(※7月14日朝、完成しました。)
ブラック・ジャック創作秘話?手?治虫の仕事場から? (少年チャンピオン・コミックス・エクストラ)
- 作者: 吉本浩二,宮崎 克
- 出版社/メーカー: 秋田書店
- 発売日: 2011/07/08
- メディア: コミック
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に関して。
まず、最初に面食らったのは・・・率直に記す、「え?この画力? この絵柄??」ということでした。
作画の人の、他の代表作は
・日掛け金融地獄伝 こまねずみ常次朗・こまねずみ出世道(原作:秋月戸市、原案:青木雄二、ビッグコミックスペリオール)
・昭和の中坊(原作:末田雄一郎、漫画アクション、全5巻)こまねずみ常次朗 1―日焼け金融地獄伝 (ビッグコミックス)
- 作者: 秋月戸市,吉本浩二
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2001/07
- メディア: コミック
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・日本をゆっくり走ってみたよ
- 作者: 末田雄一郎,吉本浩二
- 出版社/メーカー: 双葉社
- 発売日: 2006/04/28
- メディア: コミック
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- 作者: 吉本浩二
- 出版社/メーカー: 双葉社
- 発売日: 2011/07/12
- メディア: コミック
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あー、「絵柄」への評価というのはどうしても個人的な感覚の差に拠るものだから「え、おれはぴったりの人選だと思うよ」「この絵柄だから表現できるものがあるんだよ」という人がいたら、それに異論は言わない。
( http://d.hatena.ne.jp/washburn1975/20110710では「味わいひとしお」と評価されている)
でもこの人、基本「青木雄二っぽい絵柄」カテゴリーだしなあ(笑)。
秋田書店が「ブラックジャック時代のウチのドタバタと偉業って、ある意味貴重なコンテンツじゃね?漫画化できね??」「おー、そのアイデア、グーよ!」ということで企画が進行して…で、原作者が決まるでしょ、で、作画者を社内で会議開いて、一種のオーディションをしたとして・・・
そんで
「こまねずみ常次朗」と「昭和の中坊」の実績を買って、吉本浩二氏に決定しました!!!
ってなるって、はっきり言って個人的にはすっげー納得がいかないです(笑)。極端に言えば「手塚ノンフィクションを描きたい人募集!新人、ベテラン、だれでもどうぞ」と公募したってよかったと思うし、それが無理でも…
例えばヤングチャンピオンには、綿密な取材とエピソードの取捨選択、その構成などで本当に満点に近いような、ノンフィクション伝記漫画の金字塔
松田優作物語―ふりかえればアイツがいた! (00) (ヤングチャンピオンコミックス)
- 作者: 宮崎克,高岩ヨシヒロ
- 出版社/メーカー: 秋田書店
- 発売日: 2000/11/01
- メディア: コミック
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松田優作物語 1―ふりかえればアイツがいた! (バンブー・コミックス)
- 作者: 宮崎克,高岩ヨシヒロ
- 出版社/メーカー: 竹書房
- 発売日: 2006/03/07
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と、アマゾンの書影を写したところで、この両作品の原作者は同じ人だと分かったよ!!!!!
それじゃあ、「絵柄への個人的な不満はともかく、内容自体はものすごく面白い」と続く今後の感想に、自分で納得した(笑)。
でも、だからこそ、例えばこの松田優作物語コンビをそのまま復活させて、高岩ヨシヒロの絵柄と写実力で読めたらなあ・・・と思うのですよ。
でも、まあそれは夢想であって、
実際に世に出て、実際に読める作品はこの作者によるものであり、それが面白かったのだから個人の好みで何を言ってもしょうがない。ここからは、実際に生まれたこの作品がどう面白いかを描いていく。
「4人の手塚治虫」はどう融合し、描き分けられたか?
