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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

本日NHKで「スポーツ遺伝子」特集。厳正なる事実か、差別と偏見か?そして格闘技は?

放送当日ということで、再度掲載したい。

http://www.nhk.or.jp/tsuiseki/file/next.html

2010年 2月13日 土曜 午後10時30分〜11時13分

“金メダル遺伝子”を探せ

世界のトップ・アスリートが人類の能力の限界に挑む祭典、バンクーバー・オリンピックが目前に迫る。そんな中、運動科学の研究者たちが熱い視線を注いでいるのが“金メダル遺伝子”の存在だ。最新の遺伝子研究によって、スポーツの分野で並はずれた結果を残す選手たちが、それを可能にする特異な遺伝子、いわば「金メダル遺伝子」を持っていることが明らかになってきたのだ。

普通の人より血液中のヘモグロビンを多く作ることができる遺伝子、短距離走に有利なタンパク質を生み出す遺伝子などが次々に発見されている。実際、短距離走で世界記録を打ち立てた選手を多く生み出し、“カリブのスプリンター工場”と呼ばれるジャマイカで行われた調査では、短距離走者の75%が ACTN3(RR型)と呼ばれる短距離走に有利な遺伝子を持つことがわかった。

さらに、こうした研究を選手の選抜や練習方法に生かし、成果につなげようという動きも始まった。

“金メダル遺伝子”は人類の新たな可能性を切り開くことになるのか?あるいは誰もが持つはずの可能性や、地道な努力の意味を否定することにつながるのか?最新科学がもたらした新たな問題を追跡する。


この話は何度かしただろうか。
私が小学生のころ、ゴング(ゴン格じゃないよ)で記者が思い出話として書いた文章が、鮮烈に印象に残っている。記者は今から、他の資料とつき合わせてみると、菊池孝氏で、語った人はボボ・ブラジルらしい。

【大意】
私はあるとき、黒人プロレスラー(たぶんボボ・ブラジル)に「なぜ黒人のレスラーに、バックボーンとして以前、アマレスをやっていた人が少ないんですか?」と尋ねた。
すると普段は温厚なそのプロレスラーはカッと目を見開き、感情をあらわにして今にも私に殴りかからんばかりだった。私がうろたえると、そのレスラーは落ちつきを取り戻してこう語った。
「お前、そんな質問を他の黒人レスラーにいうなよ・・・だがいい質問だ、答えよう。俺たち黒人が活躍できるスポーツはたしかにたくさんある。ボクシングのような格闘技だってある。だが、レスリングは肌と肌を合わせるスポーツだ。・・・・だから黒人がその競技をやろうとすると、いい顔をされないのさ。もうひとつそういう競技がある、水泳だ。白人にとっては、水を通して肌が触れるような感覚なんだろうな。わかるかい、このタブーが?」

私は、一言もかえせず、うかつな質問を恥じた・・・・

その後UFCを通じてアメリカのレスリング・アスリートを知ることができたわたしはケビン・ランデルマンランペイジ・ジャクソン、キング・モーらがそれぞれ実績があると聞いて、ときおり感慨にふけっていたのだ。

果たしてどこまでこれが事実なのか、
アメリカのレスリング史に詳しい人(流智美那嵯涼介氏など)に検証をお願いしたい気もする。大会優勝者や上位者の記録を見れば「そうでもないんじゃ?」ってことになるかもしれない。差別は得てして、被差別者のほうの被害意識も、事実には基づかない都市伝説のように拡大していくこともあるから(またそれが「やつらは嘘つきだ!」的な別の偏見を呼ぶなど、そうやって相互の不信が拡大するから差別は厄介なのだ)

また、「フィギュアスケートは白人ばかり」のように、たとえば「門戸自体は開かれている」→「けどスポーツの特性上、習うのにお金がかかる」→「余裕のある層がやることが多い」→「結果的に、人種や民族の偏りがある」というようなパターンも多く、これが徐々に日本や韓国の活躍で打ち砕かれていく、ということもなくはない。そういう意味もレスリングはともかく、スイミングクラブを基盤とする水泳はあったのかもしれない。
さらにいうと、「青森県ではみんな授業で版画がある(棟方志功の影響)」というナンシー関のように「まだ貧しい時代、黒人で成功したのはボクサーや野球選手に限られた」→「みんなが憧れて、猫もシャクシも野球やボクシングをやる」→「仲間内でもうまい子が人気者になったり、異性にもてたりする」→「結果的に素質のある子が育つ」というパターンもあるし、これは逆に「本当なら文化、ビジネス、政治の場で活躍できる人がいてもいいのに、そっちの道が閉ざされているから、結果的にスポーツの世界しか目指せない!」という批判も生む・・・(在日韓国人のスポーツ、芸能、大企業ではない起業からの成功もこれで説明されることが多い)

