http://d.hatena.ne.jp/fullkichi1964/20080607
で知った訃報。
SFの世界も派閥抗争は激しく、私は「思考実験・シミュレーション的異社会もの」派なので、スペースオペラは「銀英伝」を除いてほとんど読んでいない。
だが野田氏は、ご存知の通りリアルな宇宙開発についてもいろいろな啓蒙活動をしており、また何と言っても子どもたちの教科書「ひらけ!ポンキッキ」の製作者にして、永遠のアイドル「ガチャピン」のモデルになった人でもある。
当然、そういう点では十分に知っていた人だが、私にとっては業にまみれた愛書コレクターとしての面が、一番印象に残っている。というのはかつて筒井康隆が編集に携わった
「日本SFベスト集成」
というシリーズ本があった。この73年版に、
「タイム・ジャック/小松左京」
「不安の立像/諸星大二郎」
「さまよえる騎士団の伝説/矢野徹」
「交代制/星新一」
「熊の木本線/筒井康隆」
などとともに野田氏のエッセイ、
「コレクター無惨/野田昌宏」
という一編が収録されている。
神田の神保町にはかつて、北辰一刀流の道場があり、他流試合も華々しく行われた(と思う)が、一番有名な「神保町の決闘」とは、上の「コレクター無惨!」にある、伊藤典夫とのSFペーパーバックをめぐる争いである。
今まで二束三文で、自分しか集めていないはずと安心していた野田大元帥の隙をついて、つぎつぎと棚から貴重本を奪っていく謎の男。対抗するもなかなか相手も一歩も引かず、ついに野田氏は「俺と同じくSF本を集めている謎の男よ、一度会おうではないか」と街に張り紙をし、ついに対面する。
それが伊藤典夫であり、その後はヒトラーとスターリンのような相互不可侵条約を結ぶ(笑)。
ウィキペディアの「野田昌宏」にもあるが、蔵書は先に死んだ人のものをもらうことになっていた。
もちろん古きよき時代のSFファンらしいジョークの意味もあるが、上の作品の中でも、野田氏がその蔵書をトラックに満載して新居に引っ越す時、バランスを崩して荷台から落ちそうになったとき、「(手伝いに来ていた)伊藤の目が『こいつ、このままトラックから落ちて死なねぇかなあ…』という目をしていた」と回想している(笑)。もっとも野田氏は野田氏で、伊藤氏に薬物入りの茶を飲ませてコレクション無償譲渡契約書にサインさせるプランだったそうだが(笑)。
SFファンならSFファンらしく、悪乗りのジョークで送るのもひとつの流儀だろう。
私としては、このエッセイを資料として、警察に「いちおう、伊藤氏のアリバイを調べてみたほうがいいのでは」と忠告しておくことで追悼に替えたい(笑)。
そして、
大元帥閣下に
敬礼!!