昨年、発表されたもうひとつの手塚治虫伝に
- 作者: 古谷三敏
- 出版社/メーカー: 双葉社
- 発売日: 2010/06/30
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んで、読んだ時にこういうエントリを描きました。
■手塚治虫は「必ず映画を見るんだぞ」と言ってアシに千円のお小遣いをあげたという話
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20100707/p2
で、臆面なく自画自賛しちゃうが、手塚治虫の逸話に関してこの時行った分類が、今回もかなり有効だと思うので再掲載する。
・・・手塚治虫のエピソードに関しては、
(1)藤子不二雄氏らが「まんが道」で描いた様な、やさしさと心配りにあふれた人格者
という像があり、それと同時に
(2)己に厳しい求道家にして、アイデアとそれを支える技術(作画の早さなど)を持つ超人像。
そして最近、ってわけではないけど、
(3)それでも殺人的な締め切りに追われて逃げたり言い訳したり、それでもなんとか間に合わせたりという、喜劇的な編集者との攻防などの「畸人伝」的な話。
そして
(4)とにかく貪欲で全ての漫画家に勝ってやるというライバル意識、嫉妬深さを持ち続け、あの大御所がそういうライバル意識を後輩に持つこと自体がギャグになっている面なんかがよく描かれます。少なくとも自分はそういう面に注目します。
この「4人の手塚治虫」という自己流分類に関していえば、今回は特に(2)と(3)に焦点を当てていたように見えました。
なにしろ(3)で言えば、当時は手塚の第一黄金期とは違って世は週刊誌時代。作中にアシスタントの台詞として出てくるが
当時、手塚先生の連載は「ブラック・ジャック」「ユニコ」「三つ目がとおる」「火の鳥」「どろんこ先生」「ブッダ」「メタモルフォーゼ」の8本ですから!!
この時点で既に狂気だよ!!!!
だから、第二次黄金時代の手塚は(3)の悲喜劇も桁違いのスケールだし、それをなんとかクリアしていくときに発揮される(2)のほうも、その超人性が光り輝くのだ。これを追い詰めていく側の編集者の視点を導入すると、怪盗ルパンと銭形警部のような追っかけっこも描けるし、超人ホームズの天才に舌を巻くワトソン、も演出できる。
もともと「松田優作物語」でも使った、インタビューの情景(つまり、まだ生存している当時の登場人物の現在の姿、語り口を描く)を盛り込む手法を使っているから、さらに効果的になる。
具体的に紹介すると「編集者が締め切り破りへの怒りのあまり、壁を殴って穴を開ける」・・・オイ。
「この話は事実談であり…この編集者は実在する!! お疑いの向きは−−当時のアシスタントで、現在漫画家兼エッセイストの石坂啓がその場面を目撃しているから、彼女に尋ねるとよかろう」(なぜか梶原一騎調。)
しかし原稿が落ちるだの穴があくだのと言っても、今のもやしっこ(と書いてトガシと読む)とは違う。なんと、一本丸々描きおえたのに、完成原稿を前にして・・・「今回の話、面白いですか?」とアシスタントに聞いて回った挙句に
と、こうなる。
・・・実はこれ、「漫画家漫画」マニアならお気づきでしょうが、フィクションに昇華されて「編集王」に類似エピソードが既に発表されている。
おそらくこっちがオリジナルの、しかも実話なのに、・・・有名人の面白い逸話集というのは実はこういう思わぬハンデを背負う。だが、今回はそれを意識したのかしてないのか、漫画の面白さは損なわれていない。
こういう男気には、侠気が応える!!!!
身内の編集部員にまで「この人はヤクザじゃないか?」と言われていた伝説の編集長…、今ならパワハラ・脅迫、不法侵入などてんこ盛りの不祥事となるようなことをし続けてきた壁村編集長は、この「原稿は完成しましたが、もっと面白い原稿をイチから描きます」という手塚のワガママに
製版・印刷所への脅迫でこたえてくれた。ちょっといい話。(印刷所にとっては全然いい話じゃないよ!!)