さらにいうと、「黒人」の中にも、出身地的に長距離が向いているところと短距離が向いているところ、などの違いもあるとか。



だが。
そういう社会的なバイアスをすべーて排除した上で比較ができるとして、あえて人種とは言わないが、遺伝的な意味でスポーツのできるできないに、何かの偏りがあると裏付けられたら。
そんな個人差があるのは当然だ、で解決してもいいのだろうし、あるスポーツは白人に向いていて、あるスポーツはアジア人、あるスポーツは黒人向け・・・というのがあるのも当然かもしれない。当然例外も、数え切れないほど存在するだろう(例外を認めようとしないと、この種の理論はすぐにトンデモ化する)。
とまあ、二重三重に補足を張ったが、そういう結果が今後出るかもしれないし、出ないかもしれない。
逆転した見方だが「本当だったらこのスポーツの特性上、黒人のチャンピオンが輩出されて当然なのに、まだ白人のチャンピオンが多い。ゆえにこのスポーツは、まだマイナー競技なのだ」というような主張だって確実に存在するのだ。いやUFCに対してだよ。


このへんを追及していくと、何べんも繰り返すが「民主主義・人権」と「医学・科学的事実(仮説)」は時として対立する。きしみを見せる。その軋轢は、これらに詳しい。

黒人アスリートはなぜ強いのか?―その身体の秘密と苦闘の歴史に迫る

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アメリカのスポーツと人種

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特に前者は「タブーについに挑戦した!」「こんなことを書いていいのか!!」と当時アメリカでは騒然となったそうだ。
アマゾンの書評を紹介しよう。

本書はまず驚異の事実を告げる。NBAの80%、NFLの65%、さらには100m走歴代100傑のすべてを黒人が占めているというのだ。そして、黒人のなかでも西アフリカ系・東アフリカ系の区別、ケニヤマラソンの驚異的な力‥‥、これらの事実を知るだけでも本書の価値はある。

 その後、強さの理由を、遺伝子に、生理化学に、人類学に、はては精神史から探ろうとするのだが、しかし圧巻なのは、黒人アスリートがこれまでたどってきた歴史である。

 ジャック・ジョンソンやジョー・ルイス、ジャッキー・ロビンソンらが闘ったのは、単に対戦相手だけではなかった。白人社会の差別という巨大な敵との間に、どれほど熾烈な戦いがあったか。そして、黒人の勝利の後、白人はスポーツでの敗北をどうやって埋め合わせようとしたのか!

本書は、黒人選手が運動能力が高いことを遺伝論・進化論の観点から科学的に
実証した、説得力の高いものである。

しかし、本書の真のテーマは、「なぜこの問題がこれまでタブー視されてきたか」である。それは、Taboo-why black athletes dominate sportsand why we are afraid to talk about it という原題から明らかだ。

つまり、「運動能力に人種間の差があるなら、知能にも差があるのではないか」という問に発展するからタブーなのである。

大学の論文
http://webg.musashi.ac.jp/~kokoharu/text.htm

その一方に、人種間には遺伝的に規定された運動能力の優劣が存在するとする、「遺伝派」とでも称すべき先天主義者がいる。遺伝的なアドバンテージゆえ、黒人は瞬発力や鋭い反射を必要とする種目で圧倒的に有利である、それゆえ国際大会でのメダル独占やベスト記録の保持が可能である、非黒人はいくら努力しても遠く及ばない、等の主張がこの立場からなされている。それはまた、しばしば人種間の知能差論争と連結して、極端な人種像の形成に力を貸してきた。曰く、黒人は生まれつきのアスリートだが、知能的に劣っていると。


そしてもう一方に、運動能力の発達は、知能同様、社会・文化的環境の力によって促されるとする、「環境派」とでも称すべき後天主義者がいる。曰く、アメリカ黒人のスポーツでの傑出は、長年の人種差別が他分野での成功機会を著しく制限してきた結果に過ぎない、差別が撤廃されれば、黒人の才能は多方面に分散され、スポーツでの傑出も目立たなくなるだろうと・・・

そんなこんなで今夜10時半から放送。
◇直接的な参考リンク
■アフリカ系の選手の肉体的特徴とタブー
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20070206#p2


◇ちょっとばかりの参考リンク
ランペイジのPRIDE離脱   の噂に関して
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20050702#p1

ランペイジの過去と未来・後編
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20050703#p1

ランペイジ論・完結編
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20050705#p1

■クイントン・ランペイジ・ジャクソン「ホームレスと宣伝されたのは恥ずかしかった」(GONKAKU
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20070925#p1


上の関連。ユダヤ人を入れないスイミングクラブに、マルクス兄弟は・・・

アメリカの漫談「スタンダップ・コメディ」を紹介した本から引用する。たぶんグルーチョだったと思うけど、違うかもしれない。
やはりさっきの「水泳タブー」は本当なのか、ユダヤ系ということでグルーチョ?の娘がスイミングクラブの入会を拒否された。
これに対して父親は

「よし、こうしよう。私の妻は非ユダヤ人で、したがって娘のユダヤの血は半分だから、腰まで浸からせてくれ」

スタンダップ・コメディの勉強―アメリカは笑っている

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