来週月曜には新しい号が出ますのでその前に。
まず、さらに一つ前の回の、当道場のバクマン。紹介を再録。
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20110126/p4
「バクマン。」でネットが小道具に上手く使われた。
経緯を説明するのもややこしいけど、漫画家志望の新人(主人公のサイコー・シュージンコンビを尊敬してるが、その分作風も似ていてある意味主人公らの脅威)が、ジャンプの公募に或る漫画を投稿するが「すごく面白いが、作風がジャンプ向きじゃない」と賞には届かず。
しかしその少年、落選漫画を一気にネット掲載。「こんな面白い漫画を賞にしないなんて!」とネット世論が一気に沸騰。賞は出さないものの才能を認め、ゆっくり育てたかった編集部は困惑、「悪気はなさそうなんだが…」「いまどきの若者だねえ」とあきれる。だが、シュージンは「この騒動で、彼は一気に人気漫画家になっちゃったじゃん」と、彼の戦略なんじゃないか?と洞察する…
てな話。
ネット環境の発達に伴い、漫画ブログも次々オープンし、そこで人気を集めたり、どう見てもプロに匹敵するだろーー、ってネット漫画の存在も普通になった。そして傑作「進撃の巨人」の作者ですら、ジャンプ編集部に一度は跳ねつけられた、という実例なんかもある(また、そういう細かい業界情報が流れる社会になった)中で、それをうまーく漫画の中に盛り込んできた。さすがだ。
しかしながら、現在発売中の回でさすが大場つぐみ原作、もう一手、ネット社会の特性についてさらに深く踏み込んでの一撃を放ってきた。
前回のシュージンの読みどおり、新人マンガ家志望者七峰君の、新人賞最終候補漫画の”流出”は意図的なリーク。それで話題を呼び、自分の商品価値を高めて最速でデビューすることを狙ったものだ……と七峰君みずからバクマンコンビに告白。
いや、それは告白では無く宣戦布告というべきものであったかもしれない。
そして七峰君は、ネットへのUPはもう一つの狙いがあったと語る。
【七峰テーゼ】
・自分は編集者を信用していない
・勉強だけで大学出たての若造には何も分からない。
・担当一人の意見より(漫画を分かっている)一般人10人の意見のほうが参考になる
そして、このテーゼを実際の政策遂行でどう応用するか。
彼はこういうのだ。
(大意)「僕はUPした漫画に寄せられた何千人もの感想の中から『漫画を分かっている』と思った50人を選び、新作漫画のネームの”判定人”になってもらった。この人たちの意見を元にネームを直せば、1人の編集者と相談するより面白い作品ができる」。
一種、慄然とするようなすごみのある話で、この展開を許したジャンプ編集部もなかなか太っ腹だと正直感心する(笑)。
まあ描写的には、七峰君は裏表の激しい(激しすぎての爽快感はあるが(笑))「キラ」みたいなキャラ、つまり今の所は悪役キャラクターだし、「プロ(の編集者)とアマ(の判定人)じゃ、覚悟の量が違うんだよ……」的なブナンな着陸地点でやっぱりプロ編集者ってすげーー−!ってなところに収まるのが、今後のリアルな作者と編集部の関係のためにもよろしいかと思うが(笑)、にしてもこれが僕にぞくりという知的興奮を味合わせてくれるのは、「本当にそういう仕組みで作ってみると、面白いものができるんじゃないか?」という、少なくともストーリー上の説得力が多分にあるからだ。
一応このブログがメニューの最初に揚げている格闘技で言えば、試合を見てのその技術や選手の個性を紹介するリポート。
あるいは今回の「バクマン。」に出てきたように次々にネット上にUPされるウェブ漫画。
あるいは漫画評論、小説評論、2次創作。
たしかにこういうのを実際に見せられたらだ、「こういう人の協力を受ければ面白いものができるよ」というのはどうしても説得力を感じざるを得ないのだよ。2次創作って、自分たちが描いて発表するから2次創作なので、もしこういう話のように作者とパイプが出来て「漫画のXXX君は…の時、…って行動をとりそうですよね。そしてあれがああなって、こういうオチに」「おっそれいただき」となればふつうにシナリオライターだ(笑)。
おそらく、それはいわゆる「集合知」に関係してくるのだろう。
佐々木俊尚氏がよく言っているように、新聞や雑誌の速報性や、専門知識をいろいろ識者から聞いての「解説」は、実際に現場にいる人からのツイートや、マジモンの専門家が必ずさがしているうちにいるっぽい「ブロガー」らによって逆転される、という話をしている(そしてそれでもなお「調査報道」の分野はプロでないと担い難い、と)。
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漫画のネームや原案を見て「こうしたら面白い」「ここらへんがわかりにくいので直してほしい」というのは少数のプロにこそ、それをやる資格があるのか?、マンガ読みと言われる人たちの集団知、集合知がよりいいのか。
現実の中でも、ちょっと本当に科学的、統計的な実験としてやってもらいたい気もする(大場つぐみが実験的に現在、ホントーにやってました!とかいうオチだったらすごいな(笑))が、まずはフィクションの中で−−−−おそらく負け役だろうけど、−−−かなりの力を持ち、主人公の”強敵”として立ちふさがるモンスター「ネットの集合知」に注目せよ。
ついでに余談。「寄席芸人伝」より
ストーリテラーが、だれの芸の批評に耳を傾けるべきか?を主要テーマにした話を既に古谷三敏が書いていたな。
真打争いのライバル2人が、片方はインテリの集まる大学の落語研究会、片方が行商のバアさんに話を聴いてもらっている。落研は「内面描写が…」とか系統立てて批評してくれるが、行商バアさんのほうは「この落語に出てくるダンナ、うちのにそっくりだよ。大酒飲みで怠け者で…なんで一緒になった?さあどうしてだろうね…」とかぽつりと感想を言うだけ、だったが結果的に庶民の視点を生かせた後者が勝利する・・・・というストーリー。
まあこれは古きよき時代に、古きよきファンタジーを描いた物語なので、まさか同じレベルでバクマン。がやるわけにもいかない。それに庶民に近いのはネットの判定人のほうだろうし…
【重要追記】現役漫画家・篠房六郎氏のご意見
「空談師」「百舌谷さん逆上する」「ナツノクモ」などで有名な篠房氏が感想を寄せてくださいました。有難うございます。
http://twitter.com/sino6
sino6 篠房六郎
結局コレって、ものすごいエロいモノを作ろうと思った時、ネットで「自分の選んだ」「信頼の置ける」人を50人ほど選び出して、何がエロいのかを聞いていけば、必ず上手くいくはずって妄想の話でしかないと思う。
「面白さ」は「エロス」と違って皆で論理的に突き詰められる筈だ、って言も当然あると思うけど、結局「人それぞれの性癖による」所で絶対的な一般化は出来ないし、全部言語化することも不可能だと思う。
集合知が上手くいってるケースとしては、とにかくスタッフ皆で話し合うピクサーの話作りの例があるけど、それも各所からとびきり優秀な人達をスカウトして高額で雇っている訳だからして、結局やっぱこのケースでは、集合知は「上手くいかない」って所にしか話は落ち着かないと思う。
(後略。※現在、このツイートを含むtogetterができています。)
http://togetter.com/li/97079
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【さらに追記】続編書いてみました
その次の号のバクマン。が出たので、それを読んでの感想など。
■バクマン。新展開話続き。ライバルの”集合知”はやはり悪役?だがやっぱり強い!どう敗れるのか。
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20110207/p2