ちなみにこのカベムラ氏、若い頃、現場の手塚番だった時には
とやったほど怖いもの知らず(破り捨てたとの異伝もあり)
「おれが編集者を辞めるときは、手塚の腕を折って道連れにしてやる」という心に青木真也な人だったという伝説も。
http://mandanatsusin.cocolog-nifty.com/blog/2010/07/post-1731.html
http://mandanatsusin.cocolog-nifty.com/blog/2010/10/post-71e2.html
- 作者: 佐藤敏章,ビッグコミック1編集部
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2010/09/30
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僕もあとで壁村さんが担当になってね。原稿がやっぱり遅れちゃって。(略)9時にまた電話がかかってきて、「できてる?」っていうから、「あともう1時間」っていったら、「わかった。これから火つけにいく」って。(藤子不二雄A)
腕折りに放火・・・ヤクザと言うよりもはやワンマンアーミー化してますが。
「両津のバカはどこにいる、出て来い!」という大原部長レベル。
もう一つ、手塚逸話集⇒昇華され「漫画家マンガ」の共有財産に、の例
(3)の一例。
手塚治虫は各種の仕事で全国を飛び回っていたし、そのころはXX便みたいなシステムも無いから、こういう珍現象も起きる。
同時に、何かの出張に出かけた、平凡なサラリーマン?(違ったらすいません)にとっては、ある意味ちょっとした大冒険、帰ったときに職場の同僚に、家で自分の子供に自慢したりできる人生の一大エピソードになっただろう。この時の年齢次第では、今もどこかで生きて、時々このことを回想したりしているだろうか。ちょっと原稿を飛行機内で読んだり、当時はまだまだ「大人が読むもんじゃないマンガ」という固定観念を持っていた彼が、そのまま手塚ファンになったり…と、楽しい想像を勝手に膨らませる。
と同時に、
「燃えよペン」で島本和彦(炎尾燃)が描いて…こちらが「あはは、目的地までの飛行機に乗りこむ、見知らぬ旅客に原稿を預けるだって。実に彼らしい、大胆すぎてナンセンスになってるいいホラ話だね」と勝手に思ってたエピソードが、根と葉がちゃんとあったことに軽く驚いた(笑)
- 作者: 島本和彦
- 出版社/メーカー: 小学館
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無限のアイデア倉庫
手塚治虫は、基本的には生涯ほぼ「アイデアに詰まる」ということはなかったらしい。晩年のインタビューでも、「自分は最近、キャラクターを描く時に必要な「○」が描けなくなってきた。だから量産ができない。アイデアはバーゲンセールしたくなるぐらいあるんだけどなあ・・・」
また文庫版「ノーマン」の第2巻では高千穂遥が「手塚がいかに、アイデアを豊富に出してくるか」というのをリアルタイムで、現場で目撃した経験談を書いている(機会あればご紹介しましょう)。
ノーマン (1) (秋田文庫―The best story by Osamu Tezuka)
- 作者: 手塚治虫
- 出版社/メーカー: 秋田書店
- 発売日: 1995/05/01
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ノーマン (2) (秋田文庫―The best story by Osamu Tezuka)
- 作者: 手塚治虫
- 出版社/メーカー: 秋田書店
- 発売日: 1995/05/01
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(※ちょっと、ネタバレな感じで話しますがご注意を)
少年チャンピオンの「暴力編集長」カベムラ氏は、一応通常の連載が終わったブラック・ジャックを、今度は目玉として読みきり掲載させることを決定、若い編集者をその担当として虫プロに送る。
しかし連絡不足だったのか、それとも、元来が無理やり横車を押すプランだったのか…。
手塚プロは「聞いてないよ〜」
若い編集者は「聞いてないって聞いてないよ〜」の大ピンチ!
カベムラ編集長はいつのまにかBJ読みきりは「決定事項」にしてるし(笑)
こうなるといつの世も編集者のやることは決まっている。夜討ち朝駆けの日参、泊り込み、抜け駆け(未遂)。しかし当の手塚がその前に取り組んでいる予定は「石森章太郎との合作100P」!!
「50Pずつか、大変だなあ、うちはその後か・・・」と若造編集者は思っていたら「100Pずつ」だったりして(笑)さらに大ぴーんち。
ようやくその石森との合作作品が仕上がり、ふらふらになっていたはずの手塚は、編集者に優しく「じゃあBJの打ち合わせをしましょうか」という。
そして超多忙の神様の口から出たのは・・・
キタコレ!!
しかしこれは、手塚にとっては「スタンダード」だった。
なに?「私が考えたBJのストーリーは400近くある」(手塚治虫・談)とな!?
編集者との会話やノートの切れ端にうたかたのように生まれて消えた幻の300エピソードだが、何とか復活できないものかと夢想してしまうな。
実はこの後、チャンピオン読みきりは、
「編集者ならそう言いたくなる気持ちは痛いほど分かるが、決して言ってはいけない一言」をこの若者が発したために神様が一時激怒し、暗礁に乗り上げる。しかし、またもや「神様ならでは」のとんでもない展開によってそれを解決、作品は完成に向かう。
そしてその作品は・・・原稿を受け取った編集者が、記念にあることを・・・と続いていく。
たしかにその作品、数あるブラック・ジャックのエピソードでも屈指の名作として知られる、ある短編でありました。
神は下々の民を、苦しめる存在でもあるのだ
↑はい、おおうそ。しかもこの大ウソを前提に、とある人を虫プロのマネージャーとして就職させ、一生の仕事を決めさせたのだから、罪深い。
案の定、24時間テレビの特番アニメを数年後引き受けたが・・・
こんな理由で、ギリギリの中のギリギリの進行を遅らせまくり。
そして24時間テレビ内アニメは大好評を得て恒例となったが、アニメ番組制作・放送の「ギリギリさ」は、このシリーズをもって空前とし、そして今なお絶後とす−−−−(またも梶原調)。
とまあ、再びアニメとの二足のわらじを履いた手塚。そりゃ、漫画も再びギリギリになるまで・・・そうすると、携帯もないこの時代、旅先でネームなんぞをすると、台詞は編集者が、みんなの赤電話を占領して電話送稿する!!
