【書評十番勝負】(ひさびさだ)
たぶん今日から数日、1エントリ書けるか書けないかという感じになりそうなので、とりあえず積み残したこの話題を、大急ぎで書こうということになりました。
というのは、本日が月刊アフタヌーンの最新号発売日だからです。
(これから書く、すごいなあというエピソードは「先月号」となりもう読めないのは申し訳ないのだが、漫画喫茶を活用したり単行本で読んでください)
柔道漫画「からん」の作者・木村紺。はてなを見る限り、そんなに話題沸騰!の作品と作者ではないのだが、なにしろ穏やかな中に鋭い刃を秘めた、不思議な名作「神戸在住」をかいた人である。
「神戸在住」の凄さは、最終巻発売に際し評判を呼んだ、このブログのエントリーをご覧ください。
■誰よりも硬派でした「神戸在住」(深町秋生のベテラン日記)
http://d.hatena.ne.jp/FUKAMACHI/20080502
ちなみに、これに触発されて私もほんの少しだけ書いた。
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20080503#p3
作者のこの人はウィキペディアの項目を見ても、梶原「列伝」の中のタイガーマスク並みに正体不明の人です。
私を含め、多くの人がそう思ったんじゃないかと推測するのだが「神戸在住」はこの人の実体験や交遊から生まれたワンアンドオンリーの作品で、失礼ながら、一からのストーリーテリングや幅広いジャンルの作品をかけるかどうかは未知数だというイメージを持っていた。
ところが不定期連載の「巨娘」(肉体的にも性格的にも、ごっつくて乱暴で欲望に忠実(でも一応は美人)な女性のヒロイック(というのか?)な活躍を描くもので、期せずしてフェミニズムの批評および代案?になっている)をふくめ、この「からん」によって、そのイメージは少なくとも私からは一掃された。
「からん」のストーリーと登場人物、そして先行作品を補助線にする。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%8B%E3%82%89%E3%82%93
みてね、ですませる。ああ楽だ。ちゃんとこういう項目をつくってる人がえらいっす。
舞台は女子高&そこの柔道部なわけだが、わたしが読んで、「あの作品に似ているなあ」と感じたものがあります。それは何でしょう?
この作品を読んでいる方はちょっと読むのをやめて数秒考えてください。
「柔道部物語」? それもある。
「帯をギュッとね!」? それもある。
「スラムダンク」? それもある。
「笑う大天使?」? ちょっと違うがそれもある。
・・・・・・・・・だが、わたしが一番「似ているなあ」と感じたのは・・・村上もとか「龍」の学生編だった。
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舞台が同じ京都ということを抜きにしてもです。
ひろいブログ界では既にだれかが指摘しているかもしれないが、自分では「ああ、なかなかいいところに気付いたな俺」と自分を褒めています(笑)。
「型破り名物生徒(教師)もの」
お固く閉塞した(もしくは荒廃した)環境の学校に、突然主人公の<新入生・転校生・新任教師>が現れる。保守的で頭の固い<先輩・先生・優等生>からは最初、苦々しい目で見られるが、積極的で活発な主人公に引きずられるように理解者や仲間が増えていき、学園にはパッと花が咲いたように大騒動や新しいチャレンジへの動きが生まれていく・・・・
というのは、ひょっとしたら70年代の青春ものテレビドラマとかコメディに端を発しているのかもしれないし、あるいは番長漫画や、少女小説や少女漫画のほうにこそもっと類型があるのかもしれない。
ただ、「からん」が格闘技漫画としておもろいのは、上の「苦々しい目で見る」先輩たちに対しても、直接対決の乱捕りがある以上、合法的に下克上する機会があること。「龍」の主人公はピュア、無意識に、からんの主人公はややダーク、意識的に(笑)、この下克上をやるのだが、そういう点でもこの2作品は似ている気がする。
部活動漫画としての多士済々、そして技術論。
部活動漫画というのは結局個性派があつまり、名脇役やコメディ・リリーフ、主人公の指導者、半分悪役で半分いいやつなどが集まった「チーム●●」として立ち上がるかどうかが決め手なのだが、ウィキペディアの紹介を見ていただくと分かるように、なかなかこのツクリが巧い。
現在は主人公のはるか上に位置しながらも、主人公の潜在能力を見抜いてしごきつつ可愛がる人がいる。
ひょうひょうと冷静にチームを俯瞰する名補佐役がいる。
先輩ながらも、主人公の才能や目立つ振る舞いに嫉妬する人がいる。
今のところ素人同然でも、負けん気と努力だけは人一倍の人がいる
そして、型破りで周囲を振り回す主人公がいる!!
