モハメド・アリ 対 ジョー・フレイジャー〜・本放送:BShi 2009年6月20日(土)
<番組データ>
原題:Thriller in Manila
制作会社:Darlow Smithson Productions(イギリス)
:IMG Media company(アメリカ)
制作年:2008年