なまじ当時の超人気作品と流行語なので、「ああ、あの漫画のことか」とわかったのよさ。
そして編集者も編集者なら、アシスタントもアシスタント。
救急車の資料を大至急もってこい!!と言われ・・・
いやいやいや、さすがにそこまで堕ちてはいかーーん!このあとどうなるかは単行本をお楽しみに。
しかし、ここまで自分も周囲も大変なら、ちょっと仕事を整理すれば超人的早わざとあいまって余裕のあるスケジュールになるだろう、と人間界の下々は思うのだが
なるほど、抱えている連載が一本だけなら一本だけで、その分長く考えるから本数に関係なく締め切りギリギリになると。
この台詞、かっこいい・・・よな??かっこいいよね??
神、人に挑む
はじめに自己流で定義した「4人の手塚治虫」のその4。
「(4)とにかく貪欲で全ての漫画家に勝ってやるというライバル意識、嫉妬深さを持ち続け、あの大御所がそういうライバル意識を後輩に持つこと自体がギャグ…」について。
自分が審査委員を務める漫画賞で…今でも現役で、その作品が原作の映画も近年大ヒットした某漫画家の応募作を褒めた後、「自分は実は、こんな審査員などやりたくない」と言い出した手塚。
なぜ?実は・・・手塚は審査をするより・・・
「神様に おとなになれと つぶやけり」
だが、実際神様はこのずっと後に、ほんとに「与える側じゃなくもらえる側になりたい」といって数々の賞の審査員、辞任しちゃったらしいから(※いま検索で調べたけど、ネット上には確実なソースがなかった。のだが確かに、どこかでそう読んだ記憶がある)・・
すべては好奇心のもとに!!
さて最後に、この漫画全体を通してぼくが一番好きなエピソードを。
虫プロを辞めることになったアシスタントが、感謝を込めて最新のデジタル目覚まし時計を手塚にプレゼント。喜ぶ手塚を見て嬉しくなった彼は、つい、禁断の言葉を口にしてしまう…
「その時計には、スヌーズ機能がついています」
これは言ってはいけなかったーーーーっ!!!
なぜか?
初めて「スヌーズ機能」について聞いた神様・手塚治虫は、ここを去るアシスタントへのねぎらいや感謝の気持ちなどどこかに吹っ飛び、この機能について質問攻めを浴びせたのだ!!
手塚治虫は間違い無く、漫画界のみならず「戦後日本のSFの顔」の一人でもあったが、そのSF界のもう一方の巨人に、こんなエピソードがあったことを思い出した。
■「好奇心の阿修羅、小松左京」
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20060830/p3
・・・何かの用ができて、スタジオから外に出ました、わたしもお供をしました。舗道を歩いていて、とつぜん小松さんが大きな声をあげられました。
「なんなんだ、中身は」
そう言われながら、道路を横切っていきます。行く手には、小さな洋食屋があります。いわゆる町の食堂です。
小松さんはその店のショーケースをの覗き込んでいました。ケースの脇に紙が貼ってあります。
「ランチはじめました」−−−紙にはそう書かれていました。小松さんはその紙を見て、ランチのメニューをたしかめに行かれたのです。
「つまらんランチだな」
笑いながら、小松さんは戻ってこられました。わたしは唖然としています。こんな人、見たことがありません。どこに、自分が食べもしない、魚のフライやハンバーグを盛り合わせただけのランチメニューの中身を確認しに飛んでいく人がいるというのでしょう・・・(略)
自分は超人的な仕事量や発想などを真似するべくもない。ただ、興味を持ったものには唐突にでも食らいついていく、そういう好奇心、これのみは何とか見習い、自分のものにしていきたい。
そう、思いました。
ということを最後に、またも長文に渡ったこの作品の紹介を終えさせていただきます。