ここに女子高的な、そして京都的な、不思議な雰囲気を加えてお客には出されるから、他作品との比較が稀なのだと思うが、皮をむいていくと実は中核部分に、非常に正統的な格闘技ストーリーが現れてくるのである。だから上のようなタイトルにしたのだが。
女子バレーボールでいまどきかっこよく熱血している姉妹誌イブニングの「少女ファイト」と比べるのも一興。
最近、特に格闘技だけでなくスポーツ漫画全体のトレンドとして、スポーツ医学・科学のうんちくをちりばめることでリアリティを増していく傾向が見られる気がする。別にリアルにする必要もなく、某バキのようにその断片的なトピックを牽強付会のこじつけの材料にしたっていいのだが(笑)、からんはきちんとそのへんを盛り込んでいる。
一応前者に属するまっとうな解説だが、ガサツに見えるキャラクターが柔道に関しそういう論理的な話をすることで、「単なるランボーものではないんだな」と思わせる効果があることと、あと、「今は凄く弱いがとにかく負けず嫌いの練習の虫」というキャラクターが今後重要な役になりそうなので、その子の成長の伏線という効果もあるんじゃないかと。
これは今のところ、当て推量です。
今月号は必見!!格闘技・ヒーロー漫画の「師匠に挑戦」編について
んで、そういう作品であるとは前から評価していたが、「いや、こりゃあ凄いぜ!次が待ち遠しいぜ!」的に、男(および女)の魂に火を付けるのは、先月号から「主人公、師匠(先輩)に挑戦す」という話になっているからであります。
ちょっと上のウィキペ人物紹介を、あらためて少し編集して引用しましょうかね。
高瀬雅(たかせ みやび)※主人公
1年葵組。162 cm・46 kg。醍醐北中学出身。
明朗快活で陽気な熱血少女だが鋭い観察眼と巧みなコミュニケーション能力も併せ持ち、周囲の事を考えて冷静な行動もできる。九条ら1年生初心者が柔道部へ入部するように導いた。中学時代には44 kg以下級で京都2位に入った実績を持ち、部内でも大石に次ぐ実力の持ち主(略)。
大石萌(おおいし めぐみ) ※その先輩、部のリーダー
3年生。主将。
前年度のインターハイで2年生ながら全て一本勝ちで48 kg以下級ベスト4に入り、今年の優勝候補。力に物を言わせた攻撃的なスタイルで得意技の袖釣り込み腰は超高校級とされ、立ち技(投げ技、特に担ぎ技)のスペシャリスト。高瀬の見立てでは本物のトップアスリート。言動・行動共に豪放磊落で性格も大雑把な面や男気溢れる様子が目立つが虫は苦手。
主人公の少し先輩、師匠に、実力や人格的に抜きん出た(人格は欠けているパターンもある(笑))、仰ぎ見る存在がいて、主人公もストーリー全体も強烈に引っ張っていく個性がある・・・という作品はそれなりにある。
はじめの一歩、スラムダンク、究極超人あ〜るなどなど。一部余計なものがまじった。
で、それをやっていくと、時々「この先輩と主人公の差はどれぐらいあるんだ?」ということが興味の対象になっていく。状況的に作中で実現できるかどうかはそれぞれだが、「すごい先輩(師匠)vs主人公」が作中で実現すれば、それは盛り上がるわけで、格闘漫画の中には数々の、先輩と主人公が敵味方に分かれての「先輩チャレンジ」が行われてまいりました。
ところが、その中でも今回の「からん」は、引っ張り方が抜きん出ているんですよ。
大石萌先輩はこれまでもその豪放磊落ぶりを、1年以上にわたって細かいエピソードで積み重ねてきました。
「この前ナンパされたんだって?」
「ああ」
「まさか柔道使ったんじゃないでしょうね?」
「アホな、柔道使うかいな。きっちり空手だけ試し斬りしたわ」(大意)
というようなエピソードもあるぐらいで。
とにかく彼女はインターハイ優勝候補。中学チャンピオンとはいえ1年の主人公・雅とはあまりにも差があります。
しかし雅は、通常の練習の時のセンパイはまだ本気じゃない、100%の先輩を体験したい、という動機でしょうか、先輩を挑発して、ガチンコスパーをやろうと試みはじめます。(すでに大石主将以外は、先輩の誰も雅にはかなわない状態)
その様子に気付いた、大石主将のよき補佐役であるこの人
吉見百(よしみ もも)
3年生。副主将。
柔道は弱く3年だが白帯。父は百貨店の社長、祖父は電鉄グループの総帥という正真正銘のお嬢様。優しくおっとりした性格で大石のストッパー役に回ることも多い
が、そういうことはしないよう雅に釘を差すのだが、その描写がすごいんだわ。
ここを正確に描写できないのは申し訳ないが、おおむね、こんなことを雅にいう。
吉見
「あんた(雅)は、大石主将の2年生までのことをしらんやろ。
あの子は当時、本当にギスギスして、ギラギラした、強さに飢えた狼のような子だった。
やっと3年になって、少し人間的に落ち着いてきた。
それをあんたが挑発して、またあのときのような彼女の攻撃性を呼び戻さないでくれ」(大意)
いやー、かっこいい。
今までも十二分に強さを示してきたキャラクターが、実はまだ力を封印していて、秘められた本当の力があるという!
陳腐といえば陳腐かもしれんが、逆にいうと、こういうお約束のパターンをどう演出するかが見どころなんです。いつも穏やかでやさしい補佐役が「あいつを暴走させるな、させないためにおまえは自重しろ」と主人公をいさめる、というのは、少なくとも俺にとっては「うぉぉぉぉ」ものでした。少年漫画で作品に火が付く、あの瞬間を感じさせたっす。心はテリーマンvs魔雲天の続きが気になって、なけなしの小遣いからお兄さんとジャンプを買うことを決めたあの日に戻ったような。
そして、その忠告を聞いた雅は有難くも練習時間、乱捕りのときに
「いやー、先輩強いですね。でも、寝技ならわたしは負けないですけどね!」と確信犯で言い放つ。
「ほーお、面白いこと言うやんけワレ」と、大石先輩は笑顔ながらもこめかみに血管ピクピク状態(笑)。
いや、たしかに柔道において、立ち技と寝技の強さはまた別で、立ち技ではかなわなくても寝技で互角以上になる、という話は競技の構造上、実際に存在する。
その実際に存在する枠組みを使って、「主人公vsいつも主人公が仰ぎ見る先輩」の師匠越え対決の、勝負の行方を分からなくするストーリーの組み立て方!!川尻達也がK-1ルールで云々とは違うのだ(笑)。
そういう形で盛り上がった上で、たぶん本日発売の最新号で、おそらく主人公・雅vs大石主将の寝技対決が行われる。女子高の、とか女子柔道の、とかではなく、格闘技漫画としての「からん」に期待してほしい次第である。
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補足・ゴン格「私と格闘技」でインタビューを
まあ格闘技漫画家だけになってしまうのもよくないのだが、ちょっと話をいろいろ聞いてほしいものだ。正体不明だから、申し込みを断わられてしまうだけかもしれんけど。